2022年4月7日(木)10:00~11:00に東京電力パワーグリッド株式会社様(以下、東電PG(株)様)のご協力をいただき、自身のインターン企画についての取材をオンライン(Cisco Webex)でさせていただきました。

◆取 材 者

NPOインターン 山内翼

◆取材協力者

東京電力パワーグリッド株式会社
無電柱化推進グループマネージャー 近藤様
配電部 無電柱化推進グループ     桒原様
配電部 無電柱化推進グループ     田川様

◆取材の目的

2019年9月に上陸した台風15号は、特に千葉県に大きな被害をもたらした。
中でも深刻だった被害の一つに停電がある。停電被害は最大93万戸、概ねの停電復旧(停電軒数がピーク時と比較して99%解消)にかかった時間は約280時間と報告されていて、近年の停電被害では特に大きな数字だという。
これらの主な原因は、暴風に伴う飛来物や倒木によって電柱が破損・倒壊したことから生じている。電気の供給が止まり、社会インフラとしての機能を一時的に失われた。
このような被害を起こさないため、電力会社では被害に基づいて対策をして再発防止を考えているはずであると考えた。
そこで、社会インフラとしての電力供給と防災は今後どのように進めるべきか、電力会社様を取材し意見を伺う。
記事にすることで当NPOの目標である無電柱化の推進に防災面からアプローチできると考えた。

質疑応答

Q1. 2019(令和元)年の台風15号による被害状況(停電戸数、倒壊した電柱や鉄塔の本数、被害総額など)について教えて下さい。

東電PG(株)様の回答
A1. ・停電軒数:最大約93万軒(9月9日8時)。このうち千葉エリアは約64万軒。

・配電設備(架空線):支持物1,996本、架空線5,529経間、変圧器431台
・倒壊した電柱1,996本は、電気設備基準を満たした設備形成で巡視・点検についても保安規程に基づき適切に実施していることを確認しています。
・電柱折損・倒壊等の原因は、各種調査の結果から、全て倒木・建物の損壊や飛来物、地盤の影響による二次被害であると判断しております。

※事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するため、電気事業法第42条に基づき、基本的な事項を定めて、事業者自らが作成し、国に届け出ているもの。
・送変電設備:鉄塔倒壊2基、鉄塔腕金・部材変形2基、電線素線切れ2条、送電設備がいし破損1連、変電設備がいし破断1相
・倒壊した鉄塔2基については、電気設備の技術基準を満たした設備形成で、巡視・点検についても保安規程に基づき適切に実施していることを確認しています。
・倒壊した鉄塔については、急斜面で風が著しく増速したことにより想定以上の力が加わり倒壊したと判断しています。

【参考資料】経産省・事故検討ワーキンググループでの報告

 

Q2.今後このような被害が起きないようにするための取り組みについて教えてください。

東電PG(株)様の回答
A2. 台風15号による被害を受け、二次的被害による連鎖倒壊防止処置をとるこことなり、改正された技術基準の内容を踏まえ、適切に対応をしていきます。

電柱などの配電設備はそれ自体が倒壊したというわけではなかった。二次的被害を防ぐため、飛来物対策のPR活動や、自治体と協定を締結し、連携した事前伐採の推進を実施している。特殊地形で鉄塔が倒壊するなどした送変電設備については、特殊箇所で風速測定や強度評価を実施し、総点検、必要に応じて補強を実施する。同様の被害を出さないような取り組みをしている。

Q3.台風15号のあと、どのようなところを優先的に対策してこられましたか。また今後どのようなところを無電柱化するのが良いと考えますか。

東電PG(株)様の回答
A3. ・電線共同溝方式について
これまで同様、道路管理者の対象路線の着手に合わせた事業化を推進して参ります。

・単独地中化方式について
第8期無電柱化推進計画で長期停電・通信障害の防止を目的とする区間は電線管理者が主体的に実施すること(単独地中化)が明確化された。これを受け、第35回電力・ガス基本政策小委員会にて示された基本方針などを踏まえつつ、優先順位をつけて実施して参ります。

・単独地中化方式選定箇所について
レジリエンス強化のため、重要施設への供給ルートが複線化されていない区間等で東電PG(株)様が実施主体となり無電柱化(単独地中化)を行っていくことで検討中。木々の伐採により発生する費用等を含め、経済的な面でも区間毎に優先順位をつけて対応していきたい(下図参照)。

・第8期無電柱化推進計画の期間(2021~2025年)の中で市街地等の緊急輸送道路における無電柱化を「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化計画」の一環として行っていく。
・無電柱化推進計画における全国4,000kmという目標のうち、市街地等の緊急輸送道路の無電柱化対策は2,400kmとしている。・第8期無電柱化推進計画の期間(2021~2025年)の中で市街地等の緊急輸送道路における無電柱化を「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化計画」の一環として行っていく。
・現在の無電柱化事業の9割が、道路管理者が実施主体となっている電線共同溝方式で行われている。
東電PG(株)様としては道路管理者に対して的確に工事力や設計力を準備し、電線共同溝事業に参画していきたいとのご回答をいただく。

Q4. 無電柱化全体についての御社の取り組み方針について教えて下さい。

東電PG(株)様の回答
A4. これまで同様、国が策定する無電柱化推進計画に対し、行政・地域住民・電線管理者の三位一体の基本理念のもと、無電柱化事業に対し、最大限の協力と積極的な推進を行って参ります。

 

Q5.無電柱化の課題はどのようなところにあるのか 教えて下さい。

東電PG(株)様の回答
A5. 無電柱化の主な課題としては、整備に必要な費用が高い(5.3億円/km)ことや工期が長い(400m区間で7年程度)ことが挙げられ、行政と電線管理者で協働して、低コスト手法の検討や低コスト機材の開発を行っているところです。また、それ以外にも道路管理者側でノウハウがないことや、事業を理解している人材が不足しているなどの課題も地方自治体のアンケート(下図参照)で明らかになっています。

国土技術政策総合研究所(国総研)で今春「無電柱化事業における合意形成の進め方ガイド(案)」が作成され、行政側のノウハウ不足の解消に向けた取り組みが行われている。

 

Q6.鉄塔と送電線についても地中化できるのか教えて下さい。

東電PG(株)様の回答
A6. 技術的には送電設備(鉄塔・送電線)を地中化することは可能。ただし、送電設備は地域特性に応じて、架空送電線と地中送電線を使い分けしているのが実態です。

※送電設備とは、発電所と変電所もしくは変電所と変電所を接続している設備

山間部など人の往来が少なく、線路亘長の最小化できる地域では、架空の送電設備を使っている。一方、密集地・高層地域では、鉄塔などを設置する用地確保が難しい面から地中化を選択している。

 

(回答のつづき)架空送電線・地中送電線には各々特徴があるため、送電系統の供給信頼度・コスト・実現性なども含めながら、最適な設備構築を行っております。


Q7
. 整備面では架空のほうが整備しやすいのか 教えて下さい。

東電PG(株)様の回答
A7. 架空設備は、道路上の占用スペースが電柱のみであることや、使用する機器・電線が地中設備と比較して簡素であることから、コストが安く、施工期間が短くなり、整備がしやすいと言えます。

・東京銀座などの、電力需要が大きいところでは、単独地中化を進めてきた経過があるとのことです。

 

Q8.今後の災害と安定的な電力供給との関係についてのお考え(特に房総半島)をお聞かせ下さい。

東電PG(株)様の回答
A8. 上掲のA2・A3でお答えした内容を着実に実施していくことが重要であると考えております。

・特に房総半島だけの対策というより、原因分析とその対策を、受け持ちエリアすべてで実施していくことを考えておられています。

 

Q9 無電柱化についての御社からのご意見や要望などをお聞かせ下さい。

東電PG(株)様の回答
A9. 事業期間が長いという課題を解消するため、電線管理者であるメリットを最大限生かし、本体工事と引込連系管工事の包括受注を積極的に行って参ります。包括受注により、工程改善や手戻り防止によるコスト縮減・工期短縮を実現し、無電柱化事業の更なるスピードアップにつなげていきたいと考えております。

東電PG(株)様 資料より

電線管理者として実施主体を一括で行うことで工期の縮小に取り組んでいる

(1)長年無電柱化を行ってきたノウハウから地上機器の設置場所や、通信線を含めた配線設計から、精度の高い詳細設計をダイレクトに作成でき、工期短縮につながる。

(2)設計段階から試掘を前倒しで行うことで施工時の支障物による手戻りを防止することができる。

(3)本体管路工事と引込・連系管工事を同時に行うことで掘削回数を削減し、スムーズに工事を行うことができる。こうした工事を進め、実際に巣鴨では通常7年近くかかる工事を3~4年に工期を短縮することに成功した。

◆まとめ

今回、東電PG(株)様を取材して、台風被害を受けて、その対策や今後の電力の安定供給についての考え方をうかがうことができた。東電PG(株)様は、台風15号での被害を経て、今後同様の被害が出ないような様々な取り組み(検証と防止策)を実施されている。

今回の企画で注目した台風15号は、それ以前に発生した台風21号とともに、想定外の強風や大雨をもたらし、冒頭の表のような被害をおよぼした。自然災害とそれに対する対策は今後も日本で生活していく中では避けて通ることのできない問題である。
上記の表の被害状況の数値から、災害対策の一つとして無電柱化事業の実施が考えられる。

しかし、それを実施する上での課題として、費用が高いことと工期が長いことがある。

費用が高いことに関する東電PG(株)様の見解としては、行政は埋設深さの緩和や補助金の創設等、電線管理者は低コスト手法や機器の開発を行うことで事業費用削減を進める姿勢を示している。市街地等の緊急輸送道路は道路管理者と協力し電線共同溝方式による無電柱化を進めると共に、病院などの重要施設への供給ルートで複線化がされていない区間等については第35回電力・ガス基本政策小委員会で示された基本方針を踏まえつつ、優先順位をつけて実施していく。これは自然災害による1次的被害の防止だけでなく、2次被害の防止にもつながると感じた。

台風災害対策には無電柱化が有効であるが、まだ課題点が多い。課題を解決し、無電柱化事業を加速化するには、国・地方自治体・電線管理者が三位一体となり、それぞれが知恵をしぼって進めていかなければならない。当NPOもその一躍を担うべく、低コスト&スピードUPに今後も取り組んでいきたい。 最後にお忙しい中、取材にご協力いただいた東京電力PG(株)の皆様に感謝申し上げます。