北陸は、全国のモデルとされる金沢をはじめ、見附市の全国初・小型ボックス採用、高岡・輪島等でまちづくりと一体の無電柱化と先進地域の面をみせています。

一方、福井県では新幹線開通を目的に無電柱化が求められる駅前、中心部の再生・リニューアルが進められつつあります。幸い国では「無電柱化推進法(2016.12)」施行、「無電柱化推進計画(2018.4)」決定、そして「無電柱化低コスト手法導入の手引き案(2017.3)」さらには、全国各地での「計画」「条例化」へのとりくみと大きな動きが期待されます。

しかし、まだまだ低コスト化をはじめ情報不足、とりくみ方の試行錯誤がある中で、北陸初のシンポジウムが2018年10月3日に開催されました。

今回はそのシンポジウムの内容をコンパクトにまとめてお伝えします。

イベント概要

無電柱化まちづくりシンポジウムin北陸

日時:2018年10月3日(水)14:00~17:30
場所:金沢市アートホール
基調講演:国土交通省 吉田敏晴
コーディネーター:髙田 昇 パネリスト:松原隆一郎、磯部康司、塚﨑勝訓、井上利一
主催:NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク
後援:一般財団法人日本みち研究所、無電柱化を推進する市区町村長の会、一般社団法人無電柱化民間プロジェクト実行委員会、NPO法人「日本で最も美しい村」連合、石川テレビ放送株式会社、テレビ金沢、北陸放送、朝日新聞金沢総局、北國新聞社、北陸中日新聞、読売新聞北陸支社、エフエム石川、北陸工業新聞社、NHK金沢放送局、毎日新聞北陸総局、HAB北陸朝日放送、ラジオかなざわ、金沢経済新聞

1.主催者あいさつ

NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク理事長 髙田 昇

一昨年の12月、国会で超党派の議員のもとで、「無電柱化の推進に関する法律」が成立した。私達NPOが十数年取り組んできた活動が実を結んだ結果と考えている。そしてこの法律をもとに国土交通省より今年の4月に「無電柱化推進計画」が発表された。しかし、これで進むのかと言えば、まだまだ難しい。

実は、北陸は無電柱化先進地域である。特に金沢市は、昔から他の自治体のモデルとされていた地域である。「金沢方式」と呼ばれる独自の無電柱化方式は、私達NPOも学ぶべきことが多い。金沢の街を入ると非常に爽やかな風景が見られる。恐らくこれは長年かけた成果努力の賜物であるだろう。

一方で、福井県は、周知の通り新幹線が将来開通する。その開通を見越して駅周辺の整備も着々と進んでいる。ただ外を見ると、電線・電柱が空を覆っている。本日のシンポジウムを通して、国から学ぶこと、また北陸の皆様に考えいただきたいこと、そしてそのために私達がお手伝いできることは何かをこの場を使って皆さんと共に考えて、持ち帰って、北陸の地に一歩も二歩も無電柱化が進むようにしていきたい。

2.来賓あいさつ

衆議院議員 佐々木紀 代読:秘書 道券正明

(写真は道券正明氏)

佐々木本人が東京を離れることができず、メッセージを預かって参りました。

本日、無電柱化まちづくりシンポジウムin北陸の開催をお慶び申し上げます。無電柱化による景観の改善はもとより、近年の災害の甚大化を思う時、緊急車両の通行や復興へのアクセス確保など大きな意義があることを認識しております。

現在、小松にある私の事務所前の道路でも無電柱化の工事が始められており、推移を見守っております。あいにく今日は東京を離れることができず残念です。今回のシンポジウムが、皆様にとって有意義な会となりますことをお祈り申し上げます。

参議院議員 新妻秀紀

私には忘れられない光景があります。阪神・淡路大震災、そして東日本大震災の時に、電柱がバタバタと倒れて、緊急車両が通れない、それで多くの緊急支援物資が運べない、救われた命が救えないなど、こうした事を思った時に無電柱化は大変重要な課題なんだと私は認識して議員活動をしてきました。

その後、超党派の議員連合によって、一昨年の12月、ついに「無電柱化推進法」が成立しました。しかし、この無電柱化の推進に当たって大きな課題となる一つが低コスト化です。このような状況の中、無電柱化の低コスト化を議論するシンポジウムが開かれることは大変意義のあることだと考えております。

これから皆様と共にこの無電柱化の推進を実現していくためには、関係各位の協力が必要だと思います。相互に意見を出し合い、共に学び合って、無電柱化を推進していきたいと思います。

金沢市長 山野之義

(金沢方式について)昭和61年から金沢市は石川県,国,そして事業者と協力して、計画的に様々な実験を行いながら取り組んできた。そして平成21年、金沢方式無電柱化実施推進計画を発表し、重伝建地区や文化的景観地域を中心に優先的に取り組んできた。

金沢方式も大事だが,より安全でスピード感を持って、低コストにするためには、どのような方式が可能なのか、日本はもちろんのこと、海外の先進的な事例もあるかと思う。そのような事例を踏まえて議論をしていただいて、金沢市だけではない、全国の自治体の共通の問題意識として考えられる、そのようなシンポジウムになることを心から期待しております。

国土交通大臣 石井啓一

(写真は山田哲也氏)

無電柱化は、安全性、快適性、良好な景観形成・観光振興という三つの観点から大変重要な政策である。阪神・淡路大震災や東日本大震災において、電柱の倒壊による様々な被害が発生している。先日の台風21号でも近畿地方で約1000本の電柱が倒壊し、救急活動や復旧活動に支障をきたし、延べ200万戸の停電が発生した。無電柱化は防災や電力の安定供給の面からでも重要である。

更に風光明媚な景観や伝統的建造物や街並みの景観を阻害していることから景観形成及び観光振興の面からも重要だと考えている。

しかし、我が国の無電柱化は著しく遅れている。ロンドン・パリなどの欧米主要都市は、100%無電柱化、アジアの諸都市でも台北で96%、韓国ソウルでも49%の無電柱化率である。一方、我が国で最も進んでいる東京23区の道路でも無電柱化8%にとどまっている。

無電柱化を進めるには、政府、地方自治体、関係者の一致協力やコストの縮減が重要である。国土交通省としても無電柱化のより一層の推進に努力していくので、皆様のご理解・ご協力をお願い申し上げます。

3.基調講演 「無電柱化推進計画の概要」

国土交通省 道路局 環境安全・防災課 交通安全政策分析官 吉田敏晴


以前、金沢を担当したことがあったが、新幹線の開通に伴って、一層街の景観がよくなっている。これは無電柱化に限らず、街全体の空間を考慮して取り組んだた結果だと考える。無電柱化は、諸外国に比べて大きく遅れている。東南アジアでインフラ整備で負けているのは、無電柱化ぐらいだ。無電柱化が進まない要因として道路の幅員にも問題がある。ヨーロッパは幅員の広い道が多く、インフラ整備がしやすい面もある。

無電柱化推進計画は、一昨年12月に公布・施行された「無電柱化の推進に関する法律」から段階を経て平成30年4月6日に決定された。緊急輸送道路は、全道約120万kmのうち9万kmだが、現在5万kmで新設電柱の禁止措置が完了している。この緊急輸送道路をできるだけ早く100%無電柱化するようにしたい。また新しく法改正をし、幅員が著しく狭い道路に関しては占用制限を設け、新設電柱を建てないよう進めている。

無電柱化するための課題は、財政面(費用面)、ハード面(技術面や人的な問題)、合意形成面(電力・通信・自治体・事業者との合意。それに住民も加わるケースもある)、意識面(国民の無電柱化に対する意識向上)など様々な要因があるが、これらの課題を克服するために法律を整備し、国民の意識を促し、民間の力を借りて低コスト化を図らなければならない。

4.パネルディスカッション「新しい低コスト無電柱化のあり方とは」

パネラー自己紹介

松原隆一郎 放送大学教授

世界では無電柱化が進んでいるが、日本は遅々として進んでいない。日本の電柱の総数は年に7万本のペースで増えている。国道を中心にある程度まで無電柱化が進んでいるが、有電柱道路で電柱の密度が上がっている。電線も逐次増えている。私の計算だと今のままでいくと、無電柱化するのに3700年くらいかかる。

ここまで国道・県都道を中心に無電柱化を進めてきたが、今のままだと頭打ちとなる。1995年から進めてきた電線共同溝方式の手順があまりにも複雑で限界が来ている。諸外国では単独地中化方式で事業者の運営が殆どである。これからは、国が携わった国道中心から事業者が中心の単独地中化方式に変えていかなければいけない。

東京電力によると、架空電線だと0.15億円/km、地中化だと1.65億円/kmとの工事費用の試算が出ている。このコストの差の原因はなぜか。それは、電柱・電線は諸外国では「公害」(外部不経済)と規定され、単独地中化方式にしているのに対し、日本ではこれまでその認識がなかったため、無電柱化や費用削減(無電柱化による低コスト化)には至らなかった。この認識を改めていかなければならない。

井上利一 当NPO法人 理事兼事務局長

NPOの活動を11年やっている。10月現在、157社が加盟。大阪・東京・北海道・沖縄・中部に支部を置き、無電柱化支援事業を行っている。今年の11月10日の無電柱化の日に向けてブックレット形式の書籍を刊行する予定だ。

今年の大阪は,立て続けに災害が起こった。その後,米原で竜巻が発生,西日本豪雨,台風20・21号が発生。その台風21号で、近畿地方を中心に電柱が1000本ほど倒れた。飛来物による電線の接触やそれに伴う電柱の倒壊は非常に危険だ。

国土交通省からの要請で民間からの知恵を結集する民間ワーキンググループを組織し、低コスト化についての提案を企業から募っている。これは会員企業だけでなく、一般でも公募している。今後意見をまとめていき、来年の春に向けて国土交通省の「低コスト化の手引きVer.2」に掲載する予定だ。

磯部康司 金沢市土木局長

金沢市は無電柱化を街づくりと捉え、進めている。金沢城・兼六園を中心とする旧市街地と金沢駅西地区と都心軸の開発優先区域の二つのエリアを無電柱化する方針をたて、昭和43年に全国に先駆けて「伝統環境保存条例」を制定し、平成2年景観条例を経て、平成21年に金沢方式と言われる「無電柱化推進実施計画」を策定した。

計画の目的は、金沢らしいまちなみの特徴を活かし、地域の実情に合わせた整備手法を組み合わせた無電柱化を推進することである。そうすることで、新技術の導入や住民の合意形成が得やすいなどの利点がある。

平成23年以降、金沢市の年間入り込み客数や外国人観光客数は年々増加している。金沢旅行で満足したことも「街並み」「史跡・名所等」が2位、3位を占めている。無電柱化の効果だけでなく、新幹線の開通や長年における街づくりの取り組みが実を結んだ結果だと考えている。

塚崎勝訓 北陸電力 配電部長

北陸電力は、富山県・石川県・福井県の三県を管轄している。北陸電力管内の無電柱化実績は昭和61年度から平成29年度にかけて、国の方針に合せて進められた。累計で約200km。距離にすると、一本の道路にして丁度、金沢市から福井市の距離に相当する。

北陸電力管内の主な無電柱化の事例を紹介したが、金沢市は、色んな手法を使って当社と無電柱化に取り組んできた。無電柱化の課題としては、歩道の狭い(無い)道路等における無電柱化への対応、路上機器の設置場所の確保、無電柱化工事のコスト削減、工期短縮・効率的な施工などが挙げられる。

無電柱化の推進に向けては、地域の理解・協力、電線管理者として、浅層埋設や直接埋設に加えて、小型ボックス導入検証への協力などの新しい手法への取り組みを進める。道路管理者と電線管理者が相互に連携を取り合い、昼間工事の拡大や効率的な工法開発による工期短縮も今後、進めていかなければならない。

北陸における無電柱化の意義と方法、課題等


磯部:金沢市は街づくりを中心に無電柱化事業を進めてきた。国の方針とは真逆のようにみえる。街には、歴史的保存地区や城下町として古くから道路が整っている状況から街並み保存と一体となって無電柱化を進めることができた。

一方で、香林坊地区などの新開発地域でも新幹線の開通や、インバウンド効果など、回遊性が高まり、無電柱化事業を進めることができた。金沢市周辺でも活断層は存在するので、今後は、景観保全と同時に防災面からも無電柱化を検討していかなければならない。

課題としては、やはりコスト縮減が第一に挙げられる。予算を大幅に増やすことができない現状から施工方法や施工材料の低コスト化は重要である。また、金沢市は、地域の実情に合わせて、色んなバリエーションの無電柱化工事を行ってきた。色んな事例をつくることによって、他の自治体の参考にしていただけるとありがたい。

塚﨑:この30年間、しっかり工事を行ってきた。今後は、主要幹線以外の道路も手掛けていかないといけない。北陸はまだまだ観光地で無電柱化が進んでいないところが多い。福井新幹線地域の芦原温泉など、温泉地も数多くある。課題に関しては、コスト低減が先ほどから出ているが、夜間ではなく、昼間に工事を行うことでコストを下げることができることも課題に挙げたい。

井上:北陸地方の特徴は富山・石川・福井がコンパクトにまとまって観光資源が充実している。三つの県庁所在地がわずか136kmと近い。このことから考えると、観光地だけでなく、住宅地として注目される可能性も高い。

その住宅地だが、電柱が増えている原因の一つが宅地開発による新設電柱の増加である。宅地開発の際に電柱の新設を認めないよう進めていただきたい。実際、つくば市は、電柱の新設を認めない条例をつくっている。

また、住宅地は幹線道路と違い、トラックなどの重量の重い車両が通らないので、浅層埋設など低コスト手法を取り入れやすい。更に民間の力も取り入れたい。課題は、重伝建地区でのアンケートから、電力・通信会社との調整の難しさが挙がっている。地域によると思うが、スムーズにいくように取り組んでほしい。

松原:明治以降、高度成長路線のもと電柱が立ってきた。しかしここ最近、大きな異変が起こっている。ロシア・中国が大国となり、アジア周辺国が先進国となり、信じがたいことに貿易のライバル国になっている。

こうなってくると神戸港にはコンテナ船が入らなくなっている。そこで注目されるのが、金沢港である。明治以前の江戸時代では、金沢・富山・新潟が貿易の表舞台だった。それが、今、現実となっている。

また昔は「景観では食えない」と言われていたが、それを大転換したのが金沢市で、景観形成をもとに地方創生を果たしている。いわゆる「金沢方式」で全国でも貴重である。今後、国が地方に条例をつくれと進めるときに、参考になるのがまさに金沢市であり、今後の地方創生のヒントになる。

髙田:まさに北陸が表舞台となる時代となってきた。地中化では、先進地域である北陸が今後果たす役割は大きい。

最後に一言


井上:課題は様々ではあるが、現状は、道路管理者、電線管理者、住民の三者で無電柱化を進めているが、各地域の電力会社や行政、協力会社のパイプをもつ我々のような専門家を入れることによって、無電柱化を円滑に進める役割を果たすことができるので、これからは四位一体で進めていただきたい。

塚﨑:井上さんの話にも出ましたが、我々としては、地域住民・国(道路管理者)・電線管理者の連携が大事だと考えている。中期・長期など数値目標をとって、三者が同じ方向に向いて事業が進められるようにしていきたい。

磯部:金沢市は、無電柱化事業を30年あまり進めてきたが、今後も益々関係各位と連携をとりあっていきたい。また様々な場所で無電柱化を進めていくためにも無電柱化工法のバリエーションを増やしていきたい。

松原:最後に占用料の話をしておきたい。占用料は架空線に限って存在するのではなく、地中にも存在する。ただ、現状の外部不経済を解消するために地中化するのであれば、各自治体は占用料を取らない形で考えていただきたい。これは、強制できない私の要望です。

髙田:本会で「外部不経済」という言葉が出てきた。今回の台風(20号・21号)の被害は、暗算しただけでも被害額は軽く1000億円はかかっている。1000億円あれば、200㎞分無電柱化できる。半分コストダウンすれば400㎞。全国の無電柱化の年平均が200~400㎞と言われている。地中化することで、被害を防げ、また公害を疎外することができるのではないか。

協賛企業・機関の展示について

協賛企業展示について

今回、中部地方で無電柱化に取り組む会員企業・金沢市の協力を得て、シンポジウム参加者への低コストの製品カタログや、低コスト化手法に関わる製品展示コーナーを設けました。製品のホール展示は、ホール出入り口すぐのホワイエのスペースに、シンポジウムの開始前や、休憩時間に見学できるように実施。今後のシンポジウム会場でも機会をつくっていきたいと考えています。

【協賛機関・企業】

金沢市、フジコン㈱、未来工業㈱、東拓工業㈱、古河電気工業㈱、ジオ・サーチ㈱、共和ゴム㈱、㈱クボタケミックス、福西鋳物㈱(順不同)