◆日時:2019年10月7日(月)14:00~17:30
◆場所:仙台国際センター会議棟3階 白檀1
◆講演:望月拓郎、石田東生
◆パネルディスカッション:コーディネーター 屋井鉄雄 パネリスト 戸羽太、松原隆一郎、工藤英明、井上利一
◆主催:NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク
◆後援:国交省・道デザイン研究会、(一財)日本みち研究所、無電柱化を推進する市区町村長の会、(一社)無電柱化民間プロジェクト実行委員会、NPO法人「日本で最も美しい村」連合、公益社団法人土木学会 、宮城県、TBC東北放送、ミヤギテレビ、エフエム仙台、河北新報社、㈱建設新聞社、仙台放送、NHK仙台放送局、KHB東日本放送
◆無電柱化を推進する市区町村長の会・東北ブロック参加自治体:陸前高田市、黒石市、久慈市、矢巾町、金ヶ崎町、南三陸町、山形市、郡山市
◆本シンポジウムは、土木学会のCPD認定プログラムです。(3.3単位)
1.主催者挨拶
NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク 髙田昇
代読:当NPO理事 小方規代和
東北で開催する、はじめての無電柱化を進めるシンポジウムにご参加の皆さん、ようやく秋の訪れが感じられる中でのご出席ありがとうございます。
100年以上続いた、世界に類のない電柱大国を脱する夜明けを迎えつつあります。
国土交通省と連携して、事業を行いながら、2016年に制定された無電柱化推進法に尽力して参りました。
まだまだ無電柱化を実現するためには多くのハードルが存在しています。
このハードルたちも着実に実現に向かって前進しています。
私たちの国は災害大国であり、より多くの外国人観光客を獲得するために無電柱化の事業を進めるべきです。
今日を一つのきっかけとして、東北の皆さんが無電柱化の旗のもとに一人でも多くの方や団体が集まり、その使命と業務に向かわれることを強く願っています。
2.来賓挨拶
東北地方整備局長 佐藤克英
東北で無電柱化のシンポジウムが開催されることを心よりお祝い申し上げます。
電柱の地中埋設は昭和60年代より計画的進められているが、全国にある電柱は約3600万本。
しかも年間7万本ずつ増えている。
アジアの主要都市と比較しても立ち遅れているのが現状だ。
昨今では台風15号によって千葉県を中心に約2000本の電柱が倒壊、長期にわたる停電が発生するなどの被害があった。
高齢化の進展や訪日外国人(インバウンド)の増加に伴い、防災だけでなく、安全面や景観面でも無電柱化の推進は今後ますます重要な事業となっている。
国土交通省としても無電柱化推進計画、国土強靭化緊急3カ年計画に基づき進めていく。
赤羽国土交通大臣も「さきの災害・被害を鑑み、防災強化のため、無電柱化のスピードアップをはかりたい」との声明を出されている。
同省としても無電柱化の施策をしっかりと進めていきたい。
仙台市副市長 高橋新悦
主催者である当NPOに対し、無電柱化に関する啓発活動や低コストの研究など幅広い活動を行っていることに敬意を表します。
仙台市は平成とともに政令指定都市となり、30年の歴史を刻みました。
東日本大震災の復興事業のシンボルでもある沿岸部のかさ上げ道路事業も今月(10月)19日に開通を迎えることとなりました。
今年度「躍動する杜の都、新たなステージへ」をテーマに経済と観光の活性化等の政策を策定・実施しています。
主要な幹線道路はほぼ無電柱化が完了していることから「杜の都・仙台」の名にふさわしい街並みが形成されています。
無電柱化の課題の一つであるコストについてもこの場で大いに議論いただいて、弾みになればよいと願っています。
3.講演 「無電柱化推進計画の概要」
国土交通省道路局環境安全・防災課地域道路調整官 望月拓郎
国交省が進める現状の推進計画・3カ年緊急計画では、平成30年~令和2年で1400km、更に2020年までで約1000㎞の緊急輸送道路の整備を進める方針が決まった。
年ペースで考えると800㎞/年となり、今までにない距離数となる。
この道路延長を行うためには、現在のコストの2分の1にしないといけない。
低コスト手法について、様々な手法が検討されている。
今後の課題として、増え続ける電柱の問題がある。
緊急輸送道路の占用禁止に加えて、ニュータウンや新設道路も占用禁止を行っていく(土地の条件を見極めて)。
国交省が進める現状の推進計画・3カ年緊急計画では、平成30年~令和2年で1400km、更に2020年までで約1000㎞の緊急輸送道路の整備を進める方針が決まった。
年ペースで考えると800㎞/年となり、今までにない距離数となる。
この道路延長を行うためには、現在のコストの2分の1にしないといけない。低コスト手法について、様々な手法が検討されている。
今後の課題として、増え続ける電柱の問題がある。
緊急輸送道路の占用禁止に加えて、ニュータウンや新設道路も占用禁止を行っていく(土地の条件を見極めて)。
無電柱化の方法 | 実現状況 | 現状と課題 |
浅層埋設 | 実用中 | コストが高い |
小型ボックス | 実用化(国内4例) | 意外と高くついている。更なる低コスト化を! |
直接埋設 | 実証実験中 | 海外では実用化されているが、日本はまだ検証中 |
その他の方法 既設管路を活用する(既設管路が意外と残っている)、道路整備と合せて地中化をすることでコストダウン、FEP管やCCVP管の改良など、低コスト製品の開発 |
出国税を財源としてインバウンドが期待される観光地に対して補助金を支給する。この補助金を用いれば費用負担は国が1/2、地方公共団体が1/6、電線管理者が1/3と地方公共団体の負担が非常に軽くなる。
ただし財源が限られているため、歴史ある街を短い区間、無電柱化するのに向いているかと思われる。
次に電線管路者への支援制度。
国において地中化を行えば固定資産税・占用料が軽減される。
固定資産税に関しては平成31年から33年まで延長された。
無電柱化をやったことのない市町村は全体の3/4を占めるため、無電柱化ワンストップ相談窓口を設置し、相談していただければ関係者に取りつなぐ。順次全国に設置していく。
講演「アジア3か国の無電柱化最新事例」
一般財団法人日本みち研究所 理事長 石田東生
昨年の9月17日~22日の6日間、シンガポール、バンコク(タイ)、ハノイ(ベトナム)の3か国の無電柱化事情を視察。無電柱化に関わる様々な企業・機関の専門家が参加。その視察会の報告。
視察国 | 無電柱化の状況や考え方 | 日本から見て参考になる点 |
シンガポール |
・電線・電柱は地中化が当然という住民認識 ・地上機器の配置等について、道路の種別、線形や設計速度等に基づき、基準を設定。 ・基準は常に見直しを行い、実情に即した形に更新(統一基準のため、更新が比較的容易) ・LTAウェブサイトからオンライン上での工事許可申請や工事状況の管理。・電線管理者は電線類の占用料が不要 |
・災害時の安全安心を考慮した、地中化意識に関する啓蒙や教育。 ・実情に応じた柔軟な基準等の更新や管理区分等によって異なる基準類のあり方。 ・オンライン上での一括管理による工事許可申請。(ペナルティまで導入できるか?) ・道路占用料のあり方。 |
バンコク(タイ) |
・景観に配慮して設備類の塗装、塗装色の工夫。 ・歩道中央部へ設備・機器を配置したり、空間への配慮に欠ける部分あり。 ・地中化工事終了後も、通信線を撤去せずに残している箇所も見られる。 |
・道路景観と無電柱化関連設備との調和や他の道路施設との配置上の取り合い ・電線や電柱の撤去までを含めた一連の工事の実施 |
ハノイ(ベトナム) |
・歩道上がバイク置き場+物売り場として利用されており、無電柱化もそれに配慮しているように見受けられる。 ・無電柱化により、歩道の機能が低下することに対して配慮に欠ける部分あり。 ・無電柱化の設備類が大きい。 ・郊外部の新市街地では開発時にデベロッパーが通信線を予め地中に埋設。 |
・歩道での活用形態への配慮 ・駐輪スペースや滞留スペースとの共存 ・地上機器等のコンパクト化 ・デベロッパーとの連携 |
パネルディスカッション「東北で低コスト無電柱化を進めるには」
パネルディスカッションでの登壇者の主な発言
1.無電柱化の意義と課題 屋井鉄雄 東工大副学長
無電柱化と関わって5年。道路の安全性・利便性について考えている。その中で無電柱化は切っても切れない問題で、電柱からトランスが下りてくる。その際の置き場所の工夫が必要だが、将来の道路整備を考えるとまだまだの感が否めない。こういった諸問題を解決していくのが私の元々の専門だ。
2.各パネリストの自己紹介(無電柱化との関わりを含めて
◆陸前高田市長 戸羽太
私は、無電柱化を推進する市区町村長の会・東北ブロックの幹事を務めさせていただいている。東日本大震災を受けて新しい街づくりをしている最中であるが、復興と合わせて一部無電柱化を進めている。市として取り組んでいること、そして見つかった課題についてお話させていただきます。
◆放送大学教授・当NPO副理事長 松原隆一郎
1990年代半ばごろに無電柱化に興味を持ち始め、経済学者で私以外に専門家がほとんどいないということ自体、不思議に思っている。私が調べ始めた当時は建設省が無電柱化を取り仕切っており、自民党の議員だった小池氏と法律を作成する手伝いをさせていただいた。現在は国交省あり方検討委員会で屋井先生とともに携わっている。
◆東北電力(株)送配電カンパニー配電部長 工藤英明
入社以来、配電部門で、電線・電柱を使って各家庭や工場に電気を供給している。面的設備が多いので関係者のご協力のもとに電気を安定供給している。現在は脱炭素化・レリジエンス強化など様々な課題はありますが、これまでと同様に関係者の皆様のご協力を得ながら電力供給に努めて参ります。
◆(株)ジオリゾーム代表・当NPO理事兼事務局長 井上利一
民間の立場からの代弁者として本日は参加している。電柱・電線のない住宅地のお手伝いをさせてもらっている。今回の台風15号で私どもが関わった千葉県印西市の戸建て住宅地がメディアで大きく取り上げられた。同市の防災担当者曰く、かなり被害があったということだが、お手伝いした無電柱化住宅地では停電がゼロだったということで注目を集めている。NPOではこういったシンポジウムを含めて実際の行政の皆様の支援や、民間の技術を発信したりしている。160社以上の会員企業とともに協力して行っている。
3.国の「無電柱化推進法」「無電柱化推進計画」の意義と課題について 松原隆一郎
「日本でどうして電柱が立つのか」を考えてみると、架空建設コストは0.15億円/㎞、地中建設コストは1.65億円/kmで地中設備の建設コストは、架空設備に比べて約10倍程度の費用が必要となる。要するに差額が1.5億円ある現状では自由経済として電柱が建つのが当たり前である。
しかし現在では「電柱は不要ではないか」という機運も昔に比べ高まってきている。事業者は社会に対して迷惑料を支払う必要があり、それを考慮していないから安いという考え方もできる。先ほどみち研究所でも紹介があった通り、ベトナムなどの共産主義国では埋めろと命令されれば埋めるのが当然である。自由主義圏であるタイやシンガポールでは、電力会社であってもかなり公共性が強いもので、日本とは条件が違っている。区がやれといえば電力会社も素直に従うようだ。つまり日本でいえば占用禁止に相当することがかなり自由にできてしまう。
日本もいきなり占用を完全禁止にすることは難しいとしても、法律の中で徐々に縛りをかけることが今現在行われており、必要である。もしくは、1.5億円分の差額の税として占用料を引き上げれば、自動的に電柱が建つこともなくなるであろうが、今後はそのどちらか、もしくは組み合わせでやっていけば日本の無電柱化が前進していくのではないか。
電線共同溝法施行以前は事業者が単独で行う地中化が全体の45%を占めていたが、施行後はほとんどなくなった。電線共同溝方式は非常に面倒な手順が必要で、現状、施工に7年かかるといわれている。基本的には道路管理者が電線管理者へ「お願い」する形で進む。
この現状を打破すべく無電柱化推進法が制定された。この法律では、電線共同溝方式の限界に注目し、電柱が「外部不経済」であることを認定されたことなどは画期的である。しかしながらこの法律があっても日本がシンガポールのような状態になるまでには1500年かかるといわれている。
首都圏に限って言えば、今後30年間で直下型地震が起こる可能性は70%といわれていて、7,8年経っているのでいつ来てもおかしくない。学会の発表だと、2万人が死亡し数百兆円の経済損失が起こる。それが1500年というスパンで見ると10回や20回は起きる可能性が十分にある。合理的に見ればやはり埋めるべきであると私は考える。
また推進法のポイントとして法律の目的のところに防災や景観などを書き込んでしまったところにあると思う。これは国民全体が電柱を不要と思っていることの証明となっている。また、復旧・復興のためには電柱の方がよいという話もあったが、今回の千葉の一件で神話が瓦解してしまった。
特に今後大きな台風が来るという情勢で、首都で今回のようなブラックアウトが起きればいったいどれほどの被害になるのか、ということも含めて変えていかなければならない。また次のポイントとして、第5条では事業者が主体的にやらなければならないということが明文化された以上、事業者がその責任を果たさなければならない。
➢コメント:屋井氏 東南アジア諸国で占用料を支払っていないということは、言い方を変えれば、払わされる立場にないことであって、道路空間という公共物に対して自ら責任を果たしていると考えられる。事業者も単独で行っていた時はかなり低コストで進めていたようだが、時代とともにオーバースペックになっている。松原先生の指摘のように責任の所在が移ったことは良いことであると思う。
4.無電柱化及び低コスト化への取り組み状況について 井上利一
東日本大震災の時に現地に赴いたが、あちらこちらで電柱が倒壊している様子が見られた。鋼管柱が折れている場所も存在した。古いトランスにはBCB(ベンゾシクロブテン)が含まれており、田んぼなどに倒れこむと有害である。
平成30年発生の台風21号時には、停電が約260万戸発生し、強風により電線同士が接触し爆発する例もあった。令和元年発生の台風15号でも風速が40[m/s]を超えたところでは大きな被害が出た。しかし千葉県睦沢町の無電柱化された住宅地では周りが停電している中、スマートシステムや地中化の効果もあり煌々と電気が灯っていた。
我々の活動として、行政との勉強会や、小学校等の無電柱化啓発授業、無電柱化を推進する市区町村長の会と連携し勉強会を開催、無電柱化推進部会の民間WGに技術を提案してきた。民間WGに従来、塩ビ管であったところにポリエチレンの管の提案をしたりした。ほかにも小型ボックスを2段にして上に水・下にケーブルを通す技術を開発中である。その他、地下の情報をマッピングする技術や、樹脂製小型ボックス、レジン製小型ボックス、チルトローテータ、繊維製さや管、トレンチャー(溝堀機)、鋳鉄蓋などがある。こういったものを国交省に提案し、手引きに掲載していただいている。愛知県東海市の小型ボックスではケーブルを接続する理由で、なかなか小型化できないところを、電力桝において省スペース化することに成功している。また、東京電力の協力のもと民間住宅の前の電柱を、個人負担で一本だけ抜くことも行った。今の仕組みであれば、コストが高いので、もう少し工夫できればいいと思う。
➢コメント:屋井氏 かなり玄人的な話であるが、最終的に標準化していけば、わかりやすく取り入れることができるのではないだろうか。
5.陸前高田市における無電柱化への取り組みとその特徴・課題 戸羽太
災前に比べて直後はまさに「何もない」状態となった。電柱はもちろんのこと、高田松原の松林や中心市街地まで残っているものは何一つとしてなかった。陸前高田市の全人口の7%強が犠牲になり、家屋被害は市内の50%にものぼり、何かしらの被害があった家でいうと99%の家に被害があった。
これを受けて市議会とともにとにかく安心・安全な街をつくらなければならないということを決めた。東日本大震災の津波は最大で17.6mにも上るというので、ハードで防げるものは防ぎながら人が住める所をつくらなければいけなかった。防潮堤は12.5mで建造したが、住民からは足りないという意見を多くもらった。しかしながら1000年に一度の災害はハードでは防げないという前提をもとにこの高さにした。
また中心市街地はもともと海抜3m程度であるが、人工的にかさ上げすることにより8~9mの高さにした。陸前高田市では線路が90%近く津波で流された経験からBRT(bus rapid transit)というバスの輸送システムに切り替えた。
安心・安全を第一とするなら、電柱があることによって、被害が拡大したと思われる。よって無電柱化を進めなければならないと思っている。しかし実際には多くの課題があり、一朝一夕では解決できない。
私たちは特に減災ということを推しているが、防災というのは実際にはだれにもできないこと。必ず来る災害に対して何ができるかということが減災ではないだろうか。コストがかかるからやらないというのはナンセンスで、できない理由を並べても何も前には進まないのであって、どうしたらできるのかという観点で物事を進めていく必要がある。
我々はSDGsや共生社会など、車いすの方でも快適に通行できるように無電柱化を図っている。地中化だけで6.1億円(2.91km)かかるということなので自前だけで整備するのは厳しい。地元の奇祭「動く七夕」では電線を気にする必要がなくなった。
やはり我々としては減災、つまり東日本大震災ではあれをやっていればよかったという後悔ばかりでありますのでお金をかけてもやるべきことはやったほうがよいと思う。
➢コメント:屋井氏 大変説得力のあるお話であった。コストがかかるからやらないではなくどう進めるかを議論していかなければならない。また地中線と裏配線の配分についてもかなり工夫に工夫を重ねたところが見受けられる。
6.事業者としての無電柱化への取り組み状況と今後の方向性 工藤英明
東北電力の供給エリアとしては、東北6県及び、新潟県となっている。エリアの面積は広いが電力需要の量は少ないので電力需要の密度としては低い。2018年~2020年の3年間の整備延長として273㎞の地中化を求められているので調整をしながら進めていく。
電柱について私たちの管内に310万本、トランスは120万台と非常に多くの設備を使いながら電気を届けている。無電柱化にはメリット・デメリットがあるが、地震について地震動による設備被害は地中設備・架空設備ともに被害はなかったが、架空のみ地盤の影響による倒壊は存在した。
漂流物による二次被害は地中・架空設備ともに被害があった。我々としても低コスト手法の取り組みとして開閉器を内蔵しない変圧器塔を開発したことや、小型ボックスの手法についても検討した。
無電柱化事例の紹介として、繁華街における狭隘箇所の無電柱化(仙台市国分町)や、震災復興に合わせた無電柱化(女川町)、歴史的建造物箇所の無電柱化による地中機器の民地設置(青森県弘前市若党町)、歴史的建造物箇所の無電柱化(福島県下郷町大内宿・岩手県盛岡市)、新たな低コスト手法を活用した無電柱化(新潟県見附市)などがある。
7.東北における無電柱化の意義と方法、課題等
松原:東北地方から学べる事の一つとして、震災の被害を受けたということだろう。私は阪神淡路大震災の時、被災したが、私が感じたこの二つの震災の違いとして、東北では津波で大きな被害を受けたことだ。今後起きる地震の種類として首都直下型と南海トラフ型の2種類があるといわれている。
後者はおそらく猛烈な津波が押し寄せるといわれている。高知では市内全域が1m以上浸水するといわれており、最も被害の大きいところで35m浸水するといわれている。こういうことを受けて東北地方の復興の事例、例えば電柱そのものは震災時点で大きな話題にはならなかったが、復興の時にどうすればよいかを陸前高田市の事例なども参考にしなければならない。また電力密度が低い中で電力会社としては義務的に送電を行わなければならなかったが、効率のよい配電方法などを全国に共有していけばより電柱を減らすことができるのではないか。
首都直下型については最近の事例では熊本地震や阪神淡路大震災が挙げられるが、これらの地震の特徴として一本電柱が倒れると張力の関係により周りの電柱も一気に倒れてしまうことだ。神戸ではなるべく早く電力を取り戻そうと通電してそこから木造の家に出火した。これは恐ろしい話で、中でまだ人が生きているかもしれないのに通電火災が起きてしまう。電柱が傾いている状態では消防車が入れないため火災が広がってしまうというケースもあった。
首都圏でこういったことが起こる可能性をはらんでいるので、順番を決めて無電柱化を行う必要がある。いかに事業者がインセンティブをもって事業を行っていけるかが課題になるのではないか。また、どちらでもない場合としてこれまでにも沖縄や奄美であったような台風で電柱がバタバタと倒れていくケース。これによって大阪や千葉でも大きな被害が発生し、これにより今まで関心を持たなかった人々にも電柱が倒れ復旧が大変であることが分かった。これがもし首都圏で起きたとしたら今までのスキームでは大変なことになると予想される。しかしながら、この問題は国土強靭化と合わせて対処しなければならない問題である。東北は不幸な災害という経験とそれに対する対策を我々も共有していきたいと思う。
戸羽:私たちの責務というのは反省点・教訓を伝えていくことであると認識している。無電柱化一つを取っても、いろいろな事情によりできること・できなかったことがあった。千葉の被害を見ているとやはり必要であったことが再確認できた。「せめてここは必要」というところがどの地域でもあると思うので、地域ごとに計画を出してもらって、締め切りを設け、最低限ここまでやるというところが必要だと思う。最終的に後悔しないように皆さんと協力していければいいと思う。千葉の方々も台風という苦い経験を元に学んだことを形にしていくことが必要である。
屋井:「せめてこの道路は」というのは間違いなくそれぞれの地域に存在するし、もう少し面的に無電柱化したいという街もたくさんある。日本全国無電柱化は最終的なゴールとして、現実問題として優先順位をつけて計画を創っていく必要がある。しかし計画がなかなか作れない原因として、早い段階からなかなか電力会社から情報が出てこず、自治体もその情報を処理する能力が長けていない場合もある。事業者と自治体が協力して情報を共有して細かい計画を前もって作ることはできるはずだ。私の印象として電事連を見ていると、本社の方は非常に柔らかく変わってきている。ところが現場はまだまだそのレベルではない。現場のレベルでもそういうマインドを共有できるような方法をとっていけばよいと思う。
工藤:事業者としてコストダウンを図っていくことが重要。いままで需要が伸びてくるという想定であったり、災害時にループで電力を供給できるようなシステムを構築していたりしていたのでどうしても高スペックのものを使用していた。その町の将来や街の特徴を踏まえた低コストの整備を行っていく必要がある。震災復興に限らず、街の中の重要なエリアや道路については無電柱化していく必要があるので自治体等と協力していく。
井上:東北地方ではインバウンドがかなり増えている。高齢化が進んでいるので、東北のコンテンツをいかに磨いていくかが重要だ。東北の重伝建地区で無電柱化されているのは9か所中4か所。もう少し整備を進めていくと、より地域が活性化されるのではないか。やはり市民の方々が無電柱化をする必要があると思わなければ進んでいかない。エビデンスとして無電柱化が有効であるということを説明できれば、お金を使うことができるのではないか。無電柱化は地価の1割程度向上することが分かっているので、ある程度市民を説得するときのエビデンスにしてほしい。宅地価格に7%のプラス効果を与えることも分かっているので、デベロッパーの方もただお金がかかるということだけではないことを知っていただきたい。
京都大学大学院の大庭先生の研究では抜柱時には無電柱化地域から50mの範囲で約2割程度の地価の向上があったということなので、固定資産税の上昇を見越した設備投資ができるのではないだろうか。民間のデベロッパーに何らかのインセンティブがあれば、行政がお金を出さなくとも自主的に無電柱化が進んでいくと思う。
8.中間まとめと東北での可能性
屋井:東北における交通安全の発言がなかったので例として、歩道がなく車と小学生が一緒になって歩いているような道が至る所にある。そこに電柱と雪があればもっと道が狭くなる。交通安全のための無電柱化を依頼されることはないのだろうか。
工藤:協議会の中で無電柱化を決めている。現状、電柱を交通の邪魔にならないように電柱を移設することが多い。
屋井:電力会社の方に無電柱化のために電力料金を上げて国民の方が納得するはずがないというがきちんと説明してほんの数円程度上げるだけでも大きく変わってくることはできるはず。事業者や国民の皆さんで一緒になって考える必要があると思う
9.今後の無電柱化推進にむけての各アクターへの期待
井上:今回の千葉の件でも一般の方の電柱への疑問がかなりあった。マスコミの注目度を見れば一目瞭然で、一つの追い風になってはいる。電気料金の話もあったが、以前、無電柱化の日のイベントでそれに関してのアンケートを行った。そのアンケートでは年間500円までなら出すという意見が結構あった。私は「ゼロ」という意見が圧倒的に多いと思っていたが意外だった。太陽光発電も賦課金をつけることでかなり広まった例もあるので、今後の議論に期待したい。無電柱化を進めるにあたって道路管理者、電線管理者、住民のほかにNPOのような専門家集団を含めた四位一体でやっていた方が効率的であると思う。
屋井:ワシントンDCが積極的に無電柱化を進めだしたのはハリケーンのせい(編注:恐らく19世紀後半のマンハッタンのブリザード被害による地中化のこと)だったのでしっかりと議論していきたい。
工藤:国の方でも料金制度を検討しているという話がある。当然、無電柱化だけではなく、インフラ全体のレジリエンス強化などの費用のためであるが、料金の検討がされている。FIT賦課金が年間1万円程度支払っていると思うが、そういったことも含めて考えていこうと思う。また社内の統制が取れていないという声について、しっかりと取り組んでいかなければならない。280㎞という過去最大距離の達成のためにも関係者の協力が必要である。
屋井:ブロック協議会というところで路線等が決定されているのだが、そこでは電線共同溝方式しか協議されていない。協議会の在り方を見直して、いろいろな無電柱化の方法を議論でき、自治体とも早い段階で合意形成できるようにしていかなければならない。
戸羽:無電柱化を推進する市区町村長の会は東北全227自治体うちの27しか加盟していないということで、世論が無電柱化を推しているということを説明して、より多くの自治体に加盟してもらうということが必要であると思われる。私が感じるのは、無電柱化をすることが「ものすごく意識の高いこと」というよりも気軽に情報共有が図れるような軽いレベルから入って、一緒になって協議できれば、陸前高田市を参考に波及していくと思うのでもっと無電柱化が敷居の低いものになってくれればよいと思う。
屋井:自治体がしっかり対応できるような仕組みになっていけばいいと思う。無電柱化といっても自治体からすればもっとやることが沢山あると思うので、役割分担をしながらスムーズに無電柱化を行っていかなければならない。
松原:ある場所で観光名所の周りが電柱だらけで、周囲の国道が無電柱化されている場所があって、あまりにももったいないとほぞを噛んだ経験がある。せっかく無電柱化をするのであるから、財源を国から自治体に移動して街にとって最も重要な場所から無電柱化するべきであると思う。そういう柔軟性を持つ必要がある。また占用料に関して電柱一本当たり200円程度であることから、これを1万円にまで引き上げると架空と地中のコストの差額を埋めることができると思う。そういうことを長期的に考えつつ、短期的には優先順位をつけてやっていくことが必要だ。
協賛企業・機関の展示について
協賛企業展示について 東北地方で無電柱化に取り組む会員企業様・仙台市様の協力を得て、シンポジウム参加者への低コストの製品カタログや、低コスト化手法に関わる製品展示コーナーを設けました。
【協賛機関・企業】
(順不同)