台湾・無電柱化レポート NPOインターン生企画

Column・コラム1 美麗島・台湾

你好(ニーハオ)、日本の皆さん、インターン生が報告する台湾・無電柱化レポートのお時間です。台湾は遠いようで近い島、もしこちらに大人気観光地・石垣島にお住まいの方がいらっしゃれば、ぜひいらしてください。那覇よりも近い島、それが台湾です。
そんな台湾は別名『美麗島』と呼ばれています。時は 16 世紀、偶然台湾を通りかかったポルトガル船が台湾の美しい自然を見て『Formosa!(美しい島!)』と叫んだことが由来となっております。その名に恥じず台湾は様々な絶景スポットが存在しています。例えば台湾最大、そして非常に美しい湖『日月潭(リーユエタン)』。自然豊かな『太魯閣(タロコ)峡谷』。台湾最高峰、富士山よりも少し高い山『玉山(ユイシャン、標高 3,952m)』。数え上げたらきりがありません。
そんな日本では当たり前ですが、美麗島・台湾ではあまり見られないものがあります。それは一体何でしょうか?

それは電柱です!

日本では無電柱化率は全国わずか 0.3%(国交省統計)。一方台湾は 42.5%(2022 年時点)とその差は歴然です。実は台湾は日本と同様に台風の被害が大きく、台風上陸の度に停電被害が発生しています。そこで配電能力を強化する目的で、台湾電力と地方政府が協力、電線の地中化を行っています。また台湾の人は景観に対する意識が強く、住民たちが無電柱化工事を求めボトムアップ型で無電柱化政策が進められているケースもあります。このように、台湾では電柱が撤去され電線類が地下化されており、各都市の景観も非常によく、魅力的な美しい島となっています。

沖縄県、南西諸島と台湾との位置関係(沖縄県庁資料より)

そんな台湾の無電柱化政策の様子を数回のコラムに分けてリポートしていこうと思うのでよろしくお願いします。(※筆者は中国語が読めないインターン生でありますので、ご了承ください)

Column・コラム2 基本情報

さて、早速、台湾の無電柱化政策を述べていこうと思いますが、そもそも台湾の無電柱化について纏められたものがどこにも見当たりません。手前味噌にはなりますが、これが恐らく本邦初の台湾の無電柱化についてまとめた記事になるのではないでしょうか。そこで今回は台湾の無電柱化の基本データを日本と比較しつつ一度整理してみようと思います。

無電柱化政策の背景として、台湾政府は 1991 年、国民所得の向上、産業の育成、地域発展のバランス、生活の質の向上という 4 大政策を打ち立てた『六年国建計画』を発表し、その計画の一環として『市区道路電線電纜地下化建設計画』が立てられました。こうして台湾の無電柱化が行われてきたわけです。そして現在、台北で無電柱化率95%を達成、その他の自治体も全国平均 42.5%(2022 年時点)を達成しています。ここで我が国・日本の無電柱化の歴史を振り返ってみましょう。太平洋戦争における各地への熾烈な空襲は、我が国のインフラを破壊しつくしました。本来ならば電線は法律上地下にあるはずでしたが、無電柱化工事は時間もコストもかかり、戦災復興が優先されたために仮設の電柱を立てることとなったわけです。

海外反応! I LOVE JAPAN「戦後の焼け野原の東京を見た外国 人の反応。」 http://blog.livedoor.jp/zzcj/archives/51842514.html

そして高度経済成長期、経済発展が最優先されたため本来仮設であったはずの電柱が次々に立てられるようになり、今日に至るというわけです。

それでは無電柱化工事の費用負担はいったいどうなっているのでしょうか。日本においては国、自治体、電力会社がそれぞれ 1/3 を負担することになっています。一方、台湾では台湾電力の《營業規章施行細則》規定によりますと自治体、電力会社がそれぞれ 1/2 負担となっており、日本以上に自治体の負担が大きくなっています。そのため高雄市などの一部の自治体は更なる無電柱化工事の促進の為、地方自治体の負担を1/3 以下に抑えるよう中華民国経済部に求める動きが見られています。

■日本の無電柱化、電線共同溝方式のイメージ(国土交通省資料より)

先ほど日本は自治体負担が少ないと申しましたが、それでは実際どれほどのコストがかかっているのでしょうか。
台湾電力によりますと 1m 約 3 万 NTD(ニュー台湾ドル)のコストがかかると述べております。すなわち 1㎞ 3000 万 NTD、これを日本円に換算しますと 1 億3000 万円となります
一方、日本では国土交通省によると 1km 約 5.3 億円のコストが発生すると述べております(現在の無電柱化の 90%を占める電線共同溝方式の場合)。

■施設延長1km 当り 5.3 億円(国土交通省試算)
それでは自治体の負担を見てみましょう。台湾は自治体負担が 1/2 と日本以上でありますが、自治体の負担は 1 ㎞あたり 6500 万円。日本は 1/3 で 1km あたり約 1.87 億円となります。日本が 3 倍となっており、その差は歴然です。台湾の無電柱化率が高い要因の一つであると考えられます。
この要因の一つとしては、日本と台湾での工法の違いもあると思われます。台湾電力では、条件によって、埋設方式を使い分けています。適材適所で工法をかえることは、工期の短縮やメンテナンスのしやすさを生み、それが低コストにつながっているといえます。
ケーブル直埋方式:荷重によるケーブルの影響が少ない場所
管路方式:障害物が多い場所、路面掘削(再度)が困難な場所
コンクリート管路方式:荷重によるケーブルへの影響が予想される場所
共同溝:道路下に設置。2 種類以上の企業を収容する構造物
日本でも多少は実行していますが、自治体担当者のレベルではベストな無電柱化の工法を選択するのは難しく、電線管理者や施工業者、コンサル設計会社の更なる連携や努力が必要だと思われます。日本の低コスト手法はこれからで、浅層埋設と角型FEP 管が先行して導入され、小型ボックスも徐々に導入されています。日本の低コスト手法が進まないのは、台湾のように場所や用途によって整備手法を明確せずに曖昧にしていて、自治体・コンサル・施工業者・メーカー・電線管理者等との協議・折衝で進めていることにあると言えます。

日本における無電柱化低コスト手法の代表的な4例(国土交通省資料より)

Column・コラム3 防 災

こんにちは。皆さんは颱風暇という言葉をご存じでしょうか?
おそらくなじみのない言葉かもしれません。台湾では台風が接近すると各自治体の首長が警報を発令、その日は特別休暇となるのです。そして学校・公的機関は勿論の事、民間企業までも一斉に休業となるわけです。さて、そんな颱風暇ですが、台湾では 7 月~9 月が台風のシーズンとなっており、平均 4.4 個もの台風が接近します。
ところで台湾では電柱を電桿、無電柱化は電線地下化と呼びます(他にも様々な情報が入っております)。そんな電桿、電線は台湾の電力会社すなわち台湾電力が管理整備を行っていますが、コラム1で述べたように台湾では台風によって電柱の被害が相次いでいます。
例えば 2015 年 8 月 6 日~9 日にかけて接近した「蘇迪勒颱風」では台湾全土で 989 本もの電柱が倒壊しました。
2016 年の「梅姬颱風」においては台湾全土で 600本の電柱が倒壊し、400 万世帯以上が停電に見舞われるなど、膨大な損失をもたらしました。
※ちなみに 2019 年 9 月に千葉方面を直撃した台風15 号では、鉄塔2基、1996 本の電柱倒壊、最大で約93 万軒の停電被害が発生しています。

台風 15 号での電柱倒壊(千葉県・ウェザーニュースより)

梅姬颱風の被害を受けて台湾電力は「強化配電線路防災韌性計畫」を作成、台風時の電柱倒壊による停電被害を減らすべく配電線の地中化プロジェクトを加速させております。
台風時の無電柱化の効果として台湾電力は、無電柱化率が 85%の台北市では 1 万世帯が停電した一方で、無電柱化率が 43%の台中市では 35 万世帯以上が停電したと紹介しています。
しかしながら欠点も存在しております。台湾電力によると、洪水や地震が発生した場合、修理や復旧が困難を極めると述べています。地下配線が損傷した際には道路を掘削し新たな電線を引き直す必要があり、さらに浸水した水を汲み、泥を洗浄、乾燥させて破損した機器を交換してようやく電気を供給することができると説明しています。

電線は水に弱いと言われています。日本の無電柱化が進まないのは、地中にしっかり安定して埋めるためにはどうすればいいかを念頭にいれた手法を検討していることも一因していると思われます。水を防ぎ、水を逃がす管路やコンクリート桝、更には電線や通信ケーブルを守る優れた被覆の技術を活かして電線類を地中化することは、今や可能となっています。

詳細は NPO 法人電線のない街づくり支援ネットワークの「防災」のページで詳しく説明していますので、参考にしてください。
https://nponpc.net/whatisnonpole/disaster/


Column・コラム4
 今後の展望

本コラムも今回で最終回となります。短い間でしたがご愛読ありがとうございました。
さて、最終回のお題は台湾無電柱化政策の今後の展望です。今まで述べてきたように台湾では台風被害で架線に甚大な被害が発生し、1992年以来積極的に無電柱化を進めてきました。しかしながら、全てが順調というわけではありません。例えば前回述べたように、自治体の負担が大きい問題や、日本と同じく地上機器を何処に設置するのか、地上機器が与える健康被害について市民との調整等の問題が散見しています。なかでも、無電柱化は道路の維持・耐久性に問題を引き起こしています。これは地下に移設した配線の保守点検を行うためには道路を掘削したり、点検用に新たにマンホールを設置したりする必要があるからです。さらに無電柱化工事が無秩序に行われていたため、地下配線が入り組んだ状態になっており、これが頻繁な掘削に拍車をかけています。そのため道路がデコボコになってしまっている現状があるのです。この問題を解決すべく現在、内政部營建署公共工程組(内務省建設企画局 CPA)(台湾全土の無電柱化政策を担っている部署)は共同管道の導入を推進しています。共同管道とは地下にトンネルを作り、電線だけでなく、水道管やガス管、通信ケーブルなどすべてのパイプラインの一元管理を行うことです従来の地下配線を単一的に管理が可能になれば、道路を頻繁に掘削する必要がなくなります。更に共同管道は耐震性と耐洪水性があり、メンテナンスコストを削減することが可能になっています。
そして現在、共同管道の普及を加速するため、政府は2021年8月 26日 内政部部務會報にて「市區道路使用費収費標準」を修正し、都市道路使用料の規定を改正しました。
これによって政府が建設した収容管線に管理施設を移設する場合には都市道路の使用料が免除されるようになり、同時に共同管道に移設すべきなのに移設しないものには、本来の利用料の5倍を請求するなど、2つのアプローチによって無電柱化、さらには共同管道を加速させています。

 

編集後記
ご愛読ありがとうございました。いかがだったでしょうか、台湾の無電柱化政策に関する情報を入手するのが難しく、手探りの状態で調査を行っておりました。そのため取り上げられていない情報も数多く存在しておりますがご了承ください。また記事の内容に誤りがある、或いは何か台湾の無電柱化政策に関する情報をお持ちの方がいらっしゃればこちらまでご連絡ください。よろしくお願いします(インターン生 吉川祥生)。

◆問い合わせ先◆
問い合わせ先:NPO 無電柱ネット事務局 塚田まで
TEL:06-6381-4000
メール先:info@nponpc.net

■ 台湾記事での参考文献
※クリックするとリンクにとびます。
台湾電力公司.(n.d.).”歷史與發展”.台湾電力公司.
公視新聞.(2015-10-28).”颱風吹倒電桿 電纜地下化呼聲再起”.公視新聞網 PNN.
林筑涵.(2016-09-28).”電桿殺手史上第 2 梅姬吹斷逾 900 根”.自由時報.
許麗娟.(2021-02-05).”高雄電線電纜地下化財務吃重 邱志偉籲中央降低地方負擔”. 自由時報.
林敬倫.(2021-08-15).”電纜地下化成本高 宜縣 4年建設 2%”.自由時報.
阮珮慈、吳曼嘉、張佳琪、徐品蓁.(2022-12-23).”難逃電線桿倒塌致災夢魘 電纜地下化的漫漫長路”.政大大學報.
中華民國內政部營建署.(2019-11-13).”有效管理市區道路下方管線,提升道路服務品質”.最新消息-即時新聞.
中華民國內政部營建署.(2021-10-22).”雙管齊下內政部修收費標準 加速改善市容景觀”.最新消息即時新聞.