◆日時:2019年5月20日(月)14:00~17:30
◆場所:天神クリスタルビル3F大ホール
◆講演:吉田敏晴、杉﨑光義
◆パネルディスカッション:コーディネーター 屋井鉄雄 パネリスト 伊豆美沙子、芦刈宏士、前佛和秀、井上利一
◆主催:NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク
◆後援:一般財団法人日本みち研究所、無電柱化を推進する市区町村長の会、道デザイン研究会(国交省道路局)、一般社団法人無電柱化民間プロジェクト実行委員会、NPO法人「日本で最も美しい村」連合、公益社団法人土木学会、西日本新聞社、(株)テレビ西日本、日刊工業新聞社、九州朝日放送、(株)福岡放送、LOVE FM、TVQ九州放送、読売新聞社、CROSS FM、RKB毎日放送、NHK福岡放送局
◆本シンポジウムは、土木学会のCPD認定プログラムです。(3.3単位)

1.主催者あいさつ

 NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク理事長 髙田 昇  代読:当NPO理事 伊津元博

思えば12年前、NPO法人を小さな動きとして立ち上げた頃とは全く状況が変わってきた。その後、様々な団体も立ち上り、連携しつつ「無電柱化推進法」制定に力を尽くし、事業推進、啓発活動を展開してきた。
そして、悲願の「無電柱化の推進に関する法律」が2016年12月に施行されて、2年余り。しかし、それは電柱・電線類に覆い尽くされた日本の空を、美しく、安心して仰ぐのには、ほんの第一歩に過ぎず、その実現には余りにも多くのハードルがあることも分かってきた。だが、それはすべて克服できることも確かだし、そのための努力や研究、行動が官民あげて急ピッチで進められ、すでに新しい実証も見られる。
とりわけ、九州は台風、豪雨、地震と災害の多いところであり、同時に、国の計画では、すぐにも無電柱化すべきとされる重要伝統的建造物群保存地区が24ヵ所と、全国でも一番多く、世界遺産も3ヵ所あり、無電柱化が求められ、急がれる地域でもある。また、多くの外国人観光客も九州を目指し、楽しみにしている。
今日を一つのきっかけとして、九州の皆さんが無電柱化の旗の元に一人でも多くの方や団体が集まり、そのミッションに向かわれることを強く願っている。私たちも精一杯の応援と行動を共にしますので、どうか宜しくお願いします。

2.来賓あいさつ

衆議院議員 宮内秀樹

私の地元である福岡で無電柱化のシンポジウムが開催されることを大変喜ばしく思っている。
私は、昨日まで韓国でも有数の観光地である慶州に視察に行っておりました。その慶州では、見事に電柱が1本もなく景色が非常に素晴らしい。地元の宗像市でもこの度、世界遺産となった。地元関係者とともに無電柱化を進め、素晴らしい観光スポットにしていきたい。無電柱化の推進には、非常に高いと言われている無電柱化工事費の低コスト化の実現と、住民の理解が必要だ。政府・関係者(行政・電力など)・住民が一体となり、また当NPOがどんどん低コストの提案をして無電柱化の推進を盛り上げていただきたい。

九州地方整備局長 伊勢田敏

私は、2年半前、まさに宮内先生が国会で奔走され、無電柱化推進法を成立させた時、国交省の道路局に勤めていた。この度、九州地方整備局に移ってきたので、これからここ九州の地で本格的な無電柱化の加速に携わっていく予定だ。
無電柱化が始まったのは、約30年前。丁度、平成とともに歩んできた感じだ。この30年間で無電柱化された道路は、約800km。私どもの直轄国道で300km、県道で200km、市区町村道で300kmが実現している。
九州地方整備局では、電力・通信会社との協議会を設け、その事務局的な役割を今後も担って、無電柱化を進めていきたいと思う。

3.講演 「無電柱化推進計画の概要」

国土交通省 道路局 環境安全・防災課 交通安全政策分析官 吉田敏晴

無電柱化は、以前は「景観面」を主に考えていたが、最近の情勢を踏まえて、「防災」や「安全」についても重視されるようになった。欧米諸国の主要都市では、完全な無電柱化を実現しているところが多い。近年では、アジアの諸都市でも無電柱化の整備が著しい。日本でも幹線道路クラスでは整備が進んでいるが、欧米諸国では狭隘な道路や災害道路でも無電柱化されている。
国交省が進める現状の推進計画・3カ年計画では、平成30年~令和2年で1400km、更に2020年までで約1000kmの緊急輸送道路の整備を進める方針が決まった。年ペースで考えると800km/年となり、今までにない距離数となる。
昨年発生した台風21号では、大阪府を中心に1700本以上、最大260万戸が停電した。地震だけでなく、台風にも電柱が弱いことが露呈された。
この道路延長を行うためには、現在のコストの2分の1にしないといけない。低コスト手法について、様々な手法が検討されている。今後の課題として、増え続ける電柱の問題がある。電柱は現在も年ベースで7万本増えている。緊急輸送道路の占用禁止に加えて、新設道路も占用禁止を行っていく。ニュータウンをつくる際に無電柱化できるところは占用の許可を出さないようにする(土地の条件を見極めて)。

無電柱化の方法 実現状況 現状と課題
浅層埋設 実用中 コストが高い
小型ボックス 実用化(国内数例) 意外と高くついている。さらなる低コスト化を。
直接埋設 実証実験中 海外では実用化されているが、日本はまだ検証中
その他の方法
既設管路を活用する。(既設管路が意外と残っている)
道路整備と併せて地中化をすることでコストダウンを。
FEP管やCCVP管の改良など、低コスト製品の開発

3.講演 「アジア3カ国の無電柱化最新事例」
     一般財団法人日本みち研究所 常任参与 杉﨑光義


昨年の9/17~22の6日間、シンガポール、バンコク(タイ)、ハノイ(ベトナム)の3カ国の無電柱化事情を視察。無電柱化に関わる様々な企業・機関の専門家が参加した。その視察会の報告をさせていただきます。

視察国 無電柱化の状況や考え方 日本から見て参考になる点

シンガポール

・電線・電柱は地中化が当然という住民認識
・地上機器の配置等について、道路の種別、線形や設計速度等に基づき、基準を設定。
・基準は常に見直しを行い、実情に即した形に更新(統一基準のため、更新が比較的容易)
・LTAウェブサイトからオンライン上での工事許可申請や工事状況の管理。
・電線管理者は電線類の占用料が不要
・災害時の安全安心を考慮した、地中化意識に関する啓蒙や教育。
・実情に応じた柔軟な基準等の更新や管理区分等によって異なる基準類のあり方。
・オンライン上での一括管理による工事許可申請。(ペナルティまで導入できるか?)
・道路占用料のあり方。
バンコク(タイ)

・景観に配慮して設備類の塗装、塗装色の工夫。
・歩道中央部へ設備・機器を配置したり、空間への配慮に欠ける部分あり。
・地中化工事終了後も、通信線を撤去せずに残している箇所も見られる。
・道路景観と無電柱化関連設備との調和や他の道路施設との配置上の取り合い
・電線や電柱の撤去までを含めた一連の工事の実施
ハノイ(ベトナム)

・歩道上がバイク置き場+物売り場として利用されており、無電柱化もそれに配慮しているように見受けられる。
・無電柱化により、歩道の機能が低下することに対して配慮に欠ける部分あり。
・無電柱化の設備類が大きい。
・郊外部の新市街地では開発時にデベロッパーが通信線を予め地中に埋設。
・歩道での活用形態への配慮
・駐輪スペースや滞留スペースとの共存
・地上機器等のコンパクト化
・デベロッパーとの連携

 

4.パネルディスカッション 「九州で低コスト無電柱化を進めるには」

パネルディスカッションでの登壇者の主な発言

1. 無電柱化の意義と課題 屋井鉄雄 東工大副学長 

①電柱が増えている:東北の被災地。津波対策で高台にして造成したが、道路の次に真っ先に建てられたのが電柱。その2年後には住宅建設が完了し、いつもの電線・電柱のある街に戻ってしまった。電力・通信は重要なインフラなので、優先させるべきものだが、電柱・電線はやむを得ないのだろうか。
②以前高齢者ドライバーが事故を起こした狭幅員道路:通学路にもなっている道路だが、電柱1本撤去しても始まらない状況なので、事故後に取った対策は電柱の周りにボラード(プラスチック製のポール)を設置した。これで安全対策できたかというと出来ているとは言い難いが、現状の対策ではこれが精いっぱいか。
③景観について:世界遺産のような場所は明確な基準があるので無電柱化を図るべきだと意見を統一できるが、地域については自治体ごとに決めていかなければならない。予算についても踏み込んで考えなくてはならない。その一定のルールを作るのは難しい。この九州の地元でもいい風景のところに無節操に電柱、電線が張りめぐらされている。莫大な予算をかける必要はないので、低コストでできるちょっとした工夫を検討していただきたい。
④トランスの問題:先ほどの話にもあったが、アジア諸国のトランス(地上機器)は日本に比べて大変大きい。「日本は小さすぎるのでは」という声が聞こえてくる感があるが、アジア諸国は200Vであるのに対して、日本は100V。更に日本の歩道は幅員の狭い道路が多いので、コンパクトにする必要がある。

2. 無電柱化及び低コスト化への取り組み状況について 井上利一 当NPO法人 理事兼事務局長  

当NPOでは、行政職員への勉強会を各地で開催している。無電柱化を推進する市区町村長の会と連携して今後も進めていく。その他、小学校や大学へ出向き、無電柱化出前授業・出張講義を行っている。無電柱化推進法の中でも啓発活動が謳われている。市民の皆さんの「無電柱化の方がいい」という考えが増えれば無電柱化がより進むと思う。
昨年の6月の大阪北部地震で大変怖い思いをした。その際、幸いにも電柱は倒れなかったが、最大震度7を超えると電柱の倒れる可能性が高まることがわかっている。また昨年9月の台風21号では、本州では珍しいが電柱がかなり倒れた。当時、関西空港周辺では、最大瞬間風速が58.1mを記録した。台風に関しても風速が40mを超えると電柱は倒れる可能性が高いし、識者の予想では、今後も今回のような大型またそれ以上の台風が発生しやすい状況だと聞く。
無電柱化の低コスト導入に向けて国土交通省の道デザイン研究会(屋井先生が座長)があり、その下部組織・無電柱化推進部会の中に民間の企業や個人で形成されている民間ワーキンググループがある。その民間ワーキンググループの主査を井上が務めさせていただいている。
民間の技術や工法を広く集めて、国土交通省へ提案している。2年間活動していて、HP等でも低コストを募集し、検証している。今回採用されたものは国土交通省のHP「道路の無電柱化低コスト手法導入の手引き/Ver.2」にリンクのバナーある。
一本でも無電柱化事例を紹介。費用は高額になってしまうが、実現は可能。無電柱化の交渉に私どものような民間の知恵を導入することによってコスト減や実現可能な方法を生み出すことができるので、是非活用してほしい。

3. 無電柱化への取り組みとその特徴・課題 伊豆美沙子 宗像市長

福岡県では初めてとなる官民連携の無電柱化事業が採択された。これは、2年前に「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群が世界遺産登録されたことが大きな要因である。宗像市は、景観計画で基本方針を三つの柱で計画している。一つは、歴史・文化資源及び周辺景観の保全による各地域の変遷を踏まえた景観の形成、二つ目は、海・山・川などの自然景観への配慮による連続性と一体性のある景観の形成、そして三つ目は、住宅地及び市街地の景観誘導による魅力ある都市空間の形成である。
景観重点区域に世界遺産に配慮した区域があり、宗像市は豊かな景観を保全し、後世に引き継いでいく為の取り組みに重点を置いている。その中の一つに無電柱化の推進が含まれている。
宗像市官民連携無電柱化支援事業として国の動きとして「無電柱化推進計画」の策定、そして宗像大社辺津宮(へつぐう)周辺の無電柱化を170m実施(宗像市官民連携無電柱化支援事業のモデルケース)する予定だ。他に、県が行う宗像大社周辺の県道の無電柱化整備と連携して取り組んでいく。

4.無電柱化への取り組み状況と今後の方向性について 芦刈宏士 九州電力 送配電カンパニー配電本部配電部長

①九州電力管内の無電柱化実績:1986年から計画的に実施し、これまでに約820㎞が完了。現在は「第7期無電柱化推進計画」及び「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」に基づき204kmの工事に着手している。②配電設備の概要及び地中設備の紹介:変電所から送り出された電気を直接お客様にお届けする設備。工場や大きな商業施設には高圧(6,600V)で直接供給し、一般のご家庭などには変圧器で降圧し、低圧(100/200V)で供給している(配電設備には事故や故障が発生した際の影響を小さくするため、開閉器が設置されている)。地中化する場合の設備も同様であり、変電所から送り出された電気を、高圧の地中ケーブル、開閉器塔、変圧器塔及び低圧分岐装置などにより、お客様へ電気をお届けしている(地中化の場合、上記の機器を路上へ設置することが必要)。③架空設備と地中設備の得失と地中化における課題:地中化の実施にあたっては、特に建設コストの低減と機器の設置スペースの確保が課題となっている。

5.九州における無電柱化の意義と方法、課題等について 前佛和秀 九州地方整備局道路部長

各県別の無電柱化の状況はどの都道府県とも低く、まだまだ無電柱化整備を進めないといけない状況ではある。九州は、昭和61年から整備を開始し、30年以上経過しているが835km整備されている。熱心にやっていた平成11年~15年あたりで、年間で40kmを実施した。平成30年度から令和2年の3か年で年間70km整備計画を立てている(国土強靭化による緊急対策的な予算も含まれている)。
無電柱化を進める課題としてはコスト。1kmあたり5億円といわれているが10億円かかるとも※。新設の道路を建設する予算と同じくらいかかっている。コストの低減が必須課題である。次の課題は電線管理者との協議に時間がかかることだ。道路管理者が無電柱化整備したいところと電線管理者の無電柱化したいところのミスマッチがあるためだ。九州は台風の影響がとても大きく、復旧に時間を要するので離島を無電柱化整備していと考えているが電力や通信事業者からは離島は需要が多くないので、需要の多い市街地から整備をしたいとの回答だった。今後はミスマッチをどう解消していくかが課題である。また、既存の道路を整備するとなると昼間工事が出来ず夜間工事になり工期が長くなるので工期短縮も課題ではある。浅層埋設、小型BOX、さらにケーブルを使った直接埋設などを使って低コスト化を検討していきたい。低コスト化の実現においては、宗像市さんにもご協力いただく予定だ。
自治体が抱える課題としては無電柱化の工事をしたことがない。そもそも技術者がいないというのが課題で九州では約8割の自治体が無電柱化の経験が無い。
※km当たり5億円・10億円についてはどちらも正しく、正確には、挟幅員な道路においては、往と復の両側をしないといけないので、両方合わせて10億円になるという解釈。200km整備した場合、100km整備したという解釈にもなってしまう(屋井氏)。

6.各アクターへの期待

井上氏:課題はたくさんある。今後は四位一体(道路管理者、電線管理者、住民・商店、専門家)で進めるのがいいのではないかと思っている。
芦刈氏:最近、急に計画が決まることが多いのでもう少し時間をいただければありがたい。
伊豆氏:現在も電線管理者である九州電力と良好な関係を築いているので今後も密な連携を続けていける関係でいたい。宗像市では無電柱化に際しては道路占有料についての免除についても検討していきたい。
前佛氏:今まで無電柱化を計画してきたが、なかなかコミュニケーションをする場や意見交換する場が少なかったと思うのでこれからは敵対関係にならないように意見交換の場を増やしていきたいと思っている。低コストとなると色々な提案が必要になる。そうした提案をどう評価していくかで悩む。公平に採択する場を設けていくのも課題だと思う。

協賛企業・機関の展示について

協賛企業展示について

九州地方で無電柱化に取り組む会員企業様・(一財)日本みち研究所様の協力を得て、シンポジウム参加者への低コストの製品カタログや、低コスト化手法に関わる製品展示コーナーを設けました。シンポジウムの開始前や、休憩時間に見学できるように実施。今後のシンポジウム会場でも機会をつくっていきたいと考えています。

【協賛機関・企業】未来工業(株)、東拓工業㈱、狭隘道路の無電柱化を考える会、㈱クボタケミックス、不二高圧コンクリート(株)、福西鋳物(株)、ジオ・サーチ㈱、(一財)日本みち研究所(順不同)