◆日時:2019年10月28日(月)14:00~17:30
◆場所:JMSアステールプラザ 2階中ホール
◆講演:大城 温
◆パネルディスカッション:コーディネーター 髙田昇 パネリスト 髙垣廣德、松原隆一郎、永島正敏、井上利一
◆主催:NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク
◆後援:国交省・道デザイン研究会、(一財)日本みち研究所、無電柱化を推進する市区町村長の会、(一社)無電柱化民間プロジェクト実行委員会、NPO法人「日本で最も美しい村」連合、公益社団法人土木学会 、広島ホームテレビ、中国新聞社、広島エフエム放送、中国放送、広島テレビ
◆無電柱化を推進する市区町村長の会・中国ブロック参加自治体:三原市、高梁市、防府市、東広島市、廿日市市、尾道市
◆本シンポジウムは、土木学会のCPD認定プログラムです。(3.3単位)
1.主催者あいさつ
NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク理事長 髙田昇
今回、中国地方整備局、自治体関係者、民間の関係者など、様々な立場の方にお集まりいただいた。このような人たちが集まって、初めて無電柱化は進むと言える。こういう場はあるようでなかなかなく、私たちNPOが当初目標としていた場をここ広島でも開催できたことに自負を持つとともに喜ばしいことと思っている。
今回ご挨拶いただく国会議員の方々の協力もあって議員立法である「無電柱化推進法」を制定することができた。しかしながら、法律ができただけで済む話ではない。法律に基づいて「無電柱化推進計画」を定めても、なかなか進んでいないのが現状だ。ここ広島市においても、メインストリートは確かに無電柱化されているが、一歩メインストリートの外に出ると、蜘蛛の巣状態である。
特に中国地方は重要伝統的建造物群保存地区が多い割りに無電柱化が完了していないところが大半である。なぜ進んでいないかという理由を考えてみると、やはりコストや時間の問題がネックとなっている。その中でも最も大きい問題がコストであるが、現在、国と連携しながら民間が知恵をしぼり、低コストに向けての技術を研究・開発している。
中国地方は歴代総理の輩出も多く、また広島カープに代表されるように地元愛の強い地域である。その地域を愛する気持ちを是非無電柱化にも注いでいただき、美しい街づくり、外国の方が違和感なく観光できるような街づくりを目指してほしい。
来賓挨拶
衆議院議員 平口洋 (代読:平口洋事務所事務局長 深田敦雄)
本日は皆様と議論することを楽しみにしていましたが、国会の日程と重なってしまい出席することが叶わなかったことお許しください。今年、日本列島は台風15号、19号、21号と近年にない多くの災害に曝されました。災害で亡くなられた方に謹んで哀悼の意をささげ、また被災された皆様には謹んでお見舞いを申し上げます。
その中でも千葉県の災害では、停電が1週間、それ以上にも及んだが、この原因として電柱が倒壊したことが挙げられる。その影響は何十万世帯にも及んだことからも、電線は地中にあった方がより安全です。
皆様には電線の地中化への代替えを一歩でも前に進めていただき。それによって、国民経済や国民福祉への向上に道が開かれることを望みます。
中国地方整備局長 水谷 誠
中国地方での開催は初めてということで、主催者をはじめ関係者の皆様には厚く御礼申し上げます。無電柱化については昭和60年代から計画的に進めており、平成28年度には「無電柱化推進法」が成立して、より強力に推進する仕組みが整った。全国的には1万km、中国地方では560㎞の道路で無電柱化をこれまでに行った。
しかし欧米諸国はもちろん、アジアの都市と比較しても、無電柱化に関してまだまだ遅れていて、日本国内で3,600万本、しかも毎年7万本ずつ増えている。無電柱化は、災害被害の予防、良好な景観の形成など多くの効果が期待される施策であると考 えている。とりわけ昨年の台風21号及び今年の台風15号など、近年では自然災害が非常に激甚化している。また、高齢者が歩道を歩く機会が増加していくことや、訪日外国人をはじめとした観光のニーズが高まっている。このことから無電柱化の促進はますます必要性の高いものになると考えられる。
現在、政府では平成30年度から令和2年度にかけて、全国で2,400㎞という無電柱化の目標を掲げている。この目標は非常に高い目標であるが、達成のためにも各地域で計画的に取り行っていかなければならない。中国地方でも昭和60年代から関係者による「中国地区電線類地中化協議会」を立ち上げて活動している。政府の目標を受けて、中国地方でも3年間で合計110㎞の地中化を目標に実施していく。しかしながら全国的に中国地方はまだまだ無電柱化が進んでいるとは言えない地域なので、関係者が連携・協力しあっていかなければならない。
3.講演「無電柱化を取り巻く最近の情勢」
国土技術政策総合研究所 道路交通研究部 道路環境研究室 主任研究官 大城 温
無電柱化には三つの目的があって、防災、安全・快適、景観の観点から推進している。無電柱化の整備については昭和61年から進めてきたが、法律が定められたのは平成28年度の「無電柱化の推進に関する法律」からであり、国を皮切りに、無電柱化推進計画が策定し始められた。
この無電柱化推進計画は道路管理者とともに電線管理者が自ら無電柱化を推進することが定められている。この計画の目標を達成するために1,400㎞の無電柱化が必要であり、これを完遂するために様々な無電柱化の手法が用いられている。一方で、平成30年には台風21号による電柱の倒壊が発生し、これを契機に緊急対策として、この目標にプラスしてさらに1,000㎞の無電柱化を行う予定である。これによって今までの計画よりもかなり多い2,400㎞の無電柱化の計画が進められている。無電柱化にあたってはコストが高いことや、関係事業者との調整が困難である等の課題が多い。
実際に整備すると地中深くに管路を設置し、巨大な特殊部によってコストが高くなってしまうことがあるが、浅層埋設・小型ボックス・直接埋設など、コストを下げるための工夫が現在試験されたり研究されたりしている。特に小型ボックスの活用では現在全国で4か所行われており、新潟県見附市、京都市中京区先斗町通、千葉県睦沢町、愛知県東海市で実際に施工された。また埋設基準や離隔距離基準の規制緩和やもともとあった管路に電線を入れることによって新たに特殊部を設置することなくコストを低減することができる。他にも軒下配線や裏配線など直接ケーブルを埋めることなく電線を隠す手法や、原材料を変えて材料費を下げることも考えられている。
無電柱化の方法 | 実現状況 | 現状と課題 |
浅層埋設 | 実用中 | コストが高い |
小型ボックス | 実用化
(国内4例) |
意外と高くついている。更なる低コスト化を! |
直接埋設 | 実証実験中 | 海外では実用化されているが、日本はまだ検証中 |
その他の方法 既設管路を活用する(既設管路が意外と残っている)、道路整備と合せて地中化をすることでコストダウンを、FEP管やCCVP管の改良など、低コスト製品の開発 |
道路法第37条によって新設電柱の占用制限が実施され、全国で約6万㎞において、占用の禁止を実施している。またこの占用禁止の運用指針に基づいて、交通が輻輳している場所や緊急輸送道路についても順次適応されている。占用制限も徐々に適応範囲が拡大されつつある。
また制限だけではなく「防災・安全交付金」を交付し、無電柱化の資金的支援も行われている。他にも、官民連携無電柱化支援事業として占用制限や官民連携の具体的な手法について検討しつつ、社会資本整備総合交付金等を活用して、道路事業と一体となって電線管理者が行う無電柱化を支援している。
観光による地域振興に向けた無電柱化の推進を図るため、電線管理者が実施する無電柱化を支援している。具体的には、観光地において電線管理者が実施する単独地中化や軒下・裏配線を国と地方公共団体が補助している。
その他、直轄国道においては架空から地下に設けた電線類および架空に電線類が設置されていない道路の地下に設けた電線類に対し、占用料の減額措置を実施する。これに併せて地上機器・ケーブル・通信設備は特例として道路法第37条に基づく占用制限区域の場合、固定資産税の課税標準を4年間1/2に軽減し、それ以外の緊急輸送道路の場合、固定資産税の課税標準を4年間3/4に軽減される。
無電柱化ワンストップ窓口を設置し、無電柱化をしたことのない自治体にアドバイスを行っている。無電柱化推進条例は日本で初めてつくば市が無電柱化条例を制定したことや東京都も条例を策定しており、大阪府や芦屋市等では無電柱化推進計画を制定している。
※国土交通省道路局 環境安全・防災課長の渡辺学様が公務のため欠席となり、代わって大城様が講演。
講演「海外における無電柱化の現況」
国土技術政策総合研究所 道路交通研究部 道路環境研究室 主任研究官 大城 温
まずどのくらい海外では無電柱化が進んでいるのかということについて。日本はヨーロッパをはじめ北米、アジアの都市に無電柱化率を大きく引き離されている。
ロンドン | 市内の配電用の低圧線はすべて地中化済みである。地上機器についても都心部では建物内に設置され、歩道上には地上機器はない(郊外部では必ずしもそうではない) |
パ リ | パリ市内は電力供給当初から地中化されており、周辺地域についても無電柱化率は74~91%に達している。地上機器はすべて建物内や地下に設置され、歩道上に地上機器がなく、パリ近郊についても建物内等に設置され、歩道上に地上機器はない |
ハンブルグ州(ドイツ) | 低圧(0.4kV)のケーブルについては少し(3.5%)架空線が残っているが、中圧(10、25kV)のケーブルについては完全に地中化されている |
ニューヨーク | ニューヨーク市のマンハッタンでは地中化率100%だが、1884年に地中化条例が制定され、1888年のブリザード被害を契機に地中化は一気に進展した。ニューヨーク市の郊外部では地中化率が低い地域もあるものの2012年のハリケーン被害等を受け、郊外部でも電力会社が無電柱化を推進 |
ワシントンDC | ニューヨーク市よりも地中化率は劣るものの6割程度のケーブルが地中に埋設されている |
モントリオール市
(カナダ) |
モントリオール電力サービス委員会(CSEM)が組織されており、州政府、市政府、電力会社(ハイドロケベック社)、通信事業者から任命された代表で構成されている。この組織は独立採算制で、建設した管路等を電力・通信会社に賃貸し得られた収入で無電柱化事業を実施している。モントリオール市の気温が低いため凍結対策等で地中化のコストが高いこともあって進みは遅いものの、毎年約3㎞の地中化事業を実施している。地上機器に関して、中心部では地下への設置が原則だが、郊外では民地所有者と地役権に関する協定を締結し、一般的に道路端から約3mのスペースを公有地として使用し設置している。 |
シンガポール | 非常に景観についてこだわりの強い都市でもあるので、1960年代に政府が架空線や電柱を認めない方針を決定し、無電柱化を推進している。現在では配電線の無電柱化率は100%である。 |
台北市
(台湾) |
1960年代より地中化を実施していたが、本格的には1981年以降の台北市の道路拡幅事業に併せて地中化が推進されてきた。また1992年に地中化に関する基準が制定されたことにより、電力・通信会社が地中化を推進、現在では中心部の無電柱化率は95.6%となっている。ただし引き込み線は従来通り架空線となっている場所もある。地上機器の設置場所は主に歩道や植栽帯だが、設置スペースが足りない場合には路上に設置したり、設置場所を確保するために地上機器を2階建てで設置したりしている場所もある。 |
バンコク市
(タイ) |
1980年代から無電柱化を計画されていたものの当初は進まなかったが、増え続ける光ファイバーの敷設需要に対して物理的に電柱では耐えられなくなったため、電力会社が二次占用を認めず、地中化が進む契機となった。 |
ホーチミン市
(ベトナム) |
ホーチミン市人民委員会と電力会社・通信会社との協定により、電力会社・通信会社が同時に無電柱化を本格的に実施し2020年までに中心部をすべて地中化(約1,800㎞)する予定だ。管路の埋設位置はかなり浅く、安全性等不明であるが実施スピードがとにかく速いところに特徴がある。 |
ではなぜ海外で無電柱化が進んでいるのだろうか。この原因は一概には言えないが、理由の一つとして、日本が電柱の占用を制限し始めたのは2016年に対して、ロンドンでは19世紀から電柱への制限が存在した。パリでは自治体と電気事業者との契約により地中化が規定されており、マンハッタンについては1884年の地中化条例によって既存の架空線の地中化を義務付けされており、モントリオールについて新規建設に伴う配電網の延長を行う場合、市の規則により地中化を義務付けされている。
また他の理由として、欧米で早くから電力供給が進んだ都市では、裸線の架空線による停電・感電事故が多く発生したが、日本では被覆線による電力供給が進んだため安全上の問題が発生しなかったことも挙げられる。
他にも、日本の場合、配電会社の経営形態が民間企業であるが、海外では国営・国有企業となっている都市が多い。国の方針を反映しやすい国営・国有企業では、無電柱化が進めやすかった要因の一つでもあると考えられる。ヨーロッパについては最近民営化された企業があるもののアジア諸国の配電会社はほぼ国有企業である。しかしニューヨークのように民間企業でも無電柱化率が高い都市もある。したがって、民間企業だからと言って無電柱化が進まない理由にはできないと考えられる。地上機器に関しても欧米等、昔から無電柱化率が高い地域では地上に変圧器等を設置せず公有地または民地や建物内に設置するのが一般的である。しかしながら日本のように近年無電柱化を進めている都市では、日本と同様に地上機器の設置場所に苦慮していることがあるようだ。
どのように海外では無電柱化を進めているのかということについて。まず無電柱化の事業主体について、海外都市の多くは管路・特殊部を電力・通信事業者が所有管理しており、無電柱化事業自体も電力・通信事業者が実施している都市が大部分となるが、日本ではこれを道路管理者が行っている。
事業スキームとしても日本の場合、管路・特殊部に関して道路事業者が負担しているが、海外であれば電力・通信事業者が負担している。例えば2012年に発生した暴風雨等による被害を受け、ワシントンDCのDCPLUG事業ではDC交通局と配電事業者が5割ずつ出資する事業が始まった。ただし停電を防ぐというのが主目的であったため、コストの観点から、一次配電線のみを地中化し、二次配電線・通信線は架空線のままである。この事業の費用は総額10億ドルであったが、DC政府からの資金の75%と配電事業者の資金の100%(全体の87.5%)を全顧客から電気料金に上乗せし回収した。
次の事例としてカリフォルニア州アナハイム市では景観を重要視するという目的のRule20という条例が存在し、既存の架空線の地中化を定めている。これに関しても費用負担は配電事業者が負担し、電気料金に料金の4%を地中化の費用として上乗せしている。各国の低コスト化・迅速化のための技術開発として大きく分けると4つ存在する。①掘削・埋め戻し土量の削減②電線類埋設の機械化③側溝・照明柱など道路の既存ストックの活用④埋設物件を試掘せずに回避することによる損傷回避が挙げられる。
台湾で行われている①は、浅く狭い溝にケーブルを埋設し、埋め戻しの時間短縮のため、低強度コンクリート(CLSM)を使用している。
無電柱化の歴史の長い欧米の郊外部では②の方法を用い、機械を用いて掘削とケーブルの直接埋設を同時に行い、1㎞あたり数千万円以下で施工している。
③の方法は例えば台湾ではアスファルト表層に幅数cmの溝を掘ってケーブルを埋設する微管溝工法を行ったり、モントリオールでは照明柱の下部に電力・通信の分岐部を収納した道路照明を採用したりし、景観の保全や省スペース化を図っている。
④の方法ではケーブル上部にICタグを設置する事例や、埋設物件のデータベースやGIS(地理情報システム)を整備している事例を導入し、試掘せずに埋設物件を回避している。特に台北では台北市道路管線情報センターがデータベースを管理しており、地下埋設物GISはインターネット上で広く公開されている。また占用工事をセンターでモニタリングできるよう、現場に無線CCTVカメラの設置を義務付けており、一般市民もインターネットアプリを利用して閲覧することができる。
4.パネルディスカッション「中国地方で低コスト無電柱化を進めるには」
1.各パネリストの自己紹介(無電柱化との関わりを含めて)
髙田:先ほどの海外の画像を見ているとため息の出るような心持ちであるが、一足飛びにはなしえないので、一歩ずつ現実を見て、課題を引き出し、行動計画に結び付けていかなければならない。先ほども話題に出ていた、低コスト化について議論していただければと思う。まずは一言ずつ自己紹介していただきたい。
髙垣:無電柱化を推進する市区町村長の会の構成メンバーであり、また酒蔵通りという場所で悪戦苦闘しながら無電柱化を行っている。前職は県庁で長い間、建設行政を行っており、平成10年くらいに電線共同溝に少し関わったことがあり、平成20年前後には本格的に無電柱化の方法を考える仕事も行ったことがある。
松原:3冊の書籍を出版しており、「無電柱化推進法」の前に一冊、法案の成立時の政治プロセスなどを記したものを一冊と、法案自体の解説に一冊書いている。最近岡山に行くことがあって備中松山城に行ってきた。高梁市の唯一ともいえる観光資源である備中松山城の近くのホテルから見える風景には電線があった。この電線による景観上の被害というのは算定するのは難しいが、もう少し何とかしなければならないと思った。
髙田:高梁市は私も好きだが、改めて無電柱化の必要性を感じさせられた。
永島:私は電線管理者の立場で呼ばれたと思っている。台風災害や水害など災害に対してどうあるべきかを考えなければならない。電線を維持管理しているものとしては、災害に対する強さ、復旧の速さをこれからますます求められている。そのあたりを一緒に考えていただければ幸いだ。
井上:千葉県の印西市の無電柱化された住宅街では台風15号においても、一切被害が無かったそうだ。私は、NPOの事務局長と民間企業の代表をやっている。NPOは今年で12年続けており、今回で9回目である。シンポジウムが未開催の場所は四国地方を残すのみとなった。それだけでなく会員の企業様と連携して技術の開発なども行っている。
髙田:相談窓口がないことを困っていらっしゃる方もいるようだが、いきなり地方整備局に相談するのは敷居が高いと思われるならぜひ井上氏に相談してみるとよい。ホームページにも掲載されているので見ていただけたらと思う。
2.無電柱化の課題と解決法について 松原隆一郎 放送大学教授
松原:無電柱化の課題について。なぜ電柱がこんなにも建っているのかというと「社会のシステムが電柱を建てたくなるようになっている。」ということがある。また現在のペースで電柱を埋めていくと、すべての電柱を埋めるためには3,000年近くかかってしまう。これをどう改善するかは社会のフレームワークを変えていかなければならない。架空線の建設コストは1㎞あたり1,500万円程度に対して、地中線の建設コストは1㎞あたり1億6千5百万円程度と約11倍である。自由主義経済の中では何の制限もない場合、架空線を建設するのが当たり前となる。しかしながら電柱を建てることに対して現状社会に対する迷惑料(外部不経済のコスト)を負担していない。また電線共同溝法が施工された後、地中化の方式が電線共同溝法一本となったが、その手順も複雑で道路管理者が電線管理者へ「お願い」する形となるので動きが遅くなってしまう。
さて、無電柱化推進法の第1条の目的には「災害の防止、安全・円滑な交通の確保、良好な景観の形成」と明文化されている。これは非常に大きな収穫であると考えている。なぜなら電柱が社会に対して迷惑をかけていることが法律として認定されたことになるからだ。また千葉の台風被害によって「(電柱のほうが)復旧が早い」というのは神話にすぎないということもかなり分かってきた。したがって長期的に見て電線を埋設した方がいいという流れになっている。
また推進法の第5条では電線管理者は電柱の抑制・撤去をしなければならないということになった。つまり電線共同溝法の時に比べて主体的に行動するのは行政ではなく事業者になったということを意味している。これまでは事業者にとって技術革新をするインセンティブは高くなく、約11倍もかかるのだから焼石に水と高をくくっていたが、事業者が無電柱化の主体となれば、低コスト化を自ら進める動機が生まれる。
実際、自由主義経済のなかでいかに無電柱化を進めるかについて、一つは地中化のコストを下げること、つまり11分の1にしなければ新設電柱は増え続けてしまう。二つ目は電柱の占用を制限する地域を設定すること。これら二つは無電柱化推進計画に明記されていることでもある。三つ目は電柱自体に迷惑料を課すことである。電柱自体に迷惑料を課し、その迷惑料で電柱を埋設する費用に充てればうまくいくと思われる。しかしながら実際には二つ目の方法が主軸となっており、三つ目の方法は現実的ではないと考えられている。これから国も電柱の占用禁止区域を増やしていって無電柱化を進めていく。最後に私が試算したところによると電柱・電線の占用料を現在の2400円/年から50倍に引き上げると架空配電のコストが地中化建設コストを上回り自動的に地中化が選択されるようになる。まずは現実的に占用を禁止していく一方でこうした占用料の引き上げという方法もあることを考慮に入れていただけたらと思う。
髙田:いろいろな意見をパネルディスカッションの中で深めていけたらと思う。
3.行政としての取り組み(現状・成果・課題) 高垣廣徳 東広島市長
髙垣:無電柱化は行政の取り組みについて。市民の安全・安心を確保する上で大変大きな問題となっている。東広島市は広島大学の移転に伴い、学園都市の建設と広島中央テクノポリスの二つのプロジェクトによって作られた。インフラも整備されている。西条駅大学線では無電柱化が行われたが、電線共同溝ではなく裏配線によって実施した。
現在は酒蔵通りの無電柱化を計画している。西条は灘(神戸市)・伏見(京都市)と並んで三大酒造地と呼ばれており、そのなかの酒蔵通りは江戸自体からある昔ながらの狭隘な道路である。最近はインバウンドの増加もあり、景観形成に努めている。酒蔵地域では平成26年度から関係事業者と協議し、電線の地中化を計画している。当初は500m程度地中化を行いたかったが、道路が狭隘で地下の埋設物が非常に多いため断念し、小さい区間のみ電線共同溝を行っている。
先ほど電線共同溝が約1.65億円/kmという紹介があったが、我々の時は㎞あたり数億円という巨大な数字となった。無電柱化の課題として一つ目に安全に関する課題として道路が狭隘なため歩行者の方が車道へはみ出してしまうということもよくある。
次に景観形成に関する課題だが、この地域は現在、重伝建地区に認定してもらうように働きかけてもらっているが、最近では電柱が景観の邪魔になっているということを観光客の方から指摘されるようになった。海外の方からも受け入れてもらえるような景観づくりに取り組んでいる。
これから狭隘な道路で面的に無電柱化を図っていかなければならない中で、軒下配線・裏配線や民地を活用するなどの方法を試していかなければならない。本格的に電線の地中化工事を行うにあたって、夜間作業をせざるを得ないことや労働者の確保などの難しさを経験してきた。
今後、単に景観だけでなく市民の安全という意味でも、無電柱化は喫緊の課題となっている。災害の避難路などを中心とした場所をできるだけコストを落とし、優先順位をつけて無電柱化を進めていく必要があると思われる。
髙田:無電柱化は実際の現場では非常に大変な事業でそういったことを乗り越えていくのは住んでいる地域の方である。電力事業者との連携も必要になってくるだろう。
4.電力会社としての取り組み(現状・成果・課題) 永島正敏 中国電力(株)送配電カンパニー配電部長
永島:中国電力管内の電気需要は全国の約7%で電線延長は約10万kmである。これまでに当社では約545㎞の電線類地中化が完了している。地中化の適用範囲は時とともに広がっている。裏配線方式や軒下配線を活用して無電柱化の目的に応じて使い分けていければよいと思う。
無電柱化を行った道路として緊急輸送道路である岡山県の国道53号、歩行空間の確保を目的とした山口県のJR下関駅の東側、歴史的建造物箇所である鳥取県の智頭宿、鳥取県出雲市の神門通り、広島県の西条酒蔵地区である。
一般に地中設備は安全で快適な通行空間の確保というメリットがある一方で、建設コストが高価で機器の設置場所が必要というデメリットが知られている。建設コストが高価という課題については、どうしても昼間の作業ができないため、夜間作業をせざるを得ないが、ご協力をいただけるなら、昼間の作業もやっていきたいと考えている。
5.無電柱化への全国動向と中国地方への期待 井上利一 NPO無電柱ネット理事兼事務局長
井上:大阪北部地震では17万軒が停電し、米原(滋賀県)では竜巻、平成30年の西日本豪雨では停電が約20万戸、平成30年台風21号では停電が約260万戸、令和元年台風15号では93万戸が停電、令和元年台風19号など大きな被害を出している。台風19号では神奈川県武蔵小杉駅周辺の地上機器が浸水したが、被害はなかった。他のエリアでも道路冠水被害が発生したものの、地上機器の被害はなかった。また千葉県の睦沢町にある完全に無電柱化された「むつざわスマートウェルネスタウン」では台風15号の時、被害がなかったばかりか周りの町営住宅団地に電気を提供した。ここでは変圧器にキュービクルを採用しており、一般的なものに比べてかなり大きくなるが、値段を抑えられることから、こういったものを場合によって採用することも検討すべきだろう。
また国民の関心が高まっており、NPOのホームページのアクセス数が台風19号の時には通常の約20倍となった。しかしながら無電柱化推進計画の策定は法成立から約3年経った今も策定率が6.7%と低調で、特に地方自治体は0.5%に留まっており、さらに無電柱化推進条例を策定した自治体は全体の0.2%に過ぎない。私たちは無電柱化を推進する市区町村長の会と連携して、どうやったら無電柱化がもっと進むのかということを一緒になって勉強会を行っている。また、無電柱化低コスト導入に向けて国からの指示があり、ワーキンググループを主催し、低コスト製品の開発・発掘を行っている。様々な商品を提案して国交省の低コスト導入の手引きに掲載してもらっている。
現在年7万本以上の電柱が増加していて、その原因として新規住宅開発地での建柱が挙げられる。これを何とかしないと電柱が増えるのを抑制できない。そこで民間のデベロッパーにある程度のインセンティブを与え、無電柱化をするように仕向けないといけない。実際、芦屋市や白馬村では条例の中で規制している。
髙田:井上氏は私が知っている限りでは日本で唯一の無電柱化コンサルタントであり、コーディネーターであると思っている。
髙田:松原氏からはそもそも社会が電柱を建てやすい構造となっているという話だった。考えてみればガス管が架空であることは考えられない。そういう意味でもやりようはあるのではないか。髙垣氏は単に地中化をするだけではなく、街づくりとして住民とともに取り組んでいくという話だった。永島氏は電力会社として地中化というものをどう捉えているか。井上氏には具体的な低コストの話をいただいた。自身の体験を踏まえて、電柱大国が災害大国でもあるという矛盾した事実や関心は高まるものの行動には移せていないといったことを皆さんに一言ずつ伺っていきたいと思う。
6.無電柱化をどのように行動計画に進めるかについての提案
髙垣:無電柱化というのは喫緊の課題であるということを改めて実感した。一つの大きな課題として優先順位をどうつけていくかという問題がある。我が国の市街地はかなりの割合で浸水予想地域である。実際、今回の災害においても市街地がかなり浸水している。そのような状況でどういうネットワークを作っていくかというところが課題であると思われる。
永島:実際、プロセスなどはまだまだ調整中で、限られた予算の中で費用対効果を考えながら、どう進めるのかというところをクリアにしていかなければならない。目的が違えば無電柱化の方法もまちづくりの仕方自体も変わってくる。電力会社としては街づくりとセットで安い工法などを模索していかなければならない。
井上:つくば市の条例を策定するために奔走した小林氏曰く、占用を禁止すると電力会社が反対してきたが、占用の禁止を決定したうえでどうすればお互いにWIN-WINになれるかを模索したそうだ。個人的には無電柱化を成功させた自治体は数ある困難を乗り越えて成功に導いているので、そのあたりの意識の差が結果に影響してくるのではないだろうか。これまでは道路管理者、電線管理者、住民・商店の三位一体で無電柱化を行ってきたが、実際にはあまり進んでこなかった。これからは例えば我々のような専門家をうまく活用していただければその地域にあった低コスト手法を提案できる。こういった四位一体の協力体制が無電柱化を前に進めていけるのではないかということを考えている。
松原:海外の事例などを見ると、工事中の警備員の数が極端に少なかったりするので、住民としっかりと協力体制を築けていると思う。こういうところで工期の短縮や人件費の削減をすることでかなりコストダウンしていく。先ほどの高梁市でも一番見たいところでお城が見えないというのはおかしい。全然関係のない県道は無電柱化されていて、城に続く道は市道であったため、高梁市がやっていないことが想像できる。備中松山城がない方向の県道を無電柱化するというおかしなことをやっている。街づくりとして成功させるためには、例えば県と市がお金を交換するなど難しい交渉が必要となってくる。ガイドラインが国交省から出た以上、地方の無電柱化が重要となってくるので、そういう街づくりをどうしていくのかということを考えていただきたい。
髙田:私もまちづくりコンサルタントとして色々な地方に関わらせてもらったが、東広島市の話しは非常に印象に残った。結果としてその地域の人にとって安全で魅力を高めていく、文字通りまちづくりの方法としての無電柱化。私がよく思うのは地域の方は誤解が多い。皆で話し合えば、必ずいい方向に変わっていく。一つ一つ問題点を改善していくことによって無電柱化を行うことができる。無電柱化を行えば結果として住み心地は良くなるし、人が集まり、地価が上がる。京都の先斗町は電柱によって街の良さを失っていたが、苦心して無電柱化することにより、街の良さを取り戻した。この無電柱化は住民が主体となって進められたが、こういうプロセスを経れば、地上機器の置く場所の問題などはおのずと解決する。課題はいろいろあるが、プロセスを大切にし、街づくりとして無電柱化を進めていくことが重要だ。