近年、日本各地で水道管の破裂や道路の陥没事故が相次いでいます。突然アスファルトが陥没し、通行人や車両が巻き込まれるケースも発生しており、市民生活に大きな影響を与えています。このような事故の原因の一つとして、老朽化した水道管や下水道、など、地下インフラの維持管理の遅れが指摘されています。

また、政府が推進する無電柱化(電線の地中化)の動きが進む一方で、すでに飽和状態に近い地下空間の管理は本当に追いついているのかという疑問も浮かび上がります。日本の地下インフラは今、どのような状況にあり、どのような課題を抱えているのか。本記事では、地下インフラの現状と、これから求められる対策について掘り下げていきます。

日本の現状

現在使用されている多くの水道管は高度経済成長期(1955年~1973年)に国土全体で大規模なインフラ整備が進められ、過半数がすでに耐用年数を超えており、この時期に敷設された多くの水道管が、設計上の耐用年数である40年を同時期に迎えています。日本全国に張り巡らされた水道管の全長は2024年の調査約74万km、地球約18.5周分の長さに相当します。そのうち2020年の時点で15.2万㎞(約21%)、が耐用年数を超え、老朽化していると言われています。

「いま知りたい水道―日本の水道を考えるー」厚生労働省2023年3月より
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001076282.pdf

なぜ老朽化した水道管の改修工事が行われないのか。

実は道路陥没事故は年間で1万件以上発生しているのです。最近起きた陥没事故としては、2025年1月28日に発生した埼玉県八潮市の陥没事故が記憶に新しいです。
八潮市の事故は、下水管の老朽化に起因した事故ですが、国土交通省道路局の調査(下図)によると、道路排水施設関連も多く、他にも様々な要因があることが分かりました。

クリックしてr2-r4kanbotu.pdfにアクセス

このように事故が多発しているにもかかわらず、なぜ改修工事が行われないのか。その理由を調べることにしました。

➀コスト面

人口減少による水道料金の徴収料金の減少により、 改修工事が間に合ってない。

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc111110.html

日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少の一途を辿っており、2060年には8,674万人にまで減少するという見込みがあります。

これにより料金収入も減少し経営状況は厳しくなっているのです。

生活用水に関しては、全国の自治体の水道局が主に運営しています。日本水道協会や各自治体では将来の給水において将来の見込みも含めた統計調査を行っていますので、ここで2例紹介します。

■大阪市の場合

現在、比較的人口数が安定している大阪市でも、現在・今後ともに1人1日あたり使用水量(ℓ/人/日)は右肩下がりを予想しています。

1人1日あたり使用水量の推計(説明変数の将来推計)

1)65歳以上就業者数(要因:在宅時間の減少)

65歳以上就業者数は、近年増加傾向にあり、今後もこの傾向は継続するものと考えられる。ただし、65歳以上就業者数が直線的に増加していくことは考えにくいため、65歳以上の在住人口の増加率から、65歳以上就業者数の上限値を設定した時系列傾向分析により将来推計した。

2)住宅着工数(要因:節水機器の普及)

住宅着工数は、近年、増減を繰り返しながらもやや減少傾向を示している。今後も同様の傾向が続くものと考えられ、その減少傾向を捉えられるよう、時系列傾向分析により将来推計した。

3)1人あたり消費支出額(要因:経済的な影響)

1人あたり消費支出額は、近年、増減を繰り返しながらほぼ横ばい傾向を示している。今後も同様の傾向が続くものと考えられ、将来推計については、過大な推計とならないよう、ケース1については25年間の平均値を、ケース2については最小値を将来値設定し、推計期間、線形的に延伸した。

大阪市水道局「水道事業の今後の収支見通しの見直しについて」2023(令和5)年2月よりhttps://www.city.osaka.lg.jp/suido/cmsfiles/contents/0000592/592323/syusiminaosi.pdf

■鹿児島県肝入町の場合

次に鹿児島県肝入町を紹介します。

水道事業会計の状況について
https://kimotsuki-town.jp/soshiki/suidoka/1/5595.html

このようなデータから、収益減少による経営状況の悪化、水道技術者不足等の問題から老朽化した水道管の点検、更新が困難になってきているのは大きな問題だと考えています。

➁設計図上の問題

水道管、下水道管、ガス管、電力線、通信ケーブルなどのインフラは、インフラオーナー各社による管理の為、基盤地図の相違や管理手法・位置精度などの基準や手法もバラバラである事から、管理台帳と埋設現況の相違がでることがあります。

各々のインフラ工事の際、管理台帳と埋設現況に相違があった場合は、設計精度が低下し、掘削時の埋設物破損事故のリスクが高まったり、設計で計画した通りに埋設出来ない事象が発生する可能性があります。こういった事象が発生した場合は、修正設計が必要になったり、施工がストップしてしまうこともあります。

事故を防ぐための対策

地下に様々なインフラ設備が埋まるなか、事故を未然に防ぐ対策は取られているのでしょうか。その疑問を大阪ガスネットワーク様にたずねてみました。

1)耐久性の高いガス管を使用

大阪ガスでは、ポリエチレン管という耐震性の高いガス導管を採用しており、土中に埋設しても腐食する恐れがなく、半永久的な寿命を持ちます。埋設管として柔軟性にも優れ、十分な強度を持っていることが、阪神淡路大震災、東日本大震災で確認されており、不等沈下や地震に対しても強いという特性を持っています。

2)都市ガス業者の地震対策

地震発生後の二次災害防止のため、供給エリア内に約3,300の地震計を配置するとともに、ガス供給設備へ、感震自動遮断装置や遠隔遮断装置などの設置を行っています。これらの設備により、本社中央指令室からガス供給停止を速やかに行います。

上下の図とも、大阪ガスネットワーク資料より
https://network.osakagas.co.jp/citygas/disaster-measures/emergency.html

実際に地震が発生した場合、揺れの大きかった地域のガスを速やかに停止します。ガスの供給エリアをあらかじめ細かく分割し、そのエリアごとの揺れに応じて供給停止の是非を判断することで、停止範囲を最小化するようにしています。また、また各家に設置されているマイコンメーターが、震度5相当以上の強い揺れを感知すると、家屋内へのガスの供給を自動的に停止します。これにより、二次災害の危険性を排除しています。

各自治体での対策

水道管の老朽化による損失も出ています。例えば、2014年神奈川県川崎市では、浄水処理した水が蛇口へ届くまでに水道管からの漏水で年約1,000万トンが失われ、その損失額が約14億円に上ることを明らかにしました。同局によると2012年度の漏水量は1,072万トン、浄水場からの配水量は計1億8,489万トンあり、5.8%が漏水で失われた計算になります。

この漏水に関して、各自治体での対策はどうなっているのか、神戸市水道局様にお話を伺いました。

今回取材に応じてくださった神戸市では有収率(送り出した水道水の量に対して料金として収入のあった割合)の向上、漏水による2次災害の防止、資源の有効活用の観点から「漏水の損失」は出来るだけ少なくなるよう取組みをおこなっているそうです。具体的には、市内全域の漏水調査をおこなっており、最近では人工衛星から得られる衛星データの解析による漏水調査を試行しているとのことです。

地下埋設の取材を通じて

取材当初は、水道管の破裂や道路の陥没事故から、無電柱化の地下埋設は大丈夫かを検証する目的でしたが、この取材を通して、データ管理を含めた施工の際の安全性やメンテナンスも含めたインフラ設備の維持管理が重要であることに気がつきました。

無電柱化を進める際には、地下インフラの適切な管理が求められます。特に老朽化した水道管や下水道と並行して整備を行わなければ、新たな掘削作業が後々の事故を引き起こす可能性もあります。

しかし、道路の種類、周辺の環境、交通量などによって整備手法や埋設方法が違ってきます。また、各インフラ事業者が様々な道路環境のもと、それぞれが苦労や工夫をして進めているので、一概に一元化するのは難しいのが現状です。

地下埋設物の更新や新設を行った際に正確な埋設位置情報を残し、それを活用することで以降の掘削工事の際の事故リスクの低減に繋がると思います。

自治体や民間企業が協力し、無電柱化とインフラ維持の両立を目指すことが重要となります。

最後に

各自治体では、漏水による損失の削減や、新技術を活用した水道管の維持管理に取り組んでいますが、今後は財源の確保や効率的な修繕計画の策定がより重要となります。地下インフラの安全性を確保するためにも、国や自治体、民間企業が連携し、持続可能なインフラ整備を進める必要があります。

今回の取材にあたっては当NPOの会員企業様やインフラ設備に携わる関係者の方々に様々なご意見やご助言をいただきました。

私自身、すごく勉強になりました。

この場を借りて感謝申し上げます。

 

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