「電線地中化は10倍のコスト」「景観向上や災害対策に」無電柱化の利点と課題

[写真]電線などが地中に埋設され、すっきりとした街並みのスマートシティ潮芦屋=兵庫県芦屋市

[写真]電線などが地中に埋設され、すっきりとした街並みのスマートシティ潮芦屋=兵庫県芦屋市

 都市景観の向上などを目指し、道路上の電柱などをなくして地中に電線を埋設する「無電柱化(電線類の地中化)」の議論が活発化しています。自民党の「無電柱化小委員会」(小池百合子委員長)はこのほど、新規に整備する道路での電柱や電線の設置を原則禁じるなどの法案をまとめ、今国会で論議し、来年4月の施行を目指す方針を打ち出しました。無電柱化が進んでいる欧州の主要都市などと比べ、日本は大きく立ち遅れていると指摘される一方、電線を地中に埋めるコストが高く、なかなか進んでいない側面もあります。無電柱化にはどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

ロンドン、パリは無電柱化100%
国土交通省のまとめによると、世界の無電柱化率は英・ロンドン、仏・パリは100%を実現しており、香港も100%、台湾・台北も95%とアジアでもかなり達成されています。一方で、日本国内は東京23区で7%、大阪市で5%にとどまっています。

都市計画家の高田昇氏(立命館大客員教授)は無電柱化のメリットについて、(1)都市景観の改善(2)地震などの災害時に電柱が倒れたり、電線が垂れ下がって道路などをふさぎ、物流などをさまたげる恐れをなくす(3)現状では電柱が歩道幅などを狭めており、無電柱化によって車いすなどが通りやすくなり、バリアフリー化が進む――という3点を指摘。高田氏は「電柱は毎年7万本ペースで増えているといわれる。今回の自民党の法案では各自治体に無電柱化への行動を責務としており、その点で期待できる。当然税金を使う問題であり、この法案によって無電柱化に対する国民の議論が深まってほしい」と話しています。

京都の電線に外国人観光客が興ざめ
電気事業連合会によると、電線類の地中化の建設コストは電柱と比べ10倍程度かかるとしています。一般的に歩道の下に電線を埋設するには1キロあたり5~7億円の費用が必要といわれ、電力、通信事業者が一部負担する場合もありますが、こうした業者の協力が得られなかった場合、地方自治体の負担はかなり大きいものになります。また、私有地などの調査や工事に対する地元住民への理解を求める必要があるなどの背景から、日本ではなかなか無電柱化が進んでいません。

りそな総合研究所の荒木秀之・主席研究員は「日本らしい景観を求めて外国人観光客などが訪れる京都や奈良などは、電柱、電線が張り巡らされている景色を見て興ざめする面もあり、観光価値を上げるために無電柱化の効果は期待できる」と話す一方、「大きなコストの面を考えればモデル地区のようなものを指定し、無電柱化を優先的にやる地域を考えるべき。成功例が見えれば後に続きやすいのではないか」と指摘します。

すべて地中化するには膨大なコスト
一方で、兵庫県企業庁はパナホームと連携し、同県芦屋市臨海部の埋め立て地の住宅分譲地「スマートシティ潮芦屋」を福祉や環境に配慮したエコタウンとし、無電柱化の街並みを取り入れたというケースもあります。もともとある電線を地中化するのではなく、ニュータウンなどは街づくりの当初から無電柱化を策定することができ、電力、通信事業者などへの理解も得られやすい面があるようです。

全国には約3500万本の電柱があるといわれ、すべてを地中化するには膨大な費用がかかります。反面、安倍政権の成長戦略では海外観光客の増加を柱にあげており、また2020年には東京五輪が開催されることで都内を中心に景観向上のため、さらに無電柱化を求める声も強まるとみられます。今後、建設コストをどのように縮減していくかがなども大きな課題になりそうです。

Yahooニュース THE PAGE 10月30日(木)11時20分配信