この記事は2011年12月に発行された報告書であるCalifornia Energy Commissionの”Fault Analysis In Underground Cables”を和訳した記事となっています。
内容は高度ですが、ケーブルに発生する欠陥である水トリーや同心中性線の断裂の検査方法について詳しく考察された文章となっています。地中ケーブルの技術向上の一助になればよいと思いこのホームページに掲載します。
免責事項
(※この項目のみ原文を掲載します。)
This report was prepared as the result of work sponsored by the California Energy Commission. It does not necessarily represent the views of the Energy Commission, its employees or the State of California. The Energy Commission, the State of California, its employees, contractors and subcontractors make no warrant, express or implied, and assume no legal liability for the information in this report; nor does any party represent that the uses of this information will not infringe upon privately owned rights. This report has not been approved or disapproved by the California Energy Commission nor has the California Energy Commission passed upon the accuracy or adequacy of the information in this report.
概要
このプロジェクトでは、地中配電ケーブルの欠陥を評価し、故障した地下配電ケーブルを診断するための革新的な技術を研究しました。設置されている地中配電ケーブルの老朽化は、カリフォルニア州をはじめとする全米の電力会社が直面している喫緊の課題です。地中ケーブルを評価するための様々な技術や試験が利用可能ですが、診断される内容とケーブルを引き抜いて検査した時に発見される内容にはほとんど相関関係がありません。
プロジェクトチームは、故障原因の理解を深め、より良い不具合の検出方法を特定するために、様々なケーブルの故障メカニズムを研究しました。研究者たちは、ケーブル内の同心中性線と絶縁体(Concentric neutrals and insulation)の劣化を検出するための新しい非接触技術を研究を行いました。同心中性線にはノイズ対策のための同心導体が存在します。
研究チームは、ポリエチレン絶縁体に水トリーがどのように形成されるかを研究しているうちに、確立された水トリーの開発モデルの誤りを発見した。それを改良した水トリ―とは、高圧ケーブルの欠陥で絶縁体内の水分量や水分の透過性に起因するものです。その結果、化学的な力と機械的な力の両方が水トリーの生成を促進することが示唆されました。また、水没したケーブルの周囲に形成される電解質からの電荷の注入も、水トリーの形成に寄与する可能性があります。
研究者らは、提案されている2つの診断技術が最も有望であると結論づけました。一つは固体異方性磁気抵抗・同心中性探査法(anisotropic magneto-resistive concentric-neutral probing)、もう一つは高周波テストポイント注入技術(radio frequency testpoint injection techniques)です。磁気同心中性線探査法は、実験室のテスト台で地中用ケーブルを用いて実験しました。その結果、同心中性線の欠陥箇所から少なくとも95フィート離れた場所から検出できることが実証されました。また、高周波テストポイント注入信号を通電ケーブルに結合できることが示されましたが、この方法は老朽化した配電ケーブルでは良い結果を得られませんでした。
エグゼクティブサマリー
序論
このプロジェクトでは、地中ケーブルの故障問題を調査し、接触せずに診断するための独創的な方法を研究しました。カリフォルニア州をはじめとする全米の電力会社が直面している問題は、非常に古くから設置されている地中配電ケーブルの劣化です。地中ケーブルを評価するための技術や試験は、あまりうまく機能していません。ケーブルを引き抜いて検査した時に診断された内容と実際に発見された内容にはほとんど相関関係がないことが多く、現場でのケーブルの診断が問題となっています。地中配電ケーブルの故障は、電力インフラの信頼性を脅かす深刻な問題です。ケーブルの交換は非常にコストがかかり、都市部でキロメートル当たり10万ドル以上かかることもあるため、選択的に交換する必要があります。
事業目的
このプロジェクトの目標は2つあります。一つは地中配電ケーブルの劣化メカニズムを解明するための新しいアプローチを用いること、もう一つはケーブルを通電せずに健全性を調査するための革新的な非接触技術を開発することでした。
事業結果
水トリーとは、高圧ケーブルの欠陥の内、絶縁体の中に水分が含まれていたり、水分が浸透していたりすることで発生する欠陥のことを言います。欠陥が木のような模様で形成されることから水トリーと呼ばれています。ポリエチレン絶縁体の水トリーの発生は、純粋に化学的な現象か、機械的な現象によるものと思われていますが、今回のプロジェクトでは、ポリエチレン絶縁体の水トリーの発生原因を調査しました。プロジェクトチームは、劣化のメカニズムを理解しなければ、材料の耐劣化性を高めることができないという仮説のもと、水トリー現象を探りました。実験と理論研究を組み合わせて、3種類の数理モデルを含む3つのテーマを検討しました。
・水トリーの熱力学
・電気泳動力によって繰り返し発生する荷重下でのポリエチレンの疲労破壊。電気泳動とは、空間的に均一な電場の影響したでの流体に対する分散粒子の相対的な運動を指す。
・ケーブル絶縁体に高電場下でのポリエチレンへの電荷注入
プロジェクトチームは、ポリエチレン内の水トリーを開発するためのH.R.Zellerのモデルを批判的に検討しましたが、このモデルでは、ケーブル内の誘電エネルギーの変化による化学的なポテンシャルの増強が開発の原因であるとしています。このモデルは、計算された化学ポテンシャルが異常に高いという理由という理由で欠陥がある可能性がありました。しかし、
(a)もっともらしい反応(塩化鉄Ⅲによるポリエチレンの酸化)の反応物と生成物の両方を含むようにモデルを修正する。
(b)水トリーの全体積(理想化された)を計算に含める。
これらの(a)、(b)を考慮すると、反応に対する妥当な化学ポテンシャルの差を計算することができました。
Zellerモデルの問題点としては、潜在的な増強が効果的に行われるために必要な水トリー内の溶質濃度が低いことが挙げられます。このような濃度は滅多に発生しないものの、ポリエチレン内での溶質種の輸送の遅さや、水トリー内での溶質種の沈殿反応に起因するのではないかという仮説が立てられました。
ある学派では、水トリーは機械的現象、特にケーブル内で発生する様々な機械的応力から発生し、これらの応力は水トリーが一度核を形成すると(例えば、絶縁体の欠陥で形成されると)、水トリーを伝播させられることを示唆しています。これまで無視されてきた可能性として、絶縁体の周期的な疲労破壊があります。一般的に、材料は単純な単調荷重試験での破壊に必要な応力よりもはるかに小さい応力で疲労破壊します。
この調査から得られた結論は、ポリエチレン断熱材の疲労が、ボイドや介在物などの欠陥周辺の周期的な誘電泳動応力に起因する水トリーの発生メカニズムである可能性がありました。誘電泳動応力は数メガパスカルのオーダーになることがあります。メガパスカルとは、パスカルとして知られている1平方メートルあたり100万ニュートンの力に相当するメートル法の圧力単位です。研究室での疲労実験では、これらの応力は、長期的に防腐性架橋ポリエチレン(TR-XLPE : Tree-Retardant Cross-Linked PolyEthylene)断熱材を損傷させるのに十分であることが示唆されています。
水溶電解質からの電荷注入はポリエチレンの直流(DC)電気絶縁破壊に役割を果たす可能性があります。研究者らは、高圧電流絶縁体として使用されているポリマーの絶縁破壊と、高圧交流(AC)絶縁体として使用されているポリエチレンの水トリー化における電解質接触の役割を調べました。その結果、電解質水溶液の接点から絶縁体に電荷を注入することで、低密度ポリエチレンの局部的なギャップ内状態のエネルギーが得られることを明らかにしました。より実用的な観点からは、電解質による電荷注入が高電圧直流絶縁体の電気的破壊に寄与する可能性があることが示されました。現在、高交流電圧の影響を受けた電場接点からポリエチレンへの電荷注入について研究を進めています。
地中配電ケーブルの絶縁状態を調べるための2つの非接触技術が調査されました。交互嵌合型誘電率測定法は、絶縁体に交流電場を投射する交互嵌合型電極から構成されています。絶縁体中の電場透過率の変化を対向電極で検出し、水トリーによるポリエチレンの誘電率の変化を示すことができます。地中配電ケーブルの絶縁劣化を検出するための測定に交互嵌合型誘電率測定法の技術を用いて開発しました。その結果、異なる材料の誘電率を探査できる交互嵌合型誘電率センサーを作成できることが示されました。しかし、セミコンと呼ばれる半導電層は、センサーから発せられる電場をショートさせてしまうため、地中配電ケーブルの非接触診断法としての適用には限界がありました。
研究者らは、ケーブル導管のエルボーにあるいわゆるテストポイントを用いて、通電中のケーブルに注入された高周波(Radio Frequency)探査信号の使用と解析を調査しました。仮説は、信号の減衰量と伝播速度の両方を瞬時のケーブル内電圧の関数として測定することで、水トリーを検出できるというものでした。この方法では、通電したケーブルに信号を結合することができると示されましたが、老朽化した配電ケーブルの一区間では、この方法では正の結果が得られませんでした。肯定的な結果が得られなかった理由は、研究室内での経年変化中に水トリ―が生成されなかったためである可能性があります。
通電された地中ケーブルの同心中性線の健全性を調べるために使用された2つの有望な技術を調査しました。表面誘導型高周波(Goubau)探査は、ケーブルの同心中性線に結合された表面誘導型高周波を使用します。研究室たちは、同心中性線に障害が発生すると波が減衰し、電子的な障害を識別できるという仮説を立てました。その結果グーバウ波(=表面誘導型高周波)が地中配電ケーブルから送信、結合、受信に成功したことが示されました。しかし、グーバウ波は故障箇所を通過したときにしか相対的に信号を生成しないため、既存ケーブルの探査技術としては使用できませんでした。さらに、研究者らはグーバウ波が土壌を通過する際に大きく減衰することを発見したため、グーバウ波探査技術は実用的な診断方法としては追及されていませんでした。
固体異方性磁気抵抗探査は、高感度の磁気センサーを使用して、通電された地中配電ケーブル中の同心中性線の電流を非接触的に測定します。故障した同心中性線の存在は、線内の電流の不均衡に基づいて正常に検出できます。初期モデルでは、これらの電流不均衡は異方性磁気抵抗(AMR : Anisotoropic Magneto-Resistive)センサーを使用して検出できることが示唆されています。この目的のために2つのアプローチが開発・評価されていました。固定ブレスレットアプローチと、センサーをケーブルの周りで回転させて発散する磁場のスキャンを実行する回転式スキャンアプローチです。
本プロジェクトの実験では同心中性線の磁気探査が地中配電ケーブル診断の非接触技術として大きな可能性を秘めていることを示唆した。実験結果は、50%の同心中性線の戻り電流で、シールド付きのケーブルの故障個所を少なくとも95フィート離れた場所から検出できることを示しています。より低い電流では断線の識別信号はノイズレベル以下でした。また、シールドのないケーブルでは、50%の戻り電流で故障箇所の近くで複数の故障識別信号を検出できました。それ以下の電流では再びノイズレベルを下回っていました。シールド保護されていないケーブル内の同心中性線の配置にばらつきが生じ、これが故障識別信号に影響を与えている可能性があります。
個々の同心中性線から磁場を集中させる磁気抵抗センサーを製作して感度を高め、強い中心導体電流による電磁界によるセンサーの飽和を回避する必要があります。
地中配電ケーブルの絶縁における重要な故障メカニズムを調査しました。ポリエチレン内で水トリーの発生に関するZellerのモデルを修正し、ボイドや介在物のような欠陥の周りに周期的な誘電泳動応力が発生することが水トリーの発生の可能なメカニズムであることを明らかにしました。また、ポリエチレン絶縁体の破壊の主な原因である水トリーの形成が促進される可能性があります。全体として水トリーの発生メカニズムは複雑で、いくつかの機械的・電気化学的要因の影響を大きく受けていることが観察されました。これらの現象を調査するために、さらなる研究が必要です。
診断法の面では、地中配電ケーブルの非接触診断のための4つの可能性のある方法を検討した。その中で、2つの方法、すなわち干渉型通電率測定法と表面誘導型高周波(グーバウ)探査は、現時点では実用的でないと判断されたため断念したが、これらの方法を否定する前に今後の開発と評価を追求する必要があります。残り2つの技術、高周波テストポイント注入法と固体異方性磁気抵抗探査は、非接触診断技術として将来的に大きなメリットがあります。
通電された配電ケーブルを介して高周波信号を送信することに成功しました。この方法では、故障箇所の検出などの結果が得られませんでしたが、これは水トリーが発生したケーブルを使用していなかったことが原因と考えられます。今後、適当な水トリー化したケーブルが見つかった場合には、この方法の調査を継続する必要があります。
固体異方性磁気抵抗探査法は、実験的に故障箇所から遠く離れた場所でも、場合によっては少なくとも95フィートの距離でも故障の兆候を検出し、識別できることが示されました。中心導体の電流に対する感度を低下させながら、同心中性線に流れる電流に起因する磁界に対するこの方法の感度を向上させるために、さらなる研究を行う必要があります。センサーと磁束集中装置の微細加工は、この目標を達成に必要です。さらに固体異方性磁気抵抗探査法は、同心中性線の位置を検出する方法と組み合わせて、磁場の欠如が同心中性線の破損に起因するのか、あるいは単にその位置に線が存在しないことに起因するのかを判断する必要があります。これは、同心中性線の位置が非常に可変的である可能性があるシールドなしケーブルにおいて特に重要です。
事業のメリット
カリフォルニア州をはじめとする電力インフラの信頼性を脅かしているのが、非常に古くから設置されている地中配電ケーブルの劣化です。これらのケーブルの安全性を評価するための効果的な技術や試験がないため、電力会社はケーブルの交換には非常に高額な費用が掛かることもあります。本プロジェクトで行われた革新的な研究では、地中配電ケーブルの絶縁におけるいくつかの重要な故障メカニズムを調査しました。このプロジェクトの成果は、電力会社がこれらの問題をより効果的に診断するのに役立ち、カリフォルニア州をはじめとする全米の電気インフラの信頼性を高めることにつながります。
第1章 序論
1.1 背景
設置されている地中配電ケーブルの老朽化は、カリフォルニア州と全米の電力会社が直面している問題です。西海岸には100,000マイル以上の地中配電ケーブルが設置されています。全てのケーブルを交換するのは経済的な観点から不可能であるので、どのケーブルを最初に交換する必要があるかを判断するための診断技術が必要とされています。
代表的な地中配電ケーブルの構造を図1に示します。このケーブルは、アルミニウムや銅(1)で作られた中心導体と、セミコン(2)と呼ばれる半導電ポリマーの内層でおおわれています。セミコン層はポリエチレンなどの絶縁体(3)で覆われています。絶縁体は、セミコン(4)の外層で覆われています。一組の螺旋状の同心中性線(5)は、外側のセミコン層の上に配置されています。新しいケーブルは通常、同心中性線(6)の上に押し出されたポリエチレンの外側のシールドを持っています。
1.2 問題の状況
現在、地中配電ケーブルを評価するために様々な技術や試験が行われていますが、診断結果と実際の劣化状況との間にはほとんど相関関係がないです。地中配電ケーブルの故障は、電力インフラの信頼性を脅かす深刻な問題です。ケーブルの交換は非常に高価であり、都市部ではケーブル1㎞あたり10万ドル以上と見積もられているため、交換は選択的に行わなければなりません。一般的な地中ケーブルの故障メカニズムは、電場によって促進された絶縁体に水で満たされたボイドが成長し、ケーブルの絶縁破壊電位を低下させ、最終的にはケーブルの壊滅的な故障を引き起こす水トリー化です。同心中性線の劣化は地中配電ケーブルの故障メカニズムの一つで、保護シールドが失われて場合によっては電流の戻り道がなくなることもあります。
現在利用可能な診断技術はケーブルをグリッドから切り離す必要があり、それ故にテスト中に停電を引き起こします。電機業界では、ケーブル絶縁体と同心中性線の完全性を見極めるための信頼性の高い現場での方法が急務となっています。
1.3 事業目的
本プロジェクトの目的は、
(a)地中配電ケーブルの劣化メカニズムを解明するための新しいアプローチ
(b)ケーブルの電力を切ることなく健全性を調べるための新しい非接触技術を開発
この2点となります。
1.4 報告書の構成
第2章では、絶縁体の劣化と同心中性線の劣化の両方に着目して、地中ケーブルの劣化メカニズムの解析を行いました。第3章では、地中ケーブルの健全性を調べるための新しい非接触センシング技術の開発について述べます。第3章では、絶縁体の健全性を調べるための非接触診断手法の開発と、同心中性線の健全性を調べるための研究を紹介します。第4章では、結論と提言を述べています。
第2章 地中配電ケーブルの故障メカニズムの解析
2.1 序論
地中配電ケーブルの故障の主な原因は、電気トリーにつながる水トリーの形成である。後者は、中心導体と同心中性線との間の経路に、2つの隔てるポリエチレン絶縁体が通っています。さらに小さなチャネルで接続された微小な空洞であり、水トリーの端付近の電界を増加させるため、最終的にはポリエチレンの電気的な破壊があり、水トリーが形成され、急速に絶縁体とケーブルが破壊されます。水トリーはKitchinとPratt(1958)によって最初に記述されたようで、多くの研究が行われてきました。図2は、水トリーが見える地中配電ケーブルの断面写真です。
ほとんどの研究者は、水トリーの形成と成長を説明する上で、2つの学派のいずれかに陥っています。
・化学系学派は、ポリエチレンが水(地球やケーブルが敷設されている導管の中に偏在している)と化学的または電気的な現象を含む可能性が高いメカニズムで相互作用すると信じています。
・機械系学派では、ケーブルの設置時に人手がかかり、誘電泳動力から発生する応力は、水トリーのチャネルやボイドの伝播を引き起こすのに十分に大きいと考えられています。
もちろん、化学現象と機械現象の両方が水トリーの役割を果たしている可能性もあります。
本研究では、劣化のメカニズムを理解して初めて物質の耐劣化性を高められると考え、水トリー化の現象を調査しました。3つのテーマについて、実験と数理モデル化を含む理論的作業を組み合わせて検討しました。
1 水トリー熱力学。これまでの優れた研究では、水トリーの化学ポテンシャル(反応性)は、絶縁体中の強い電場によって大きく増大し、水トリーの形成と伝播されることが示唆されていました。しかし今回の研究では、このような化学ポテンシャルの増大を利用して水トリーの形成と伝播は行われることが示唆されました。
2 電気泳動力によって発生する繰り返し荷重下でのポリエチレンの疲労破壊。これらの力は、異なる誘電率を持つ材料(ポリエチレンや水など)が電界内にある時に発生します。ケーブルの絶縁の場合、これらの力は120Hz(交流電力の60Hzの2倍)でサイクルします。
3 ケーブル絶縁体が経験する高電場下でのポリエチレンへの電荷注入
2.2 水トリーの熱力学
2.2.1 序論
地下ケーブルのポリエチレン絶縁体に形成された水トリーは、電気トリーの前駆体であり、絶縁体の故障の原因となる。Ross (1998)は、ケーブルの経年変化や理論的・実験的な研究アプローチの違いによる論争を指摘しながら、水トリー形成メカニズムの現在の重要な4つの理論、すなわち、過飽和や凝縮を含む電気機械的な力、親水性種の拡散、電気化学的な酸化、そして様々な現象が共存する場合の条件依存モデルをまとめている。水トリー形成には力学的現象と化学的現象の両方が関与している可能性があるが、ほとんどの研究者はどちらか一方の現象を強調することを選択している。化学派の例としては、Zeller (1987, 1991)の研究があります。彼は、ケーブル内に存在する電場内の導電種の存在による化学的電位の上昇など、水トリー形成のために考えられるいくつかのメカニズムを調べました。Zellerの研究は画期的なものであったが、以下に示すように多くの問題点を抱えていた。本論文では、これらの欠陥を改善し、化学ポテンシャルの向上が水トリーの成長にどのような役割を果たすかを明らかにすることを目的としています。
2.2.2 熱力学
解析の出発点は、電場中の物質の単位体積あたりの局所的なギブス自由エネルギーの方程式です。
(1)
はぞれぞれ電場E、電場が0の時の自由エネルギー、はそれぞれ比誘電率、新旧の誘電率です。
次に、位置によって性質や場が変化する系の全ギブスの自由エネルギーを求めます。
(2)
すると系内のi番目の化学ポテンシャルμは次のようになります。
(3)
ここで、は一定温度T、一定圧力Pでの系内のi番目の量であり、化学ポテンシャルは系の反応性を示します。したがって、電場による化学ポテンシャルの変化が水トリーの形成に関係している可能性があります。Zeller(1991)に倣って、研究者は電場のないギブスの自由エネルギーがi番目の濃度に依存しないと仮定し、式(2)の積分内第一項が一定になるとしてます。これにより、化学ポテンシャルは電場によるi番目の化学ポテンシャルの増加としてうまく定義されます。
Zeller(1991)は、電場による化学ポテンシャルの増加のためのモデルを開発しました。電場は、誘電体の中の数十[μm]の大きさの球状領域について計算され、その領域から離れた電場が一様としました。このような構成については、解析的な表現や近似が可能です(Boggs,2003)。この球状領域は、水トリーの理想化です。後述する別の形状もまた、Zellerによって検討されました。研究者たちはZellerの方程式を用いて図3のデータを計算しました。ここでは、水中の塩化ナトリウムの2[kV/mm]の遠方電場による化学ポテンシャルの増加が、塩化ナトリウム濃度のモル分率の関数としてプロットされています(基本的には、これらの濃度における水のモル数に対するNaClのモル数の比)。塩濃度の変化により、スフェロイド内の溶液の電気伝導度が変化します。希薄な溶液の場合は、イオン等価コンダクタンスから電気伝導度を得ることができます。
(4)
ここでCiはイオン濃度、λ+及びλ–は、それぞれカチオン及びアニオンの等価コンダクタンス、z+はイオンが運ぶ電荷の数(例えば、ナトリウムイオン=1)、ν+はi番目の分子の乖離により生成される陽イオンの数です。
等価コンダクタンスは、NewmanとThomas-Alyea(2004)などのいくつかの電気化学の論文に記載されています。この結果は、Zeller(1991)によってプロットされたものと類似していて、図3にも示されている化学ポテンシャルの数値計算とほぼ一致しています。数値計算はCOMSOL®を用いて与えられた濃度のNaClの電場を計算した後、異なる電場を与えるために少し高い濃度で計算を繰り返すことによって行われました。電場の二乗と有限差分形式の式(3)を用いて式(2)に適用すると、化学ポテンシャルが得られます。計算にはスフェロイドと、それによって電場が乱される周囲のポリエチレンの体積の両方を含んでいます。予備計算ではポリエチレンの体積がスフェロイドの体積の約107%であるとき、ポリエチレンの体積の選び方に依らないことが示されました。
数値計算の目的は、電場の解析式が得られないケースについてCOMSOL®がこのような計算を正確に行えるかを実証することです。スフェロイド内の小さな電場と外側の大きな電場の差が数値誤差の原因となるような高濃度の場合を除けば、解析結果と数値計算結果は十分に一致しています。図3と次の図では、濃度を変化させた場合の実際の化学ポテンシャルの波形の直流成分のみをプロットしていることに注意していください。交流成分はZellerによる近似的アプローチで移送因子を蒸散することによって得られます。化学ポテンシャルの交流成分と直流成分との両方の計算は、Boggsら(1995-1996)とZhouら(2011)によって行われており、交流環境における化学ポテンシャルの時間依存性の特性を理解するのに役立つと思われます。
まず、図3を見ると、ケーブル絶縁体の化学的劣化の原因は、化学ポテンシャルの増大である可能性が高いことが示唆されています。しかし、計算結果には大きな問題があります。計算された化学ポテンシャルは、通常数百kJ/mol未満であるほとんどの化学ポテンシャルと比較して100eV(=9.64MJ/mol)のような巨大なものです。さらに図3の濃度範囲は、地下水に想定されるものよりも小さく、例えば10-7のNaClモル分率は0.32mg/lに相当します。地元の水道水(EBMUD,2009)は、100㎎/lに塩化物が平均7mg/lの総溶解固形分を有しています。NaClもまた、ポリエチレンなどの有機分子と反応する可能性は低いです。最後に反応のしやすさは化学ポテンシャルの差によって示されるため、ある種の化学ポテンシャルの計算は参考にならないことがあります。
Zeller(1991)はチャネル(直径0.1μm,長さ10μm)によって接続された2つの球(半径1μm)からなるダンベルモデルと呼ばれる幾何的手法を発表しています。電場の解析方程式をダンベルモデルに利用できないため、Zellerは各球の静電エネルギーのゲインを次のように近似しました。
(5)
この時キャパシタンスCsは
(6)
ここでaは球の半径を表しています。また電圧Vは次で与えられます。
(7)
ここでEFは遠くの電場、Dは半分離距離、ωは角周波数、Rはチャネルの抵抗(電気伝導度の関数)を表しています。
Zellerの論文は、(7)式の分母の平方根が外されていることに注意していください。Zellerは、ダンベルモデルの電場による化学ポテンシャルの増加について、次の式を与えています。
(8)
ここでCはチャネル断面積、nwは単位面積当たりの水分子の数、σは電気伝導度、ciはi番目の濃度です。
しかし、この式について右側の因子は正の値しか取り得ないため、分子のマイナス記号はEの増加に伴って化学ポテンシャルが減少することとなり予想とは逆になります。したがってZellerの考え方を踏襲して、化学ポテンシャルの上昇は次のような式で表されます。
(9)
式(9)では、符号と余弦の位相係数がZellerの式と異なります。
図4にCOMSOL®を用いた数値計算の結果を示します。数値計算は、ダンベル内外の電位のラプラス方程式を解くことから始まります。そして、数値的に微分することで電場が得られます。また、図には遠方電場を2kV/mmとした場合の化学ポテンシャルの増加量を式(9)から計算したものを示しています。数値計算と解析結果の計算方法には大きな違いがあり、式(9)は上記の近似式を用いているのに対し、数値計算ではCOMSOL®の精度の範囲内で正確に方程式を解析しています。
球形モデルの結果と同様に、ダンベルモデルの結果にも大きな困難があります。
・化学ポテンシャルが想定よりも高い(図3と比較しても遜色ない)。
・これらの化学ポテンシャルを与える濃度は想定よりも低い。
・NaClはポリエチレンと反応する可能性は低く、プロットされているのはポテンシャルの違いではなく、化学ポテンシャルです。
式(9)はまた、チャネルが唯一の関連体積であり、球体は無視されていると仮定している。その結果、ポリエチレンと反応する可能性のある種を用いて、球形どダンベル形の化学ポテンシャルの違いを数値計算した結果を発表しました。いずれの場合も、周囲のポリエチレンのうち、電場が乱される部分がシステムに含まれている。ダンベルモデルの場合は、チャネルの体積ではなく、ダンベルの全体積がシステムに含まれます。
2.2.3 化学ポテンシャルの差の計算
図5にダンベル形状を用いた代表的な計算の電場を示します。ダンベル内部の電場は、外部に比べて、誘電率と電気伝導度が高いため大きく減少していることが分かります。それに伴い、ダンベル外の電場も大きく増加しています。ダンベル内及び周辺の式(1)の第2項に関わる変化により、ギブスの自由エネルギーは電気伝導度及び化学ポテンシャルを決定する役割を果たしています。ここでの計算では、誘電率は一定と仮定しています。これはイオンが関与する濃度では、電気伝導度には大きな影響を与えますが、誘電率には影響を与えないからです。
鉄は主にその化合物の形で、地球の岩石圏に4番目に多く存在する元素です。大気中の酸素が浸透して参加条件が存在する地表付近では、鉄が存在することがあります。鉄塩はケーブルが接触している地下水に含まれている可能性が高い。XuとBoggs(1994)は、水トリーの中のイオン中に第二鉄と第一鉄の両方の種を発見しています。その結果、ポリエチレンと地下水中に溶存している種との間の反応は、もっともらしい反応です。FeCl3+polyethylene = FeCl2 + organic oxidation product(s)(Reaction Ⅰ)
第2の主反応は
FeCl3 + polyethylene = FeCl2 + HCl + organic oxidation product(s)(Reaction Ⅱ)
式(2)~式(9)を用いた上記の計算では、有機物の酸化生成物は溶液の電気伝導度にほとんど寄与しないため、無視されています。同様に、固体としてのポリエチレンは、ダンベルやスフェロイドの溶液中の電気伝導度に寄与しません。したがって、関連する化学ポテンシャルは、反応物である塩化第二鉄とその生成物である塩化一鉄(及び塩酸)の化学ポテンシャルとなります。塩化物は地下水中に豊富に存在するため、上記の反応におけるアニオンとして想定されいます。以下に示す結果は、硫酸塩のような代替アニオンを用いても同様の結果が得られます。
図6にスフェロイドのFeCl3 , FeCl2 , HClの化学ポテンシャルを解析的に計算した結果を示す。電気伝導度は、公表されている式(4)の等価コンダクタンスを用いて計算した。3×10-10までの濃度範囲では、FeCl3の化学ポテンシャルがFeCl2を上回っています。したがって、反応Ⅰは、これらの種が同等の濃度で存在する場合に進行する。塩化第二鉄の供給が制限されており、塩化第一鉄が逃げられない場合、かなりの量の第二鉄が消費され、第一鉄が生成された後反応は停止します。その結果、反応の継続はダンベルの内容物と系との間の交換に依存します。
FeCl2モルとHClモルを含む溶液はFeCl3モルを含む溶液よりも高い電気伝導度を持っている為、反応Ⅱは起こりにくい。したがって、生成物の化学ポテンシャルは反応物の化学ポテンシャルよりも大きく、反応は熱力学的に除外されます。図 6のデータは、反応のために計算された化学ポテンシャルの差が正の値となる濃度が低すぎて、化学ポテンシャルの値が巨大なものもあることから、まだ疑問が残ります。
図7は、COMSOL®を用いたダンベルモデルで計算された塩化第二鉄、塩化第一鉄、塩酸の化学ポテンシャルを濃度の関数として示しています。ここでも、濃度が同程度であれば反応Ⅰが有利(10-9モル分率を少し超える程度までの濃度範囲)ですが、反応Ⅱはそうではありません。ダンベル形状で計算された化学ポテンシャルの差は、最大約60[eV]で、図6のものよりも少なくほとんどの化学反応で予想される値に近いものです。
反応のための化学電位差に対するダンベルのサイズの影響を図8~図10に示す。化学的ポテンシャル差(最大)は、球の半径(図8)とチャネルの長さ(球の分離、図9)を増加させると減少します。これらの変化と同時に、電位差が正である濃度の範囲が増加します。
チャネル断面積(図10)の減少に対して、(最大の)化学ポテンシャル差は減少し、正の化学ポテンシャル差の濃度範囲はより高い範囲にシフトする。トリーの成長領域の微小空洞を繋ぐ電気酸化トラックの流路寸法としては、流路径が5~10[nm]の範囲に小さくなると、濃度範囲もより現実的なものになると考えられます(Moreau他、1993)。有限要素法の限界のため、ここでは高濃度での化学ポテンシャルは計算していません。
2.2.3.1 考察
研究者たちは、水トリーの熱力学に関するZellerのモデルにはいくつかの問題点があることを明らかにし、それを解決しようとしました。しかし、水トリーの発育は電場によるトリーの中のある種の化学ポテンシャルの上昇によって引き起こされるというZellerの研究の信条は、依然としてもっともらしいものです。本論文の計算では、水トリーの中で他の人が発見した第二鉄と第一鉄の化学ポテンシャルは、これらの濃度が非常に低く類似していれば、電場中で前者のポテンシャルが後者をはるかに上回るまで上昇することが示されています。したがって、このような状況下ではポリエチレンの酸化的劣化が予想されます。
ケーブルが接触する地下水の溶質の濃度は、上記の数値の非常に低いレベルはおろか、水道水の濃度を下回ることはないと思われます。しかし、水トリー内の水はケーブルの外部の地下水と同じ組成を持つ必要はありません。水トリーがボイドから始まり、製造中にボイドに水が入らないようにしておけば、水はケーブルのシースとポリエチレンを介して拡散してボイドに入る。ポリエチレン中の水の拡散は、酸素含有量と水分の含有量の両方に依存する拡散率を報告しているMcCallら(1984)によって測定されています。彼らの測定値を10-8から10-6[cm2/sec]の範囲であるとすると、6[mm]のポリエチレンで定常状態の濃度プロファイルを確立するための拡散のための緩和時間は100から10,000時間です。このように、ケーブルの寿命は水がポリエチレン内のボイドに拡散するための十分な機会を提供しています。塩化第二鉄のような無機物の輸送が遅い場合、ボイド内の濃度は少なくとも過渡的な期間(これはケーブルの寿命のかなりの割合を占める可能性があります)の間は、ケーブルの外部よりも低くなるでしょう。研究者たちは、ポリエチレン内での鉄塩やイオンの拡散に関するデータを文献で見つけることができませんでしたが、ポリエチレン内での無機種の拡散が急速であるとは考えられません。例えば、MeyerとChamel(1980)は、ポリエチレン内のナトリウムイオンの透過性が水の透過性よりも5桁以上低いことを報告している。さらに、水トリー内での化学反応は、沈殿によって溶存種の濃度を低下させることができる。例えば、鉄塩はpHを上げると水溶液から沈殿する。
ポリエチレンとの酸化還元反応に参加することができる化学種の低濃度の適切な状況を考えると、高い電場によるZellerの増加した化学ポテンシャルは水トリーの発達を説明することができるかもしれません。スフェロイドの場合、電場は極点で最も高くこれはスフェロイドが胴回りではなく長さで成長する原因となる。また、埋設ケーブルが地中で何年、何十年と変化する環境(季節によって水分量も成分も変化する)にさらされていることを考えると、滅多に起こらない状況がケーブルの寿命の中では現実となりえます。
2.2.3.2 結論
このモデルは、ケーブル内の誘電エネルギーの変化による化学ポテンシャルの増強に起因するものですが、このモデルは批判的に検討されてきました。このモデルは計算された化学ポテンシャルが異常に高いこと、化学ポテンシャルが増強される水トリー内の溶質濃度の範囲が低すぎること、反応生成物の化学ポテンシャルを含まず、NaClという1種の化学ポテンシャルのみを計算している為、反応の傾向を示すことができないこと(NaClの場合は考えられない)などの理由から、このモデルには欠陥があると考えられています。
しかし、
(a)もっともらしい反応(第二鉄塩によるポリエチレンの酸化)の反応物と生成物の両方を含むようにモデルを修正する。
(b)計算に(理想化された)水トリーの全体積を含む。
このように反応のための合理的な化学ポテンシャルの差を計算することができます。
これらの計算は、市販の有限要素ソフトウェアを用いていくつかの形状について実施されています。Zellerモデルの問題点は、水トリ―内の溶質濃度が低いことが挙げられます。一つの仮説としてこのような濃度は滅多に発生しないものの、ポリエチレン内での溶質種の輸送の遅さや、水トリー内での溶質種の沈殿反応に起因するのではないかというものがあります。
2.3 TR-XLPEにおける水トリー伝播メカニズムと機械的疲労
2.3.1 序論
水トリーに関する文献は膨大で、ここではそれを全て見直すことはできません。しかし、ざっと見ただけでも水トリーの形成と成長については、大きく分けて2つの考え方があります。一つは、水トリーが一度核を形成すると(例えば、絶縁体の欠陥などで)水トリーを伝播させることができると示唆しています。この典型的な例としては、Yoshimuraら(1977)の研究が挙げられます。彼らは、各サイクルで断熱材に機械的なストレスがかかるためであると主張しました。
水トリーの形成に関するもう一つの学派では、水トリーの発達は主に化学的現象であり、機械的なストレスだけでは水トリーの形成と伝播は不十分であるとしています。断熱材が地面や湿った導管内の水や溶存種にさらされると、既存の水トリーの中で化学的に攻撃されて水トリーが伸長されます。この第二の流派の例としては、Zeller(1987;1991)の研究があります。Zellerは、水トリーの発達のために示唆されている様々な機械的・電気的現象を検討し、実験データを十分に説明できるものはないと結論付けました。特に、彼はポリエチレン絶縁体の故障につながる機械的応力を発生させるのに必要な電界は、トリー抑制型架橋ポリエチレン(TR-XLPE)では8~18MPaのオーダーですが、電場が電気トリーを発生させるのに必要な電場を超えるまでは到達しないと結論付けました。Zellerは、水トリーの熱力学を研究し絶縁体内の強い電場が化学的な電位を上昇させ、それによって化学反応が促進されて結合が壊れ、材料が弱くなり機械的な故障につながると結論づけました。
これまで無視されてきた可能性として、絶縁体の繰り返し疲労破壊される場合です。通常、材料は単純な単調荷重試験での破壊に必要な応力よりもはるかに小さい応力で疲労破壊を起こします。高分子材料も例外ではありません(Sauer and Richardson, 1980)。例えば、Weaver and Beatty(1978)は、ポリエチレンの破壊に至るまでの疲労サイクル数は、温度の上昇に伴って減少すると報告しています。
本研究では、疲労がTR-XLPEの水トリー成長のもっともらしいメカニズムであるかどうかという問題に取り組むことを目的としています。まず、有限要素法(FE : finite-element)解析を用いて、絶縁体に発生する可能性のある電気機械的応力を推定しました。次に、市販のケーブルから採取したTR-XLPEサンプルのサイクル寿命を測定するなど、ポリエチレンの機械的挙動を有限要素法計算から推定した応力の関数として実験的に調べました。また、TR-XLPEの疲労寿命に及ぼす水と2種類の化学種の影響についても予備実験を行いました。
2.3.2 ポリエチレン断熱材のフィールドと応力のモデリング
使用中の全てのケーブルで確実に発生する応力の1つのタイプは、誘電泳動力に起因する応力です。真空とは異なる誘電率を持つあらゆる材料に作用するこれらの力は、次式で与えられます。
(10)
ここで、ε0は真空の誘電率、εrは誘電体の比誘電率、Eは電場です。誘電体とその周囲のあらゆる場所に作用するこの体力Fは、その特性と電場から問題の材料全体で用意に計算できます。
電場は、誘電体内の電位を与える方程式の解(解析的又は数値的)によって得られます。電場は単に電位の勾配です。
(11)
誘電力分布が分かれば、機械的応力は平衡の方程式で与えられます。
(12)
ここで、は応力テンソルの発散量(3つの直交座標のそれぞれを示す指標)であり、Fiは単位体積当たりの体力です。
図11は、上記の解析が行われたポリエチレンの小領域を有するポリエチレンケーブル絶縁体の切断図です。小さな領域は、周囲のポリエチレンとは異なる特性を持つ、さらに小さな欠陥を調べられるように選択されました。この場合、球状の欠陥が選ばれました。欠陥は、水で満たされた小さなボイドや、水で満たされた微小なひびや穴で占められたポリエチレンの領域、例えば水トリーのような特性を変化させるのに十分なものであってもよい。
図12は、アスペクト比2.5のプロレートスフェロイド内とその周辺で計算されたポテンシャルと電場を示しています。軸対称性のため、計算結果の半分だけが図中に表示されています。ポリエチレン内の平均電場は2[MV/m]としました。スフェロイド内の電気伝導率と比誘電率はそれぞれ5×10-2[S/m]と5であり、スフェロイド外ではそれぞれ1×10-15[S/m]と2.3であります。計算は準定常状態であるため、この場はピーク場であってもrms場であっても同等の妥当性があります。これらの計算結果及びその他の計算結果は、有限要素ソフトウェアCOMSOL® Multiphysicsを使用して得られました。また、この形状におけるポテンシャルと場の分布については、解析的及び近似的な方程式も用意されています(Boggs,2003など)。また、同じ有限要素法モデルに基づき、電場と機械的応力を統合させた機械的応力分布の数値解析を行っています。
図12に見られるように、スフェロイドはポテンシャルを大きく歪ませています(色と等高線で示されています)。これは、スフェロイドの比誘電率が5に設定されているためで、Kooら(1983)が主張したように、ポリエチレンの比誘電率は2.3であるのに対し、スフェロイドの比誘電率は5に設定されています。計算された電場(赤矢印)は、スフェロイドに近づくまでは、低くてかなり均一な値と方向性(図中上向き)を示しています。スフェロイドは電位分布を歪ませるので、電場も歪んで増強し、特にスフェロイドの極付近では電場が巨大化して軸方向に曲がってしまいます。60Hzでは電気変数の位相シフトは無視できるほど小さく、電場のピークは印加電圧のピークと一致していることに注意してください。
図13では、誘電泳動力による機械的応力分布の計算結果を示しています。これらの応力は球体の極で最大になります。提示された形状と印加された電場では、応力は3.6[kPa]を少し超えています。以下に見られるように、このような応力はポリエチレンへ直ちに損傷を与えるのに必要な応力に比べれば小さいものです。しかし、これらの応力は球体のアスペクト比(高さと直径の比)が大きくなるにつれて増加します。この増加を電場と合わせて図14に示します。欠陥が細長くなると、欠陥の端に数メガパスカルの応力が発生することがあります。
COMSOL®による電場計算をBoggs(2003)の近似解析解と比較しました。その結果、高さと直径の比が25まではほぼ一致していることが分かりました。図14には、第2の応力(クーロン応力)が発生する計算結果も含まれています。この応力は、ポリエチレン母材とスフェロイド(ボイド)の界面での表面電荷の発生に起因します。空間電荷蓄積の理論解析はMcAllisterら(1994年)によって行われた。彼らの分析に基づいて、水トリーにおける表面電荷の蓄積は、交流条件下では周波数に依存していることが分かりました。周波数の増加に伴って絶縁体中の総電荷密度が優位に減少することも観察されています(Fabianiら、2004年)ので、正しい値はおそらく赤(純粋な誘電泳動応力)と青(誘電泳動応力とクーロン応力)の曲線の間にあると思われます。
調査した最も極端なアスペクト比での誘電泳動応力とクーロン応力の組み合わせは非現実的なものである可能性が高いです。これらの応力を発生させるために必要な磁場は材料の誘電強度を超えるため、破壊が起こる前に数メガパスカルのオーダーの応力が発生する可能性があります。
2.3.3 ポリエチレンの力学的挙動
ポリエチレン絶縁体の様々なサンプルの機械的特性を、油圧サーボ機械試験装置(インストロン機械試験システムモデル 1350)を用いて調査しました。圧縮サンプルを2つのフラットプラテンの間に置き、6.858[μm/sec]の変位速度で荷重をかけました。荷重と変位を記録しながら荷重プラテンの変位を制御して荷重試験とアンロード試験を行いました。ひずみは、プラテンの変位は全てポリエチレンの変形によって収容されていると仮定して、元の試料長さに対する伸長又は圧縮比を計算して測定しました。TR-XLPEの比弾性挙動を見ることができます。
図15は、ひずみが所定のレベル(0.02,0.04及び0.06)に達すると、サンプルがアンロードされた状態を示しています。各ループの上側の曲線は、負荷中の挙動(プラテンが試料をますます圧迫する)を示し、下側の曲線は負荷解除中の挙動(プラテンが試料をますます圧迫する)を示し、下側の曲線は負荷解除中の挙動(プラテンが離れていく)を示しています。サンプルは永久的に変形します。例えば、サンプルが0.04(約7MPa)のひずみでアンロードされた場合、試験前よりも試験後の方が約1%短くなります。
このようなポリエチレンの非弾性挙動は、図16(日付は製造年を示す)に示すように、使用済みのポリエチレンと新品のポリエチレンの両方のサンプルで約3または4[MPa]から始まることが分かりました。この圧縮試験の結果から、ポリエチレンは使用中に発生するであろう誘電泳動応力(数MPa)には応力から生じる変形はあるものの、耐えられることが示唆されています。しかし、非弾性挙動は機械的破壊の別のメカニズム、すなわち疲労を示唆しています。疲労は、圧縮又は引張のいずれかで応力が加えられ、その後緩和されたときに繰り返し発生する可能性があります。関連する例として、超高密度ポリエチレンの疲労破壊に関するPruittら(1992)の論文があります。これらの研究者は、最大250万サイクルの遠距離圧縮での亀裂伝播を研究しました。疲労試験は、商業メーカーから提供された新しいケーブルサンプルのTR-XLPEサンプルで実施されました。
疲労試験は、使用中に想定される条件とは異なる条件で実施する必要がありました。
・試験は、TR-XLPEで関心のある応力振幅を達成するために必要な変位は、どの機械的試験装置でも120Hzでは適用できないため、120Hzではなく5Hzで実施しました。
・TR-XLPEのコンプライアンスにより、サンプルは大きな応力を発生させることなく曲げることができたため、試験は引張状態で実施されました。サンプルに高応力が発生するためには、サンプルの両端を機械にしっかりと固定する必要がありました。Reidら(1979)は、圧縮時の疲労メカニズムを調査し、圧縮時の疲労亀裂成長は、切れ目やボイドなどの応力集中部付近で発生する残留引張応力に起因すると述べています。このような状況での亀裂成長が発生する引張疲労とは対照的に、各サイクルのアンロード部分で発生します。
・また、実験は現場でのサービスの年数や数十年よりも必然的に短くなっていました。
疲労試験を含む更なる機械的試験は、ASTM D638 – 08 Standard Test Method for Tensile Properties of Plastics (ASTM,2008)に規定された形状を用いて実施しました。図17(a)を参照しました。試験前と試験後のサンプルの例を図17(b)に示します。ほとんどの場合、試料は試験中に破断しましたが(意図したとおりに)、いくつかのケースでは、試料が機械の伸びの限界まで伸びました。これらのサンプルは、元の長さの250%以上まで伸びたが、この程度の変形では絶縁が聞かなくなるため、故障したと言われています。
その後疲労試験の結果と比較するために、まず試料を単調引張状態で破壊まで荷重をかけました。これらのデータから、最大の引張強さが得られました。最大引張強さとは、局所的な塑性不安定性が変形の局在化を引き起こす前の材料に達成される最大応力のことです。この点を超えると、得られる工学的応力は明らかに減少しますが、これは応力を定義するために使用される式(荷重/元の面積)の人工物に過ぎません。結果は図18に示されており、各応力-ひずみ曲線のピークはその材料の最大の引張強さの違いは小さいですが、高密度ポリエチレン(ポリエチレンのはるかに硬い形態)ははるかに高い引張強さを示しています。最大の引張強さは、疲労試験のための応力振幅(最大応力から平均応力を差し引いた値)を選択するために使用されます。後述するように、疲労実験中に印加された最大応力は、サンプルが寿命を迎えるまで、材料の限界引張強さを超えることはありませんでした。その結果、変形は試料全体で発生しました。全ての試験は、0.1の荷重比(最小荷重/最大荷重)で実施しました。
XLPEでTR-XLPEの機械的応答は非常に似ています。しかし、HDPEははるかに硬い材料で、より高い応力レベルに耐えることができますが、延性を犠牲にしています。XLPEとTR-XLPEは故障の前に150%以上伸びることができますが、HDPEは75%の伸びの後で破断しました。
誘電泳動力の数値解析で予測される応力の範囲内である3~4MPaの応力振幅を5Hzの正弦波を用いて試料に印加しました。試料の破損は、2つに割れたとき又は約150%以上の伸びが生じたときと定義しました。
図19は、4つの異なる応力振幅におけるサンプルの伸びを、適用された引張応力サイクル数の関数として示しています。4つの応力振幅全てで、サンプルは破壊されました。最高の応力振幅では、サンプルはほぼすぐに破断します。これらの応力振幅が最も低い場合、最初の伸びはほとんど発生しません。各サイクルの間の亀裂の成長は最小限です。約70,000サイクル後、材料内の局所的な不調和に小さな局所的な変形領域が形成され始めます。この時点から、この局所的な変形がネッキングとして知られるプロセスでサンプル全体に広がると、伸びが急速に発生します。この挙動は、疲労を与える材料では一般的です。
疲労変形の存在は、図20に示すような破断面の顕微鏡写真を見れば一目瞭然です。破断の発生源は低倍率(a)と中倍率(b)の顕微鏡写真の左下隅付近にあり、亀裂はこれら2枚の顕微鏡写真の右上に向かって伝播しています。表面の波状の特徴は疲労縞として知られており、疲労のために通常観察されるパターンです。各ストライプは、1サイクルの間に亀裂が局所的に進行したことを表しています。波紋は最初近いですが、その後波紋間に亀裂が局所的に進行したことを表しています。波紋は最初近いですが、その後分離が進み図19と一致するように、サイクルごとにヒビが大きく成長することを意味しています。これらの縞模様は、亀裂発生源付近から撮影された最高倍率の顕微鏡写真(図20(c)及び(d))にも見られます。
疲労研究では、結果を表現する一般的な方法として、応力-寿命プロット(Wöhler曲線又はS-N曲線としても知られています。)があります。破壊までのサイクル数を横軸に、応力振幅を縦軸にプロットします。図21は、負荷比(最小応力/最大応力負荷)0.1で、空気中5Hzで試験したTR-XLPEサンプルのS-N曲線を測定したもので、より高い応力振幅で疲労寿命が著しく低下することが予想されます。これらの測定は、ケーブルの寿命に比べて必ず短期的なものであることが強調されています。例えば180,000サイクルは5Hzで10時間です。誘電泳動力の120Hzでは、これらのサイクル数はさらに短く、300,000サイクルは40分で到達します。それにも関わらず、このプロットの結果をケーブルの寿命に外挿すると、次のようになります。120Hzの場合、サイクルは26年相当します。120Hzでの10回のサイクルは2.6年に相当します。外挿しでは寿命に1.7[MPa]で到達することを示しています。26年後に故障を引き起こすのに必要な応力振幅は、1.6[MPa]となります。これらは、数学モデル(図14など)で予測された応力に匹敵するものであり、疲労がケーブル絶縁体の長期的な故障のメカニズムである可能性を示唆しています。また、Sauerら(1977)は、ヒステリシス損失が大きい高分子材料の疲労では、周波数の増加がより大きなエネルギー散逸を引き起こすと結論付けています。その後、著しい温度上昇が生じ、疲労寿命に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、より高い周波数での疲労ではポリエチレンの寿命が短くなると予想されます。
図21の結果は、室温での疲労実験で得られたものであり、試験中のサンプルの温度制御は試みられていない。ポリマー鎖が互いの間を滑る際の摩擦加熱(図15のループのヒステリシス)によって温度上昇が生じる可能性があると予想されましたが、そのような温度上昇は小さいものでした。例えば、Sauerら(1977)は、ポリエチレンの問題となっている応力レベルでの温度上昇を1度か2度と報告しています。しかし、TR-XLPEを使用中に遭遇する可能性のあるより高い温度(中心導体のジュール加熱や同心中性線など)での故障に対する感受性をテストするために、サンプルを加熱されたチャンバーに封入し、さらにテストを実施しました。図22は、わずか10~15℃の温度上昇に対して、TR-XLPEのサイクル寿命が約2桁減少していることを示しています。各試験条件で試験した6つのサンプルで観測された最大、最小のライフサイクルは図22のエラーバーを使用して示されています。温度の影響は、疲労がケーブル絶縁材の信頼性の高い故障メカニズムであることを裏付けています。
試料の温度上昇は、以下の方法で推定することができます。例えば、図15において、または引張状態のサイクルの対応する図において、各ローディング曲線及びその対応するアンローディング分岐で囲まれた領域から、サンプルに行われた正味の仕事を計算できます。これは、荷重中に行われた仕事のパーセンテージ(約30%)として表すことができます。このパーセンテージが全ての疲労サイクル中も同じであると仮定すると、各サイクルの測定された伸びと課された応力から、各サイクルにサンプルに加えられた仕事を計算できます。この仕事は、サイクル数の増加に伴い、サイクル当たりの伸びが増加します。計算された結果は、有限要素定常状態の熱伝達計算に入力され、試料と空気の界面での対流熱伝達係数が設定されました。このアルゴリズムでは、ヒステリシスエネルギーの50%が熱に変換され、残りの50%が内部構造変化をもたらす絵化学結合の切断に変換され、残りの50%が内部構造変化をもたらす化学結合の切断に変換されると仮定しています(Rittel and Rabin , 2000)。1つの応力レベルについての計算結果を図24に示します。研究者たちは、実験的にも理論的にも、関心のある応力振幅でのサイクリングによる温度上昇は小さいと結論付けています。現場では、断熱材は高温よりも多くの物理的影響を受ける可能性があります。例えば、地下水や導管やダクト内の水が絶縁体に到達する可能性があり、そのような水の一般的な成分、例えば道路塩や岩石圏で一般的な化合物が存在する可能性があります。NikolajevicとDrca(2001)は、水がケーブルの絶縁体にかかる応力を低減することを決定していますが、これらの著書は本研究で関心のある機械的応力ではなく、絶縁体が破壊される電場に言及しています。したがって、図25に示すように貯水池からポンプで資料に衝突するジェットに供給された一定の水流を試料の表面上を流して疲労実験を実施しました。水の温度は、水によって提供されるあらゆる冷却を最小にするために、試料において室温より7~8℃高くなるように制御しました(室温は22~23℃でした)。
結果を図26に示すが、この水環境で試験した新鮮な試料を浸した(3ヵ月間)試料の疲労寿命を表示しています。浸した試料と水中に晒されたばかりの試料は、空気中で試験した試料よりも温度が高いにも関わらず、サイクル寿命が向上していることが分かりました。この予想外の結果を説明するための仮説として、新たに形成された表面が環境と化学的に反応することで、材料中の破壊亀裂の進展が促進されるというものがあります。ポリエチレンを空気中で破断させると、破断した結合は酸素などの腐食性のある種と反応します。試料が水中にある場合破断面への酸素のアクセスが制限され、破断の伝播が遅くなります。水が亀裂の先端で吸収され、ポリマーの膨潤と亀裂の鈍化効果を引き起こし、Samatら(2009)がポリ塩化ビニル(PVC)は水性環境下で発見したのと同様の効果をもたらす可能性があります。この挙動の原因を特定するためには、さらなる研究が必要であるが、ここで実施した試験では疲労がサービスのような環境での破壊の可能性のあるメカニズムであることが示されています。
図27は、TR-XLPEのサンプルを最初にフミン酸のナトリウム塩又は酸性化塩化第二鉄溶液に曝露した室温空気中での疲労測定の結果を示します。塩は1[g/L]の濃度で使用しました。試料は試験前に3か月と6か月浸した。ここで使用して腐食酸の濃度は、ほとんどの地下水よりも高いが(Delleur , 2007)、あらゆる有害な影響を強調し使用中の長期曝露による累積的な影響をシミュレートするために、高濃度の腐食酸を選択しました。鉄は、岩石圏で4番目に豊富な元素です(USNY , 2001)。地球表面近くでは、酸化条件の結果鉄の多くは鉄イオンとして存在している。また、岩石圏には塩化物イオンも多く含まれています。このため、1[mol/L]の濃度の塩化第二鉄水溶液に1[mol/L]の硫酸を加えた資料を3か月浸して疲労実験を行った。その結果を図27に示す。いずれの溶液も、浸した後TR-XLPEの耐疲労性を有意に低下させました。比較のために空気(図27)で試験したフミン酸に浸したサンプルの結果と共に、流動、加熱でのサンプルの結果が図28に表示されています。流動性のある溶液は、おそらく前段落で仮説を立てたように、形成破壊面の酸化を抑制することによって、TR-XLPEのサイクル寿命を向上させます。試験環境による潜在的な冷却を緩和するために、流動は一定の高温に保たれました。
流動するフミン酸塩溶液中で疲労する前にフミン酸塩に3か月間浸した試料の破断面の顕微鏡写真を図29(a)に高倍率で示します。図29(b)に再現した図20(d)の破断面と比較すると、フミン酸に浸した試料は、空気中で破断した試料に比べて、より多くの孔が開いているように見え、おそらく前者の方が環境との反応が大きいことを示しており、図28の結果を説明しています。また、破断面の表面形状が平坦であることから、フミン酸に浸された試料の方がはるかに脆い破断面であることが分かります。
この研究は、ポリエチレン内の応力を推定するための数学的モデル化と、ポリエチレンの機械的挙動とその挙動に及ぼす様々な環境の影響を決定するための実験を組み合わせたものです。この結果は、化学的な作用が原因であるとする学派のZellerが電気的な作用が原因であるとする学派を支持しましたが、化学的作用の全てを否定しているわけではありません。実際、ここで紹介した研究では、この2つがある程度正しいことが示されています。化学反応と機械的な力の両方が作用していることが、水トリーの発達の原因である可能性が高いのです。
2.3.4 結論
この調査の結果は、説得力があるというよりも示唆に富んでいます。周期的な機械的応力が働くとき、ケーブル内の水トリーの周囲にあるポリエチレンに働く応力とは異なります。しかし、どちらの場合も、その挙動は材料特性、特に環状応力と環境に対するポリエチレンの応答によって決定されることを認識しなければなりません。したがって、本調査の結果は、水トリーの伝播に関連していることがわかります。ボイドや介在物のような欠陥の周囲に周期的な誘電泳動応力によるポリエチレン断熱材の疲労が、水トリーの発達のメカニズムである可能性があります。誘電泳動応力は数メガパスカルのオーダーになる可能性があり、実験室での疲労実験では、これらの応力が長期的にTR-XLPE絶縁材を損傷させる原因となります。またTR-XLPEが地中のような高温環境ではロバスト性が低くなるという実験結果により、信憑性の高いものとなっています。TR-XLPEは水のみに曝されている場合には他の材料よりも頑丈ですが、地中で遭遇する可能性の高い物質に曝された場合には強度が著しく減少します。
2.4 ポリエチレンへの電荷注入:メカニズムと実験
2.4.1 序論
固体電極による絶縁体への電荷注入は、困難が伴います。その原因としては、絶縁体のバンドギャップが大きいことや、絶縁体の電子親和性と金属接点のフェルミ準位の差が大きいこと、あるいは半導体接点の場合には、絶縁体と半導体接点の電子親和性/イオン化電位の差が大きいことが挙げられます。
KallmanとPopeによって開始された研究(J.Chem.Phys.1960,Nature 1960)や、LohmannとMehl(1975)、MehlとHale(1967)などの他の研究によって、アントラセンの結晶のような有機絶縁体への電荷注入は、固体ではなく液体の電解質を電極として使用することで容易に実験できました。アントラセンのバンドギャップは約5[eV]であり、アントラセンの価電子帯の上端は酸化還元対でいう酸化のエネルギーレベルとほぼ一致します。
ポリエチレンのバンド構造は、炭素原子数が増加するアルカンの電子構造の変化の観点からわかるかもしれません。ポリエチレンの電子構造のさらなる詳細は、水素原子の付加によって炭素原子の鎖の電子構造に誘導される変化から生じます(Hoffmann 他,1991)。この化学的アプローチは、ポリエチレンが10[eV]オーダーの非常に大きなバンドギャップを有していて、これは実験的に測定された8.8[eV]の値と一定しています(Less and E.G.Wilson,1973)。ポリエチレンが有する大きなバンドギャップと、その電子親和性が負であるという事実(Serra他,1998)は、水性電解質を電気接点に使用して結晶性ポリエチレンに電荷を注入できる可能性が低いことを示しています。しかし、低密度ポリエチレン(LDPE : Low Density Poly-Ethylene)のバンドギャップ内へ局所的に電荷を注入するために電解質を利用できるかもしれません。水性電解質による電気接点は、固体電極が採用されている場合に必要な電圧よりもはるかに低い電圧で電荷注入を行えるかもしれません。
水性電解質によるポリエチレンへの電荷注入を検討する動機は2つあります。第一に、Rose(1995)やSmith and Rose(1955)が指摘しているように、固体による絶縁体への電荷注入は、絶縁体のバンド構造に関する基本的な情報のみが判明します。第二に、より実用的な観点から、水性電解質からの電荷注入がポリエチレンの直流電気分解に役割を果たす可能性があります。電気接点の役割を調べることで、直流高電圧絶縁体と死闘されるポリマーの絶縁破壊や、交流高電圧絶縁体として使用されるポリエチレンの水トリー化についての洞察が得られるかもしれません。
本研究ではFeCl3を含む水性電解質を電気接点に用いて、低密度ポリエチレンへの電荷注入を検討しました。
2.4.2 実験のセットアップ
厚さ25[μm]の低密度ポリエチレン製フィルムのサンプルを調整しました。サンプルは、片面当たり30~40[mm]程度で、電荷注入に使用した電気セルを図30に模式的に示しました。セルは,縁に沿って円形のくぼみの開口部に2つのL字型のガラス管を組み合わされていました。管の直径は約1[cm]で、開口部の直径は約16[mm]です。片方のガラス管のくぼみにOリングを入れ、低密度ポリエチレンのサンプルをその上に置き、もう片方のガラス管をサンプルに押し付けて、ガラス管の2つの溝でOリングとサンプルが安定するようにしました。このセットアップは、ガラス管とサンプルの間に水を防ぐ密閉シールで接合しています。最終的な機器の向きは、2つのL字型のガラス管の開口部が上に向けられていて、サンプルが中央で2つのガラス管を分離しています。これにより、サンプルが2つの液体導体間の唯一の電気接点であるL字型の各ガラス管に、異なる液体接触(水性電解質またはガリンスタン等の室温液体金属合金)を追加することができます。
このU字型の装置に水性電解質を充填し、ファラデーゲージに入れました。電解質は、電極間に最大6[kV]の直流電流を印加できるHypot-Ⅲ 3670に白金線で接続しました。この電流は、ポリエチレンが破壊された場合のピコ電流計の損傷を防ぐために、300[MΩ]の抵抗器を直列に接続したキースレー6485ピコ電流計を用いて記録しました。
使用した電解質は、様々な濃度(1,0.5,0.04,0.02[mol/L])のFeCl3を含む1[mol/L]の硫酸です。
液体金属は、ガリウム、インジウム、スズの共晶合金であるガリンスタン(Ga:In:Sn = 68.5:21.5:10)でした。
セル電圧の2つの極性が使用されました。順方向バイアスではH2SO4+FeCl3電解質(Aとする)が高電位にあり、1[mol/L]のNaCl水溶液(Bとする)が接地していて、Aと接触しているポリエチレンの表面で還元が行われています。逆バイアスの場合は、Aの電解液が高電位のBを接地し、Aと接触したポリエチレンの表面で酸化が行われます。
各試験で、最初のセル電圧を100Vとし、各20秒間隔の後、電圧を100Vずつ上昇させ、最大直流で6kVまで、または2500点のデータポイントがピコ電流計によって記録されるまで上昇させました。電流は0.31秒間隔で記録し、電流が300[MΩ]の抵抗器によって制限された電流のオーダー値まで増加したとき場合は試験を停止させました。
2.4.3 結果と考察
電気セルを横切る逆バイアス電圧がセル電流に与える影響を図31に示します。電流-電圧プロットの2つの特徴が際立っています。第一に、印加されたセルで夏が100V増加する毎に電流が急増しっます。電圧が2200V以下では、電流密度は時間とともに減少し、2600Vでは時間とともに増加します。電流のスパイクと時間依存性は図31のデータのノイズの原因です。第二に、特定の電圧値では、低密度ポリエチレンに約1[MV/cm]の電場がかかり、電流密度は数十~数百[nA/cm2]程度まで急激に上昇します。
図32では、電圧を4.1kVから4.2kVに徐々に変化させたとき(試験開始から約820秒後)、電流密度が60[nA/cm2]から8,620[nA/cm2]に跳ね上がっています。低密度ポリエチレンの破壊に起因する急激な電流上昇の直後に、印加電圧をゼロまで下げました。絶縁破壊後に100Vを印加しなおすと、電流密度は20[nA/cm2]に跳ね上がりました。これは。絶縁破壊前の100V印加時の電流密度よりもけた違いに大きいことが分かります。
3番目と4番目の重要な特徴は、セル電圧の極性がセル電流に与える影響と、電流-電圧間の非線形関係です。印加電圧とセル電流の関係を明確にするために、図31に示したデータの一部を、電圧の増加に続いて20秒後の印加電圧対セル電流として再び図33にプロットしました。電流対電圧の関係は電流密度が数百~数千[nA/cm2]に急激に増加する値以下にとどまっている限り、再現性がありました。逆バイアスでは、Aの電解液に浸した白金電極が負に帯電し、Aに浸した低密度ポリエチレンの表面で参加が起こると、より高いセル電流が発生することに注意が必要です。順方向バイアスでは、Aに浸した白金電極が正に帯電し、低セル電流が記録されている場合があります。約4kVの逆バイアス状態の電気セルを故障するまで実験し、セル電圧を100Vにリセットした後、20秒後ごとにステップさせて様子を見ました。故障時の電流密度(8.62×10-6[A/cm2])はこのスケールで観察することができます。
2つの重要な観察があります。
(1)セル電流に対する電圧の効果
(2)セル電圧の100Vステップに続く時間による電流の減衰
これらについては、本項の残りの部分で議論していきます。
2.4.3.1 セル電圧の電流への影響
水性電解質の代わりに液体金属(ガリンスタン)を電気接点に使用して、100Vの電圧ステップに続く20秒間のセル電圧対セル電流を測定しました。金属の電気接点を用いた結果は、電圧の極性に依存せず、実験的なばらつきの範囲内で、図33の順方向バイアスの場合の結果と同じでした。したがって、例えば印加されたセル電圧が3kVの場合、セル内の電流密度の約7.5倍でした。この比較から、Aの電解液と逆バイアスを使用することで、金属の電気接点を使用するよりもはるかに簡単に低密度ポリエチレンに電荷が注入されることが分かります。
Aの電解液から低密度ポリエチレンへの電荷注入のメカニズムと内部の電荷キャリアの正体をしるのは、電流対電圧曲線の解釈に役立ちます。追加の試験により、内部の電荷輸送に吸水が関与している可能性を除外できました。また低密度ポリエチレンを電解質と接触させた時間が3時間、電圧上昇前の24時間の実験では、試料と電解質を接触させた直後に電圧上昇を開始した場合と比較して、これまでの結果と統計的に有意な差はみられませんでした。
低密度ポリエチレンを介した電荷輸送における水溶性イオンの役割の可能性も除外することができます。まず、電解質AとBはともに1[mol/L]の塩化物を含むため、塩化物イオンは関与していませんが、セル電流は電圧極性の関数でした。電解質Aから低密度ポリエチレンを介して電解質Bへの鉄イオンの輸送は、高セル電流(例えば、逆バイアス)の場合に印加される電場によって反応されるため、鉄カチオン(Fe+2,Fe+3)もまた、試料を介して電荷輸送に関与していません。したがって消去法により、低密度ポリエチレン中の電荷キャリアの中で最も可能性の高いものは電子又は正孔であると考えられます。
したがって、セル電流の方向は、電解液/低密度ポリエチレン界面で化学反応を行い、電解液中のイオン性電荷キャリアから低密度ポリエチレンの電子性電荷キャリアに変換する必要があります。逆バイアスでは、Fe+2が酸化され、試料に注入されます。
ポリエチレンのバンドギャップは非常に大きい(8.8[eV])ので、電子は伝導帯が価電子帯ではなくポリエチレンの禁制帯内の空の場所に注入されます。これらの空の場所のエネルギーは、Fe+2/Fe+3の酸化還元対の平衡ポテンシャルに関連するエネルギーに非常に近いものでなければなりません。その結果、Fe+2の酸化に関与する低密度ポリエチレン中の空のギャップ準位のエネルギーは、真空中のエネルギーに対して、約-5.27[eV]です(Morrison,1980)。第一鉄イオンの占有準位に対応する状態密度は、およそ-5.2~-6.2[eV]までのガウス関数で表され、第一鉄イオンが空のレベルではおよそ-4.3~5.3[eV]までで表されます。
逆バイアス時には、低密度ポリエチレン界面で還元がおこなれなければなりません。電解質中の還元性種は水と溶存酸素です。
水:
溶存酸素:
順方向バイアスでは、Fe+3は低密度ポリエチレンの表面で還元され、成功は内部の占有深層に注入されます。
注目すべきは、交換率の高い酸化還元対(例えば、Fe+2/Fe+3)を含む電解液と接触した低密度ポリエチレンの表面で酸化反応が起こると高セル電流が発生する電圧極性の影響と、アントラセンに電荷を注入するために電気接点として利用した場合の電圧極性の影響が逆であることです。アントラセンの場合は、酸化反応による電子が結晶の価電子帯に注入されていました(Kallman and Pope,1960 ; Mehl and Hale,1967)。一方本実施例では、上述したようにポリエチレンのバンドギャップが大きいことから、酸化反応による電子が低密度ポリエチレンの深層に注入されていることが示唆されます。
Fe+2/Fe+3の対の電子交換速度は非常に速いため、水性電解質中のFe+2とFe+3の濃度はほぼ等しくなります。逆バイアス時のセル電流が高いのは、順バイアス時の低密度ポリエチレン表面でのFe+2の酸化速度が、順バイアス時の表面でのFe+3の還元速度よりもはるかに大きいことを示しています。Fe+2とFe+3の濃度が同じ為、Fe+2の酸化率が高いのは、ギャップ内の-4.3~-5.3[ev]の間のエネルギーの空の局在状態の数が、ギャップ内の-5.2~-6.2[eV]の間のエネルギーの占有された局在状態の数と比較して多いためです。
低密度ポリエチレンへの電荷注入におけるFe+2の役割を評価するために、FeCl3の濃度は異なる電解質について、セル電流をセル電圧の関数として測定しました。結果は図34に示され、表1にまとめられていて、これは、電子がFe+2から低密度ポリエチレン中の空の状態に注入されるように分極されたセルを流れる電流密度を列挙しています。すなわち、Fe+2の酸化はLDPE/1MH2SO4+xFeCl3界面で起こります。
従ってセル電流(例えば、試料側への電荷注入率)は、FeCl3の濃度に比例すると予想されます。
1[mol/L]のFeCl3で3kVの電圧下ではセル電流密度は74[nA/cm2]であり、0.5[mol/L],0.04[mol/L],0.02[mol/L]でのFeCl3のセル電流密度はそれぞれ37,3,1.5[nA/cm2]に下がることが示唆されました。順方向バイアス及びFeCl3が含まれていない電解質中で測定された最低値が約10[nA/cm2]であり、これは例えばO2/H2Oなどの酸化還元対に起因していることを示唆しています。0.5MのFeCl3中で測定された26[nA/cm2]のセル電流密度は、37[nA/cm2]の推定値とほぼ一致しており、提案されている水性電解質(FeCl3)から低密度ポリエチレンへの電荷注入のメカニズムと一致しています。0.04[mol/L],0.02[mol/L]のFeCl3を含む1[mol/L]の硫酸中で3kVのセル電圧に起因する電流密度は、それぞれ9[nA/cm2],8[nA/cm2]であり、低濃度のFeCl3に関連する電流密度は、予想値よりもはるかに大きく、FeCl3を添加していない溶液で測定された11[nA/cm2]の値とほぼ等しいことが分かりました。0.04[mol/L],0.02[mol/L]のFeCl3を添加した1[mol/L]の硫酸の3kVでの電流密度の類似性は、Fe+2の酸化がH2Oの酸化に置き換わったためです。
低密度ポリエチレンにおける電流の流れのメカニズムで重要なのは、Fe+2から電荷が注入されると仮定された低密度ポリエチレンの極深層の構成と、その内部での電荷輸送のメカニズムの2つです。これらの情報は、電流の時間減衰を測定することで判明します。
2.4.3.2 時間による電流の減衰
分析すべき第二の重要な観察事項は、セル電圧が100Vずつっ上昇した後の時間経過に伴う電流の減衰です。原則として、電解液中のFe+2とFe+3の低密度ポリエチレン表面への移動が電圧ステップ後の電流減衰の原因となる可能性がありますが。以下の議論ではその可能性が低いことを示しています。
具体的には、逆バイアスの場合、Fe+2/Fe+3電解液と接触した低密度ポリエチレン表面の酸化反応により、参加可能な種であるFe+2が消費されて濃度が大幅に低下し、セル電流を低下させる可能性があります。しかし、セル電流と相関のある酸加速度は非常に少なく、Fe+2の濃度は大きく、Fe+3の濃度と等しいため濃度の大幅減少は考えにくいと思われます。
Wintle(1974)は、2つの電極間の絶縁体に印加された電圧ステップの後、電流が時間とともに減少する4つのプロセスを特定しています。これらのメカニズムの内の2つは、水性電極間の低密度ポリエチレンに印加された100Vのステップに続いて電流が時間とともに減少する可能性のある原因として直ちに否定することができます。最初のメカニズムである双極緩和(Cole,1942 ; Neagu 他,2000)は、絶縁体内で発生し(つまり電極材料に依存しない)、電極の重要な役割を示す結果と食い違っています。第二のプロセスは、分極と呼ばれています(Beaumont and Jaco,1967; Tiebensky and Wintle,1972 ; Kahn and Maycock,1967; Macdonald,1971)。分極は、全体又は部分的にブロッキングされた電極のキャリア放電の速度と比較して、絶縁体を介したキャリア輸送の速度が速い結果として、絶縁体/電極界面に近い絶縁体での電荷の蓄積に起因します。分極効果は、一般的にイオン性絶縁体に起因すると考えられています。分極が低密度ポリエチレンの吸収電流の原因であると考えにくいのは以下の理由からです。
(1)低密度ポリエチレンの大きなバンドギャップを考慮すると、内部に移動性キャリアの有意な濃度が存在する可能性が低いこと。
(2)深層に局在化したギャップ状態の電荷キャリアは、移動度が非常に低い可能性が高いから。
Wintleの4つのプロセスに加えて、Das Gupta and Brockley(1978)は、絶縁体中の電荷キャリアホッピングに基づく第5のプロセスを追加しました(Wintle, 2003;Romanets and K.Yoshino,2004)が、これは検討から外せます。低密度ポリエチレンを介した電荷キャリアホッピングは、結果が電極の同一性に依存するため、研究者の実験では吸収電流の原因とは考えられません。
ポリエチレンはバンドギャップが大きく、電子親和性が小さいため、1[mol/L]のFeCl3水溶液のフェルミ準位は-5.7[eV]のエネルギーを持ち、ポリエチレンの禁制帯内で非常に深い準位となります。以前の研究の結果は、深い準位の存在を示唆していましたが、直接的な証拠は示されていません(Wintle,1974; Huzayyyin 他,2008)。計算(Meunier and Quirke,2000)によると、ポリエチレンのバンドギャップ内の付加的なエネルギー準位の為の極大エネルギーは、1[mol/L]のFeCl3のフェルミ準位には遠く及ばないことが示されています(Meunier and Quirke,2000; 2001; Teyssedre,2001)。具体的には、ポリエチレンの物理的欠陥は、0.5[eV]未満の伝導体以下の深さを有する準位を与えます(Meunier and Quirke, 2000)。架橋剤に関連する化学的欠陥は、計算された深さが2[eV]未満の順位を与えます(Meunier and Quirke,2001 ; Anta,2002)。
もちろん、極端に深い準位(例えば、-4.3~-5.3[eV]の範囲の絶対エネルギー)が低密度ポリエチレンのバルク中に存在していたとしても、それがキャリア輸送に大きく寄与するとは考えにくいです。極端に深い準位に注入された電子の移動度は、室温ではあまりにも小さいと考えられます。表面準位の存在を示唆する実験結果と、それを検出できない実験結果の矛盾を説明するために、一部の研究者は、表面準位は絶縁体表面に存在し、電荷注入を可能にしますが表面準位は絶縁体内には存在せず、直接検出できないという説明を行っています。
Suzuoki他(1984)やMizutani他(1983)の実験結果から、絶縁体表面の表面準位が電荷注入を増強することが確認されました。またポリエチレンの表面にアセトキシ基と水酸基をドープさせると(Suzuoki,1984)、表面準位が導入され、金属電極からの電荷注入率が向上することが確認されました。帯電防止剤はバルク全体に存在し、表面に限らずヘテロ表面空間電荷を形成するだけでなく、表面準位を導入し(Mizutani,1983)、高密度ポリエチレンへの電荷注入率を高めました(Suzuoki他,1985)。また、高密度ポリエチレンの表面酸化(Mizutani, Ieda, 1979; Mizutani 他, 1980)は、電荷注入に寄与する可能性のあるカルボニル基(Huzayyyin他, 2008)に関連するような表面準位を導入する事にも注目すべきです。
1[mol/L]のFeCl3水溶液による低密度ポリエチレンへの電荷注入における表面準位の重要な役割は、印加電圧を急激にオフにすると、電流がすぐに減少して極性が変化(最終的には急速にゼロに減衰)した実験結果からも裏付けられています。絶縁体バルクの深部に電荷注入しても、電圧をゼロに段階的に下げても、極性が変わらない電流が得られました。この放電電流は、バルクの表面準位がゆっくりと空になる結果になりました(Romaenets and Yoshino, 2004)。
表面や表面近傍に閉じ込められた表面準位の組み合わせは、Lewisによって記述された移動電荷キャリア形成のメカニズムと相まって、1[mol/L]のFeCl3水溶液による効果的な電荷注入を説明できます(Lewis, 2002)。このメカニズムによると、Fe+2からの電子は、-5.2~-6.2[eV]の間のエネルギーを持つ表面トラップに注入されます。電子はその後、価電子帯の正孔に落下し、逆バイアス時に印加される電圧によって低密度ポリエチレンの表面にもたらされます。エネルギーの保存から、正孔の消滅(-8.8[eV]に位置する価電子帯端のエネルギーが2.6~3.6[eV]になる)と、例えばFe+2からの別の電子の励起(-2.6[eV]のエネルギーになる)を、浅いトラップと結びつけるオージェプロセス(Auger process)によって満たされます。このメカニズムはFe+2/Fe+3の酸化還元対のユニークな役割を、平衡ポテンシャル(フェルミ準位など)の特異な値と、酸化還元対による急速な電子交換とに起因していると考えられます。
今後の実験では、メカニズムをさらに詳しく調査するために、温度の影響(電子のトンネル化と電荷注入の他のメカニズムを区別する)、ポリエチレンの種類(架橋ポリエチレン、高密度ポリエチレン)、他の高分子絶縁体の性能(表面状態や非常に深いトラップの影響を調べるため)を調べる予定です。
2.4.4 結論
1[mol/L]のH2SO4と0.5又は1[mol/L]のFeCl3の水性電解質からの電荷を高電圧印加下で低密度ポリエチレンに注入しました。Feaq+2の濃度が低下すると電荷注入量が減少することがわかりました。FeCl3水溶液で注入された電荷は、1[mol/L]のNaCl水溶液の下で注入された電荷と液体金属(ガリンスタン)接点で注入された電荷に比べて優位に大きいことが分かりました。電流対電圧のプロットにおける電圧極性と電解質塑性の影響、及び100Vの電圧ステップに続く時間とともに電流が減少することから、電荷注入はLDPEの表面でのFeaq+2の酸化とLDPEへの電子移動からなることが示唆されました。
電流対電圧及び電流の時間経過に伴う減衰のプロットは、金属導体から絶縁体への電荷注入のメカニズムと一致している(Lewis, 2000)。具体的には、Feaq+2の酸化による電子が低密度ポリエチレンの空の局所的な表面準位に注入されます。水溶性の第一鉄イオンの電子エネルギーの範囲に基づいて、仮定された深さの表面準位のエネルギーは-5.2~-6.2[eV]です。低密度ポリエチレンを介して電荷輸送は、表面状態の電子が価電子帯の正孔を消滅させ、伝導体以下の浅い状態に結合したオージェ電子(Auger Electron)によって発生します。
この結果は、電解質水溶液の接点から絶縁体に電荷を注入することで、低密度ポリエチレンのいくつかの局所的なギャップ状態のエネルギーが得られることを示しています。より実用的な観点からは、電解質による電荷注入が高電圧直流絶縁体の電気的破壊に寄与する可能性があることを示している。現在、高交流電圧の影響を受けた電解液接点からのポリエチレンへの電荷注入について研究を進めている。
第3章 地中配電ケーブルの絶縁性を非接触で調べる方法
3.1 序論
この章では、地中配電ケーブルの絶縁性が保たれているかを調査するための非接触診断法とセンサーの開発に関する研究について説明します。具体的には、実際のセンサー位置よりも下の絶縁体の状態を調査するID法(交互嵌合型誘電率測定法)と、エルボー管のテストポイントを介してケーブルに高周波のテスト信号を注入することで、ケーブル内の絶縁体を遠隔地から調査する高周波テストポイント注入探査法の2つの技術を紹介しています。
3.2 ID法(交互嵌合型誘電率測定法:Interdigitated Dielectrometry)
3.2.1 序論
ID法(交互嵌合型誘電率測定法)は、ポリエチレン絶縁体に交流電場を投射する漏洩型電極で構成されています。電場が絶縁体を貫通し、反対側の電極によって受信する方法は、水トリーによる誘電率の変化を発見できます。
3.2.2 理論
このセンサーは、異なる比誘電率を持つ材料の誘電率εrに着目しています。各材料の構成要素が誘電率を決定しますが、材料の劣化などの物理的変化はその誘電率の特性に変化を引き起こします。
図35に誘電率センサーの形状(左)と等価回路図(右)を示します。センサーは、駆動電極と検出電極から構成されています。電極は絶縁基板の上に配置されています。駆動電極には正弦波の交流電流が印加され、センサーで電位の出力を読み取ります。
コンデンサーの重要な特徴は、電極幅w、電極間のギャップ幅g、電極指の長さL、センサーが持つ指の数N、Vinが駆動電位、Voutがセンシング電位です。
絶縁劣化を検出するためには、センサーから発せられる電場の大部分が非測定材料に集中している必要があります。導電性の背面板がないと、電場は基盤に伝わり、静電容量の読み出しに大きな影響を与えます。計算を容易にするために、研究者は導電性(銅)背面板を追加します。導体内には電場が存在しないため、背面板はセンサーの背面から発せられる電界を遮断します。基盤はセンサーの静電容量に影響を与えますが、背面板に駆動電位を印加することで、総静電容量に対する基盤の影響を計算するのがはるかに簡単になります。
運転中は、センサーが絶縁体に取り付けられている場合があります。絶縁体の内部に水トリーやボイドが形成されると絶縁体の有効誘電特性が健全な絶縁体とはかけ離れています。その結果、センサーの静電容量が変化します。研究者は、静電容量の変化を近似的に計算することができます。図36から、lをセンサー上の電気力線の平均長さとし、次にlmとlvはそれぞれ材料とボイドを通過する電気力線の平均長さであるとします。すると、コンデンサー上のある材料の誘電体スラブは直列になっているので、実行誘電率は
(13)
ここではそれぞれボイド及び材料の誘電率です。式(13)は、実行誘電率がボイド(又は水トリー)を貫通する電気力線の量に依存することを示しています。静電容量は誘電率に依存するので、ボイドはセンサーの実行容量を変化させます。外部チップまたはプログラムでセンサーの測定値を読み取り、静電容量の変化を検出することができます。
3.2.3 IDセンサーの実証モデル
研究者たちは、等角写像を用いてIDセンサーの静電容量をモデル化しました。センサーの2本指の静電容量は、次のように表すことができます。
(14)
ここではが母数の第一種完全楕円積分
(15)
(16)
(16)式は無限の数列和に帰着できることが知られています。
電極は微小高さを持っているので、研究者は連続した電極間の平行板キャパシタンスの効果を考慮する必要があります。
(17)
次にセンサーの総容量は
(18)
ここで、Aは被試験材料を貫く電場の再分布に対応する経験則的補正係数です。
3.2.4 IDセンサーの製造
モデルをテストするために、研究者はそれぞれ異なる寸法の9つのサンプルセンサーを作成しました(表2)。これらのセンサーを工場で製作する代わりに、研究者が自ら設計・製作しました。まずAutoCADなど設計支援ソフトウェアを使用して、各センサーの画像を作成しました。センサーを設計した後、研究者はレーザージェットプリンターで光沢のある写真用紙に印刷しました。その後、研究者は印刷したデザインを取り出し、ポリイミド製の銅板両面に髪を下向きにして取り付け、銅板に画像をアイロンで焼き付けました。レーザープリンターはセンサーの製造に必要なトナーを塗布し、光沢写真紙は銅板へのトナーの転写を容易にしてくれます。20分間アイロンをかけた後、研究者はお湯で写真紙を取り除き、コンデンサーのデザインイメージが印刷された銅板を残しました。その後、研究者はバックプレーンの画像の反対側にテープを貼り、塩化第二鉄の溶液の中に銅板を入れました。トナーとテープは塩化第二鉄と銅との反応を阻害するため、この溶液で不要な銅をエッチングした後、最終的な製品を作り上げました。
3.2.5 実験結果
製造されたIDセンサーの静電容量は、センサーが異なる誘電特性を持つ材料にさらされたときに記録されました。表3は、9個のIDセンサーからの電場が空気、XLPE、厚紙を通過した時の静電容量の結果を示しています。
IDセンサーが、異種材料の誘電率を識別できますが、半導電層で短絡する可能性のあります。図38は地中配電ケーブルの外側に取り付けたIDセンサーの断面図(左)と等価回路図(右)をそれぞれ示している。
絶縁体に到達するためには、電場がセミコンと呼ばれる半導電層を通過しなければならず、これは電場の平滑化に利用されます。図38の回路を解析したところ、電場は大部分が短絡しており、絶縁体層にはあまり入らないことが分かりました。図39は図38の層に対応するケーブル内の様々な層のインピーダンスを示しています。セミコン層のインピーダンスは、他のどの層のインピーダンスよりも8桁小さいことに注目すべきです。これは、セミコン層を通過しようとする電場の大部分がショートしていることを示しています。
3.2.6 結論
研究者らは、ID技術を開発し、地中配電ケーブルの絶縁劣化を検出するための測定に採用しました。異なる材料の誘電率を探査できるIDセンサーの製作できることが分かりました。しかし、セミコンと呼ばれる半導電層がセンサーから発せられる電場をショートさせ、地中配電ケーブルの非接触診断法としての実用性に書くことが分かりました。
3.3 高周波テストポイント注入探査(Radio Frequency Test-point Injection Probing)
3.3.1 序論
配電ケーブルの絶縁体に水トリーと呼ばれる欠陥が発生することは、電力会社ではよく知られています。ケーブルの絶縁体の欠陥(マイクロオーダーのボイド)から始まり、機械的または化学的な力(マックスウェル応力)によって成長し、最終的には絶縁体に破壊的なアーク放電を引き起こしてケーブルを使用不能にします。水トリーが成長すると、ケーブルの絶縁体の誘電率と電気伝導率に影響を与え、破壊的な故障を避けるために交換すべきケーブルを検出するのに役立つかもしれません。一方、ケーブルの交換は非常に高価であり、都市部でのケーブル交換には10万ドル/km以上と見積もられているため、交換は選択的に行わなければなりません(Werelius et al., 2001)。
本研究の主な目的の一つは、通電中の地中配電ケーブル内の水トリーを検出するための新技術を評価して、状態に応じたケーブル交換方法に利用できるか検討します。
以下では、研究者が地中ケーブルの導管の両端で使用されているエルボー管にあるテストポイントで、通電中のケーブルに高周波探査信号を注入する方法について説明します。また一般的に知られている水トリーの特性、ケーブルの調査のためのテストポイントが使用できるか、及びそのようなテストに必要な補助装置について説明します。他にも実験研究用の水トリーを入手するためのプロセスと困難さ、10~60kV、50又は60Hzの配電用に設計されたケーブルにおける高周波信号の損失と位相速度の両方を測定するための方法、最後に初期の探査試験と実施したモデルについて説明します。
水トリーの形態学
Hvidsten and Ilstad(1998)によって提案された水トリー(図40)の記述は、現在では広く受け入れられています(例えば、Dubickas and Edin(2008)を参照)。
水トリーは、多くの場合同軸ケーブルの絶縁ポリマーのボイドや汚れのかけらなどマイクロオーダーの欠陥として発生します。同軸ケーブルの絶縁体に発生するマクスウェル応力によって徐々に引き裂かれ、近くのボイドを繋ぐナノオーダーのチャネルが形成されます。この親水性構造に、ケーブルが浸漬されている水が満たされます。これらの水で満たされたボイド及びチャネルは、絶縁体の誘電率と電気伝導率の両方を局所的に増加させるので静電容量が増加に伴って抵抗率を低下させます。これらの変化は、ケーブル内を伝播する電磁波の位相速度を低下させ、ケーブル内に伝播する波によって発生する損失を増加させます(図41)。Dubickas and Edin(2008)から引用すると水トリーを用いた電力ケーブルの誘電特性は電圧に依存していて(Werelius 他, 2001)、印加される電圧の増加に伴って静電容量と損失が増加することを示しています。また、Wereliusら(2001)は、水トリーの挙動の非線形性を考慮して、高調波発生を利用する可能性についてコメントしています(非線形効果についてはThomas and Saha(2008)も参照のこと)。電圧依存性に加えて、ケーブル絶縁体の誘電率や導電率への影響は、水トリーに作用する高電圧の周波数に依存します(Dubickas and Edin, 2008)。
Ross(1998)は、包括的な論文の中で、さらに次のように水トリーの性質について述べています。
水トリーとは、ポリマー中の分解構造のことで
1.永久性
2.湿度と電場によって成長
3.濡れたときに元のポリマーよりも低い電気的強度を有しますが、短絡又は局所的な破壊経路ではない
4.元のポリマーよりも親水性を増す
3.3.2 提案された測定技術
研究者は、通電中のケーブルに発生した水トリーを評価するために、以下のような非接触技術が提案されました。
a.通常の低周波50又は60HzのAC電圧で通電されたケーブルに高周波探査信号の伝播特性(伝播速度と減衰量)を測定
b.ケーブルの高周波伝送特性を交流電圧に同期して観察
c.印加された交流電圧がゼロ(ゼロクロス値)から最大値(ピーク値)まで変化するように、交流サイクルの少なくとも1/4の間の時間で高周波位相速度及び損失を比較します。図42は、高電圧交流の1/2サイクルと、損失と位相速度の高周波測定が行われるであろう時間を模式的に示しています。
d.重度の水トリー化は、印加されたAC電圧がゼロを越えているときの量と比較して、印加されたAC電圧がピークにある時の高周波位相速度の低下及び、損失の増加によって示されます。
3.3.2.1 実証実験的考察と観察
これから研究者が議論することになる重要な要素がいくつかあります。
安全性
地中ケーブルを試験するためには、ケーブルに試験機器(高周波発生器、高周波検出器、タイミング装置など)を接続する必要があります。安全上の理由から、そのような機器へのバッテリー給電または誘導結合を考慮しなければなりません。また、測定器の破壊を避けるために、通電された電力ケーブルに高周波発生器や測定器を安全に接続するための手段も十分に検討しなければなりません。
研究者たちは、交流5,000[V]又は直流6,000[V]まで通電されたケーブルのセクションを用いた実験室でのテストに成功しました。
ケーブルの高周波と交流励磁の組み合わせ
地中の同軸配電ケーブルは通常、鍵付きのカバーからアクセスできる地下の特殊部に終端があります。ジャケットケーブルは通常ポリマー性のエルボー(図43)に終端があり、そこから中心導体はコンセントに差し込む円筒形のロッドで終端されています。テストポイントはケーブルの左側のエルボー上にあります。テストポイントには、高周波エネルギーをテストポイントの内外に安全にカップリングするためのアンテナがあります。ケーブルの右側にある装置は、ケーブルの同心中性線の整合性を測定するためのものです。また技術者が非通電のはずのケーブルの電圧がオフになっているかを確認したい場合に使用するエルボーの上にもテストポイントがあります。テストポイントは通常、取り外し可能なプラグで覆われており、技術者は接合を工具で引っ掛けて取り外せます。プラグを取り外すと、中心導体に接続された小値コンデンサー(例えば、32[pF])を介して接続された金属導体が露出します。研究者は、コンデンサーを介して中心導体に高周波探査信号をカップリングさせることを提案しています。研究者が実地試験で使用するフィルターは、高交流電圧が高周波機器を破壊するのを防ぐために、実験室での電圧テストで使用できることを確認しました(彼らは、図44で見られるCTPとラベル付けされたコンデンサーを交換しました)。
さらに代替的に高周波信号をエルボーのテストポイントに出入りさせるための誘導手段を使用しても良いです。
実験室のテストでは、高周波生成と表示デバイスからの高電圧を維持するために、研究者は高周波源とテストポイントコンデンサーである32[pF]のコンデンサーの間にハイパスフィルターを使用しました。(実地試験では、高周波の装置とケーブルのテストポイントの間にもこのようなフィルターを使用されていました。
一端検出 vs 二端検出
高周波探査は、一端または二端で行えます。一端検出の場合、研究者はケーブルの一端で高周波探査信号を送信し、高周波をケーブルの遠い端まで伝播させ、インピーダンスの不一致によって反射させます。反射された高周波は送信地点に戻り、そこで検出・分析を行うことができます。送信端のテストポイントを介して接続されたネットワークアナライザーという現場で使える携帯型の高度な電子機器は、周波数掃引された高周波信号を生成し、ケーブルの遠端から反射された戻り信号と比較します。ネットワークアナライザーは、通電されたケーブルの2つの通貨による減衰を分析するために、反射高周波信号と送信高周波信号の振幅比を出力又は保存します。研究者は、ケーブルの端での反射による共振を分析すると、ケーブルの高周波位相速度を決定できることを観察しています(図45)。
二端検出(図46)の場合、ケーブルの両端にあるテストポイントに接続し、一方の端から高周波を送信し、ケーブルを通過することによる減衰を見るために、2番目の端で振幅を測定します。この試験では、狭帯域高周波検出器としてスペクトラムアナライザーを使用できます。遠端の信号から高周波の位相速度を決定するのは上述の共振スキームに類似した手順を使用すると可能かもしれません。
電力会社は、単一の特殊部内での操作を伴うため、一端検出法を積極的に用いることが予想されます。
高周波位相速度の測定
図45に示すケーブルの共振挙動は、交流励磁が1/4サイクル(または、サンプリングオシロスコープの動作原理である連続する各サイクルで微小時間に高周波測定が行われるサイクル)を通過する際のケーブル内の高周波位相速度を決定するために使用できます。ケーブルの静電容量が上昇するにつれて位相速度が低下すると、共振ピーク間の周波数差が変化します。
注:研究者はテストポイントを介してケーブルに結合している間に、従来の時間領域反射率計で位相速度を測定しようとしましたが、使用可能な指標を得ることができませんでした(PG&E : Pacific Gas and Electric から提供されたRiser Bond Model 1205CXA同軸金属時間領域反射率計を使用しました。)。
研究用の水トリー化ケーブルの入手
この研究プロヘクトが始まって以来、水トリ―が発生しているテストケーブルのサンプル入手を試みてきました。ケーブルのサンプルを入手するため2つのアプローチで取り組んでいました。一つ目は水トリーが発生していると思われるサンプルを公共事業者から入手する事でした。しかし、入手したサンプルの目視試験(サンプルをメチレンブルーで染色するか、またはシリコンオイルの中で滑らかな部分を加熱して変色を探す)では、水トリーを確認できませんでした。次に文献(Givens他, 2001)では、絶縁体が露出したケーブルを0.1[mol/L]のNaCl溶液中に浸漬し、高交流電圧(5,000V)を約2か月間印加しました(図47)。ケーブルを処理した後、250℃の厳しい熱放電試験を行うことができませんでした。水トリーが発生したかわからないケーブルでテストを行いましたが、5,000Vのテストでは水トリ―に対する反応の証拠は示されませんでした。
3.3.3 水トリーが発生したケーブルでの高周波伝播モデル
研究者らは、回路解析アプリケーションLT-Spiceを用いて、水トリー化したケーブルの絶縁体の誘電率と電気伝導度の変化による影響を予測してモデル化しました。回路モデルを図44に示します。図48と図49は、それぞれ、水トリーが存在する100フィートのケーブルにおける絶縁体の比誘電率及び電気伝導度の変化による影響の計算結果を示しています。推定された比誘電率と電気伝導度の値は、ポリエチレン中の水トリーの空間電荷分布測定を行ったToyoda他(2001)からのものです。これらのプロットから、水トリーの成長は、ケーブル内の高周波探査信号の減衰量に実際に変化をもたらすことが示唆されています。もちろん水トリーによって引き起こされる効果の大きさは、テスト対象のケーブル内の水トリーの密度と大きさに依存しなければなりません(ある情報源では、水で満たされたボイドの高密度(少なくとも106/㎣)の発生に言及されています)。また、水トリーの長さがその検出性を決定する重要な要因となると予想されていて、長さが直接故障につながる可能性が高いと考えられています(Ross,1998)。
3.3.4 交流電圧と高周波電圧の同時観測
ケーブルに印加された交流電圧の関数として、ケーブル上の損失と位相速度を目的としていました。高電圧電源(Hipot Ⅲ Associated Research、モデル 3665)がトリガーされるアナログデュアルアンプオシロスコープ(Tektronix 7904A, 7A26 アンプ2台、トリガープラグイン7892A)を使用して、約3サイクルの交流電流が画面上に安定して表示されるようにしました。2[MHz]から300[MHz]までの高周波(Agilent E 8251A Signal Generatorからの信号発生器)は、60[Hz]の波形と共に、希望通りにぼやけたように表示されます(図50)。
3.3.5 結論
様々な周波数で1.4mの新品のケーブルと1mの処理済みケーブルをテストしました。テストされたXLPEケーブルは、実験室で発生させることのできる交流電圧よりも高い電圧用に設計されており、処理済みのケーブルには実際に水トリーが発生している証拠はありませんでしたが、これらのテストではいくつかの問題が解決されました。
1.テストポイントを介して通電したケーブルの高周波測定が可能であることを実証しました。
2.研究室で通電ケーブルの高周波測定を安全に行い、電気的な故障はありませんでした。
3.現場使用のためのポータブルネットワークアナライザーとスペクトラムアナライザーを使用することで、2MHzから6GHzの範囲の高周波数でケーブル測定を行えることが示されました。
4.ネットワークアナライザーを用いた測定が、ケーブルエルボ内のテストポイントを介して行えました。
5.交流電圧の1/4サイクルでの様々なポイントで高周波の挙動を比較するために、交流励磁と高周波探査信号の同期表示ができました。
6.ケーブルのテストポイントを介した高周波探査から位相速度を推測する方法を発見しました。
7.水トリーを発生させるためにケーブルを人工的に劣化させるための技術を実験しました。
8.研究者らは、水トリーの有無にかかわらず高分子ケーブル絶縁体の比誘電率と電気伝導度の期待値を元に、解析的アプロ―チとLT Spiceを用いたシミュレーションアプローチを用いて、水トリー化したケーブルのモデル化を行った。
第4章 地中配電ケーブルの同心中性線を非接触で調べる方法
4.1 序論
研究者たちは、地中配電ケーブルの同心中性線の完全性を調べるための2つの方法を提案・調査しました。グーバウ波(表面誘導型高周波)探査法と磁気同心中性又は固体異方性磁気抵抗探査法です。どちらの方法も、通電されたケーブルに適用でき、ケーブルの通電を解除したり、グリッドからケーブルを切り離したりする必要はありません。
4.2 グーバウ波(表面誘導型高周波)探査法
4.2.1 序論
グーバウ波探査法は表面誘導型高周波の概念を用いて同心中性線の破断を探ります。表面誘導波は、もともとGeorge Goubauによって提案されたもので、グーバウ波と呼ばれています。グーバウ波は、円錐状の送信装置(漏斗)と同心中性線への非侵襲的な容量性結合を使用してケーブルに沿って流れ、試験が行われている間にケーブルは通電されたままであることを可能にします。グーバウ波はケーブルに沿って誘導され、同心中性線の不連続性、破損、腐食等の情報を特殊部に送信される信号を反射して減衰させます。
4.2.2 実験設定
グーバウ波の実験は3つのセットアップで実施しました。
(1)単線伝送線路(研究室内)
(2)高架下の配電ケーブル(研究室内)
(3)地上の配電ケーブル上に部分的に配置したもの(屋外)
全ての実験において高周波信号はAgilent E8251Aプログラマブル信号発生器を使用して生成し、Agilent 33220Aファンクションジェネレーターからのパルスで変調させました。4チャネル2GHzデジタルオシロスコープ(Agilent Infinium DSO80204B)を使用して、送信信号と受信信号の両方を登録しました。また、Agilent 8562ECスペクトラムアナライザーを使用して受信信号のパワーを記録しました。
設定1:30フィートの単線絶縁編込み銅線()を天井から1フィート下に吊り下げて、グーバウ波を遮らずに伝達できるようにした。このセットアップの写真は、送信と受信コーンと送信線を示し、左の図51に示されています。セットアップの概略図は、右に示されています。信号は両端で中央導体にガルバニック接続されています。
設定2:信号は10同心中性線のジャケット付きTR-XLPEケーブル(ICC Brand-MTT ,#2 Solid AI, 175 Mils TR-XLPE 15kV, Insulatinf PF Jacket)の90フィートのセクションで同心中性線に静電容量的に結合されました。ケーブルは、波と鉄筋コンクリートの床との相互作用を避けるために、高さ29インチのプラスチック製の10個のトラフィックコーン上に設置されました。送信ファンネルと受信ファンネルは外形11.5インチ、内径2インチの厚さ5ミリインチの軟銅箔で作られました。ファンネルは11.5インチの長さの同軸スリーブに取り付けられており、これはTEモードからTMモードへ移行を促すためのものでした。ケーブルは部屋の周りをループしていて、送信ファンネルと受信ファンネルは約6フィート離れていました。このセットアップの写真を図52に示します。
設定3:信号は10同心中性線のジャケット付きTR-XLPEケーブル(ICC Brand-MTT, #2 Solid AI,175 Mils TR-XLPE 15kV, Insulatating PF Jacket)の65フィートのセクションで同心中性線が静電容量に結合されました。ケーブルは29インチの高さのプラスチック製のトラフィックコーンに部分的に吊り下げられています。このセットアップの写真は図53に示します。(a)と(b)の写真には、異なる視点から見た2つの異なるテストセットアップが示されています。ケーブルの一部は、図53(c)に示すように、木片と緩い土で覆われた地面に置かれ、時には地中の11.5フィートもあるPVCダクトを通過しました。送信ファンネルと受信ファンネルは、設定2のものと同じでした。
4.2.3 実験結果
研究者たちはグーバウ波を起動して単一の絶縁ワイヤーに結合することに成功しました(設定1)。図54は、ケーブルを介して送信された信号の減衰を示しており、グーバウ波の良好な結合と一致する挙動を示しています。表4は、グーバウ波の理論的及び測定された現場の範囲を示しており、測定された結果と計算された結果の間に非常に良い対応を示しています。
研究者は、地中配電ケーブルの同心中性線上でのグーバウ波を送信してカップリングする能力を実証しました(設定2)。最適なキャリア周波数は、単線の場合よりも低くなっています。図55(左)は、14dBmの送信信号を使用したキャリア信号(同心中性線にガルバニック接続)の周波数掃引の減衰を示しており、最適キャリア周波数が約300MHzであることを示しています。図55(右)は、DSO80204Bオシロスコープの画面キャプチャで、200nsの矩形パルスで変調された300MHzの14dBm信号の送信(黄色)と受信(緑)を重ね合わせた時間領域解析を表示しています。送信信号と受信信号の間に約105nsの時間遅延が観測されていますが、これは86%の相対伝播速度に相当し、エネルギーの大部分がケーブルの周囲の空気中を伝播していることを示しています。
また、同心中性線とのガルバニック接続なしにグーバウ波を送信できることも実証しました。図56は、受信ファンネルと送信ファンネルの両方で同心中性線に容量性結合されたグーバウは信号のTDプロットを示しています。この信号は、キャパシタンス結合ケーブルを介して送信される80nsの矩形パルスで変調されています。約100ns遅れて送信されたパルス(1-緑)がはっきりと見えますが、パルスの受信時間の短さ(2-黄色)で示されるように、信号の一部は現在、放射線を介して送信されています。同軸ケーブルからの信号を運ぶ中心導体は、ケーブルジャケットにまかれた4.5インチ幅の銅スリーブで接続されています。容量性結合に関連して測定された損失は約1~2dBでした。
予想通り、同心中性線の欠陥上を通過すると、送信信号の特性が変化します。図57は、全ての同心中性線に5インチの断裂を作成する前(左)と後(右)の送信パルス(1)と放射パルス(2)をそれぞれ示しています。断裂は、受信ファンネルから約20フィートの位置で行われました。放射パルス(2)の振幅が増加し、送信パルス(1)の振幅が減少しているのがはっきりと見て取れます。これは、電力の一部が同心中性線の断裂で放射されていることを示しています。図58(左)と(右)は、全ての同心中性線を貫く5インチと60インチの断裂を通って100nsのグーバウ波を送信した様子を示している。ここでも、送信パルスのサイズの現象(1)と、放射パルスのサイズの増加(2)がはっきりと見て取れます。
両方の結果は、波がケーブルの故障領域を通過する際に部分的に減衰しただけであり、送信信号の特性を有意な相対的変化を示しています。これは、検出された絶対的な損傷の特徴とは対照的に、同心中性線の劣化のテスト(同心中性線が損傷しているので、信号の変化を見られる)を行っているにすぎません。
グーバウ波は単に同心中性線によって誘導され、ほとんどの場合ケーブルの周囲の空間を移動するので、地中ケーブルの周囲の土壌を通過するグーバウ波の能力を確立するために実験を実施しました(設定3)。簡単のため、ケーブルは単に地面に置かれ、波の半分だけが土を通過するようになっていました。
図59からも明らかなように、グーバウ波のケーブルを取り囲む土によって非常に強く減衰し、ケーブルの12フィート(長さの16%)が埋設されると、元の信号強度のほとんどを失っています。長さの16%では、信号を識別できず、24%では信号強度がノイズレベルよりも下に落ちます。
4.2.4 結論
地中配電ケーブルに沿ってグーバウ波を送信することに成功しましたが、この方法は以下の2つの理由から現場での実施は非現実的でした。
(1)絶対的な損傷特性の欠如。故障箇所を横切るグーバウ波の伝播において、相対的に小さな変化しか観測していません。これはこのタイプの同心中性線の故障発見に有用なグーバウ波の特徴を開発できなければ、従来のケーブルのテストにグーバウ波の使用が認められない可能性があります。
(2)地面を通過する際の減衰。グーバウ波は大部分がケーブルの外に沿って伝播するため、接地との相互作用で減衰が大きくなります。
そのため、地中配電ケーブルの診断法としてグーバウ波を用いることの実用性は大幅に低下します。さらなる研究で、損傷現場でのグーバウ波の同心中性線への結合から中心導体への結合への遷移を調査すべきでしょう。そのような研究は、信号の持続的変化を明らかにできるかもしれず、故障現場の明確な特徴として判別できます。
4.3 磁気同心中性線探査(固体異方性磁気抵抗探査)
4.3.1 序論
磁気同心中性線探査(固体異方性磁気抵抗探査)は、磁気センサーを用いて、ケーブルから発せられる磁場を探知することで、個々の同心中性線の電流を非接触に感知して電流の不均衡から古語の同心中性線の故障を推測します。
1つ又は複数の固体異方性磁気抵抗センサーを使用して、地中配電ケーブルの同心中性線内の位相不均衡による磁場と戻り電流を測定します。測定は、個々の同心中性線の電流を決定できるような場所で行います。今情報から同心中性線の断線などの欠陥を推測できます。図60は複数の固体異方性磁気抵抗センサーの構成を想定しています。
当初、図示されているように固体異方性磁気抵抗探査法の2つの実施形態を開発していました。最初の実施形態(a)では、センサーは、ケーブルを取り囲む静止したヴレスレットの様にに配置されています。二つ目の実験形態(b)では、1つまたは複数のセンサーがケーブルの周りを回転しながら移動し、それぞれの同心中性線の上を通過する際にスキャンを実行します。このアプローチは、センサーがケーブルの周りを円形に移動することを除いて、線形スキャンアプローチに類似しています。
4.3.2 センサーのプロトタイプ
4.3.2.1 固定式異方性磁気抵抗ブレスレット
研究者たちは、ケーブルの周りを締めてセンサーを固定させる固定具の設計、低電力無線リンクを介したセンサーのデータ取得をサポートする電子機器、センサーを格納するフレキシブルな回路基板からなるシステム全体のプロトタイプを開発しました。図62及び図63は、ホットスティック装置で操作すると、ケーブルを掴める固定具の設計を示しています。固定具は、閉じているときにホットスティック装置から取り外せるように設計されています。研究室内でのテストのために、固定具は3Dプリンターを使用して製作されました。
図64はセンサーシステムの展開をサポートするデータ収集システムのブロック図です。全ての固体異方性磁気抵抗センサーを含むフレキシブル回路基板を図65に示します。この試作品には12個のセンサーが搭載されています。内部は、一つのセンサーの拡大写真を示しています。この基板の試作品は、特定のケーブル径と同心中性線の分布に適合するように特定の固定具を決定して使用できるように、いくつかの固定具と遮断機を製造する必要があります。
4.3.2.2 回転式スキャンのアプローチ
回転式アプローチでは、1つ以上の固体異方性磁気抵抗センサーがケーブルの周りで回転されて、同心中性線から発せられる磁場をスキャンします。図66は、内部トラック(ⅰ)を含む留め金の試作品の設計が示されていて、これにより内部のローラーに支持された固定具(ⅱ)が前後に移動できるようになっています。固定具は、留め金(ⅲ)の接合部に配置された中央サーボアクチュエータを使用して作動するケーブルによって引っ張られています。2つ以上の固体異方性磁気抵抗センサーがローラーに支持された固定具に取り付けられており、留め金の半分がケーブルの円周の180°をスキャンでき、結果として留め金が完全に(360°)カバーすることになります。
電子機器のブロック図を図67に示します。単一のセンサーからデータを転送し、データ収集用のパソコンに戻すには、無線機1つで十分です。感度情報に加えて、回転装置の位置と、可動固定具を動かすアクチュエーターへの制御信号が送信されます。
4.3.4 モデリング
MATLABを用いてBiot-Savartの法則からモデリングを行い、地中ケーブルから発せられる複合電界を計算しました。磁場は、円周方向(ケーブルの外周)と半径方向(ケーブルの中心から半径が伸びる方向)、及びケーブルの軸に沿った方向で計算を行いました。図68は、ケーブルの表面に対する3つの磁力軸を示す図です。
4.3.3.1 固定式固体異方性磁気抵抗ブレスレット
固定式ブレスレットアプローチのモデル化は、配電ケーブル内の同心中性線の数がすでに判明している場合に限り、断線した同心中性線を検出できます。図69は欠陥のある同心中性線が1つある理想的なケースで10本の同心中性線を診断した時の固定式ブレスレットからのグラフの特徴を示しています。図70はブレスレットが同心中性線とずれているときのセンサーの3軸出力がシミュレートされています。故障した同心中性線の部位は、全てのケースで表示されています。高速フーリエ変換を用いた解析では、さらにノイズレベルが高くても故障を識別できます。ケーブル周辺の同心中性線の物理的分布の相対的なばらつきを分析した時にも、同様の結果が得られました。
4.3.2.2 回転式磁気固体異方性抵抗スキャンのアプローチ
図71は、破損した同心中性線がない場合に50Aの電流が通過した場合のシミュレーション結果です。古語の同心中性線に対応するピークが見られ、欠陥も容易に検出できます。図72は、破損した同心中性線が1つの場合(左)と4つ連続している場合(右)に50Aの電流が流れている場合の故障によるシミュレーションの結果です。欠陥による特性(赤い矢印)がはっきりと見えています。
図73は2つの連続した同心中性線の故障が示されていて、磁場の実効値を使用してシミュレーションを行っています。明らかに2つのピークが半径方向に見られます。
固体異方性磁気抵抗センサーは磁場の実効値を記録している為、電流の位相情報が失われていることに注意してください。
4.3.4 実験結果
4.3.4.1 固定式固体異方性磁気抵抗ブレスレット
図74と図75は、22Aが中心導体を通過し、5Aが同心中性線を通過する3フィートの区分で静的ブレスレットの試作品をテストした結果を示しています。最初の試作品では、いくつかセンサーが故障したため、7つのセンサーのみ表示しています。図は、磁場の円周方向と軸両方の両方で故障の兆候が見られることを示しています。中心導体の電流と同心中性線の電流は向きが互いに対抗している為、結果として生じる磁場の重なりにより、故障した同心中性線の電流がゼロの時に信号が増加します。センサーの位置ずれとセンサーケーブルの間の距離の両方に起因するばらつきが存在することを記しておきます。
4.3.5 センサーの試作品
4.3.5.1 固定式固体異方性磁気抵抗ブレスレット
ケーブルを締めてセンサーを設置する固定具の設計、低電力無線リンクを介したセンサーのデータ取得をサポートする電子機器、センサーを格納するフレキシブルな回路基板から構成されるシステム全体の試作品を開発しました。図62と図63は、ケーブルを掴むことのできるホットスティック装置を介して操作できる固定具の設計を示しました。固定具はホットスティックから取り外せるように設計されています。研究室内でのテストのためにこの治具は3Dプリンターを使用して製作されています。
固定式固体異方性磁気抵抗ブレスレットを使った手法は、可動部分を含まないという利点がありますが、電子機器を使用している為、大量のデータを受信機に送信しなければなりません。また図75で明らかなように、センサーとケーブルの表面の間のずれがノイズを増幅し、同心中性線からの信号に影響を与える可能性があります。ケーブルにうまく合うように微細加工されたブレスレットを使用すればこの問題を完全に回避できるかもしれません。したがって、研究は回転式スキャンの一本に絞られました。
4.3.5.2 回転式スキャンアプローチ
回転式スキャンアプローチは、地元の電力会社と共同で開発した台をつかってテストされました。図76はその設定を示しています。100フィートの地中配電ケーブルでテストを行いました。変流器を用いて最大50A(実効値)の電流を発生させ、同心中性線を通して電流を返しました。様々な分散負荷構成をモデル化して、100%、50%、及び10%の戻り電流のデータを記録しました。
手動で操作する試作品の治具を製作し、付属の電子機器と無線機を備えたセンサーを搭載しました。図77は、固定具の設計(左)と3Dプリンタで製作された固定具の写真(右)を示しています。固定具はケーブルを中心に手動で回転されました。保護ジャケット付きケーブルと保護ジャケットなしケーブルに合うように、別の固定具も製作しました。ジャケットなしのケーブルでは、全ての実験で再現性のある結果が結果が得られるように、同心中性線の位置をテープで制限しました。
4.3.5.2 回転式スキャン手法―保護ジャケット付きケーブルの場合
図78は実効値で約50Aの電流が中心導体に流れ、その電流の100%が同心中性線を通って戻ってくる完璧な保護付きジャケットケーブルの回転式固体異方性磁気抵抗スキャンからの信号を示しています。同心中性線の位置は、3つの時期軸からのデータを重ね合わせた黒の破線で示されています。
しかしデータはセンサー間で送信される前に実効値に変換されるため、位相情報が失われ追加のピークが見えるようになっています。実際には、同心中性線の戻り電流が中心導体を流れる電流とは逆方向であるため、センサーの測定値とは逆位相になっており、中心導体から発せられる磁場を効果的に減少させています。しかし、実効値がゼロを中心にしておらず、ケーブルの角度によって変化するように見えるオフセットがあります。これはすべての測定で用いられます。
図79と図80は、それぞれ50%と10%の戻り値を示したデータです。両方の図の左には、この構成のセットアップで供給可能な最大電流のデータが示されています。このような大電流は同心中性線から発せられる打ち消し効果がない場合、固体異方性磁気抵抗センサーの円周軸成分を飽和させてしまうので、視覚的な応答が得られなくなります。軸方向及び半径方向の磁場は、中心導体に流れる電流の影響を受けません。50%の戻り電流の実験(図79)では、同心中性線に実効値で20Aの戻り電流に対応して軸方向の磁場で応答が見られます。中心導体の電流が約20Aまで低下すると、信号がまだ飽和に近い状態であるにもかかわらず、円周方向の磁場にピークが現れます。10%の戻り電流実験(図80)では、同心中性線の2Aの戻り電流に対応する磁場の信号はあまりにも弱く、目に見える特性が現れませんでした。
1つの同心中性線(左)と4つの連続した同心中性線(右)の破損特性は、断層の位置から19インチ(上)と約95フィート(下)の距離で記録されています。赤い矢印と破線は断裂した同心中性線を示しています。このケースでは、戻り電流が100%の中心導体で行われました。
図82は図81に似ていますが、中心導体に流れる電流は実効値で約20Aで、同心中性線の戻り電流は50%のものです。欠陥特性はまだはっきりと見えています。
図83は、10%の戻り電流を示す場合を表しています。中心導体に20Aの電流では、欠陥を示すデータが見つかりませんでした。信号はシステムのノイズ以下に減ってしまっています。
これらのデータは、ジャケットケーブルの故障を検出するための技術の有効性を確認できたと思われます。同心中性線に流れる電流の検出加減は、データに基づいて、1つの同心中性線当たり実効値で約0.5Aであると思われます。この限界は、近接した微細加工されたセンサーの設計と、同心中性線から発せられる磁束を強化するために磁性材料を使用したセンサーの設計によってさらに改善可能でしょう。
4.3.5.3 回転式スキャン手法―保護ジャケットなしケーブル
問題のある地中ケーブルのほとんどは保護ジャケットがないケーブルなので、この診断技術はジャケットなしケーブルでテストされました。図84~図86は、100%、50%、10%の戻り電流について、それぞれ損傷していない保護ジャケットなしケーブルに展開されたセンサーからのベースラインプロットを示しています。50%以下の電流が同心中性線を通って戻っていくる場合、回転式のセンサーは約3ガウス、すなわち約30Aの電流が中心導体に流れると飽和されるため、図85と図86には20A以下の電流での結果が含まれています。同心中性線の位置は3つの磁気軸のデータを黒の破線で示しています。
明らかに、同心中性線の位置の不規則性は、半導電層の周りの動きに起因して、固体異方性磁気抵抗センサーの読み取りにばらつきを生じさせます。しかし、欠陥特性はまだ観察できます。図87は断線が1つの同心中性線(左)と4つ連続の同心中性線(右)の特性を示しています。赤い線と矢印は断裂した同心中性線を示しています。
同心中性線の分布にばらつきがあるため、単一の断裂を検出するのは難しいですが、断裂から19インチの位置では、4つの同心中性線の断裂の明確な特性を検出できました。しかし、その場所のベースラインからの結果と比較して、断裂点から遠い場所(約95フィート)では、目に見える特性は明らかではなくなってしまいます(図88)。これは、同心中性線が接触することが許可されているので、電流は接触点で健全な同心中性線から断裂したものに伝達されることを示しています。しかし、これは実験的な設定によるものである可能性が高いです。なぜならテスト台ではケーブルはコイル状になっていて、同心中性線が触れられるからです。
コイル状のケーブル内の同心中性線に触れると、遠方での結果の妥当性は否定されます。図89と図90では、断裂した同心中性線が1本(各図の左)と4本連続している場合(右)について、近距離で撮影した50%と10%の戻り電流に対する断裂特性をそれぞれ示しています。
50%の戻り電流(図89)では、故障箇所が4つ連続した同心中性線に拡大されると特性が発生しますが、保護ジャケットなしケーブルにおける分布のばらつきは、故障した同心中性線を識別できなくしています。10%の戻り電流の場合、弱い特性が観察できるかもしれませんが、信号値自体が微弱になります。
4.3.6 結論
実験結果は固体異方性磁気抵抗探査法が同心中性線の劣化を接触なしに検出する手法で有効であることが示唆されました。実験室の設定では、全ての同心中性線の分布電流が10A以上である保護ジャケット付きケーブルの欠陥を検出できました。これは、このセットアップでは50%の戻り電流に対応しています。テスト台では、研究者は、保護ジャケット付きケーブルの故障箇所からケーブルの全長(約95フィート)までの劣化を検出できます。
保護ジャケットなしケーブルでは、同心中性線が互いに接触している場合、故障現場から遠く離れた同心中性線の故障を検出する能力が低下します。しかし、スペースの制約からケーブルのかなりの部分がコイル状に巻かれていたため、これはセットアップによる帰結ではないかと考えられています。同心中性線が腐食すると、絶縁性の腐食層が形成され、同心中性線の接触が減少し、それによって接触していても電流が流れる能力が低下するはずです。さらに、ケーブルはダクト内で引き延ばされている為、実際に接触している同心中性線の数は少なくなります。また、100%戻り電流があるケースではそのような特性が明確に観察されましたが、保護ジャケットなしケーブル上の同心中性線の分布が異なるため、故障部位の特性を検出するのが難しくなっています。
最後に、磁気センサーの円周方向軸を飽和させる中心導体電流の影響が強いことも問題です。初期の結果から、磁気同心中性線探査法が地中配電ケーブルを探査する上で有効であると考えられています。しかしケーブルに密着させたセンサーを製作し、中心導体からの磁場を分散させながら、同心中性線からの磁場をセンサーに向ける集束器を含むセンサーを製作すれば、感度が大幅に向上し、中心導体からの磁場によるセンサーへの影響を軽減し、最終的にはこの手法で保護ジャケットの有無にかかわらずケーブルを診断できるようになると思われます。また、固定式ブレスレットのアプローチの利点をさらに追及すべきだと考えています。具体的には、記録用パソコンに尊信する必要のある30チャンネル(3軸、10本の同心中性線と仮定)を適切に多重化し、それを前処理できるような電子機器を開発する必要があります。
第5章 結論の考察
5.1 要約
現在、様々な技術や試験を用いて地中ケーブルを評価できますが、診断結果と実際の劣化の間にはほとんど相関関係がありません。本プロジェクトでは、地中ケーブルの故障問題を評価し、故障した地中ケーブルを診断するための非接触技術を研究しました。
地中配電ケーブルの絶縁のためのいくつかの故障メカニズムを調査しました。ポリエチレン内での水トリーの形成に関するZellerのモデルを修正、ボイドのような欠陥の周りに周期的な誘電泳動力が発生することが、水トリーの形成のメカニズムであることを発見しました。また、ポリエチレンに電荷を注入することで、ポリエチレンの破壊と水トリーの形成の促進についての関係性も発見されています。以上のことから水トリーの形成メカニズムは複雑であり、いくつかの機械的・化学的要因の影響を大きく受けていると結論付けられます。これらの現象の解明に向けて、更なる研究が必要です。
診断方法では地中配電ケーブルの非接触診断について4つの方法を調べました。最初の2つの方法である交互嵌合型誘電率測定法(ID法)と表面誘導型高周波(Goubau Wave)探査法は、将来的敵に再検討するメリットがあると考えていますが、現在のところ実用的ではありませんでした。残り2つの技術である高周波テストポイント注入法と磁気同心中性線探査法は、非接触診断技術として将来的に大きなメリットがあります。
通電した配電ケーブルを介して高周波信号をカップリングして送信できることが示されました。良い結果が得られなかった原因として、試験に適した水トリーが衛星されたケーブルがなかったためだと考えられています。適切なケーブルが見つかったらこの方法の調査を継続する必要があります。
磁気同心中性線(固体異方性磁気抵抗)探査は、実験的に故障箇所から遠く離れた場所(少なくとも95フィート)でも故障の特性を識別できました。同心中性線の電流に起因する磁場に対する感度を向上させ、中心導体電流に起因する磁場の影響を低下させるために、さらなる研究が必要です。微細に加工されたセンサーと磁束集中装置は、この目標を達成するのに役立つはずです。さらに磁気同心中性線探査法は、同心中性線の位置を検出する方法と組み合わせて、磁場の欠如が破損に起因するものなのか、あるいは単にその位置に同心中性線がないことに起因するものなのかを判断する必要があります。これは。同心中性線の位置が非常に可変的である保護ジャケットなしケーブルにおいて特に重要です。
最終的に高周波テストポイント注入探査法と磁気同心中性線探査法の両方の技術を、地中配電ケーブの健全性を非接触診断するための包括的な方法として一緒に使用することを想定しています。図91は、このような複合ケーブル診断法を使えるケーブルの概略図を示しています。このデータは、カスタマイズされたFieldFoxネットワークアナライザーに表示されることを想定しています(画像提供:Agilent Technologies Inc)。
5.2 奨励
高周波テストポイント注入探査法と磁気同心中性線探査法の両方は、地中配電ケーブルの非接触診断技術としてのメリットがありました。この2つの手法を現場で使用できるシステムに近づけるために、両手法のさらなる研究を奨励しています。
高周波テストポイント注入探査法は、水トリーが含まれていることが確認されているケーブルで評価する必要があります。この技術の故障特性のベースラインを確立するには、保護ジャケットがついているものと、そうでないものの両方を評価し、水トリーのないケーブルと比較する必要があります。これは長期にわたり資産管理及び交換プログラムを持つ公益事業者と協力して行う必要があります。
磁気同心中性線探査法は、地中ケーブルの同心中性線の欠陥を検出できます。将来的には、同心中性線からの磁束を増加させ、中心導体からの磁束を低下させる、微細に加工されたセンサーや集束器を開発する必要があります。この技術が、個々のセンサーの位置を検出するセンサーと組み合わせることで、広い範囲の同心中性線の戻り電流や不平衡電流の条件で同心中性線の故障を検出できるようになると思われます。さらに、これらのセンサーの微細加工は、Paprotny他(2010)に記載されているような交流電源のエネルギーハーベスティング技術と組み合わせることで、地中配電資産の性能を継続的に監視でき、センサーの事故電源による無線操作を可能にします。
5.3 刊行物
この研究に関連した、あるいはこの研究から生じた論文(第7章「参考文献」)には以下のものがあります。
Gonzalez, Paprotny, White and Wright (2011)
Paprotny, Seidel, Nora, Morris, White and Wright (2012)
Paprotny, White and Krishnan (2010)
Paprotny, White and Wright (2010)
Seidel, Paprotny, White and Krishnan (2010)
Zhou and Boggs (2011)
用語集
AC | Alternating current |
AIEE | American Institute of Electrical Engineers (precursor to IEEE) |
AMR | Amorphous magneto-resistive |
ASTM | American Society for Testing and Materials |
CAD | Computer-aided design |
CC | Central conductor |
CN | Concentric neutral |
DC | Direct current |
eV | Electron Volt (unit of energy) |
FE | Finite element |
GW | Goubau wave |
HDPE | High-density polyethylene |
Hz | Hertz (measure of frequency) |
ID | Interdigitated dielectrometry |
IEEE | Institute of Electrical and Electronics Engineers |
J | Joule (unit of energy) |
kV | Kilo Volt |
L | Liter |
LDPE | Low-density polyethylene |
Pa | Pascal (unit of energy) |
PG&E | Pacific Gas & Electric Co. |
PIER | Public Interest Energy Research |
PE | Polyethylene |
PVC | Polyvinyl chloride |
RF | Radio frequency |
RD&D | Research, development, and demonstration |
rms | Root mean square |
S | Siemens (unit of conductivity) |
SDG&E | San Diego gas & electric Co. |
TD | Time domain |
TR-XLPE | Tree-retardant cross-linked polyethylene |
U/G | Underground |
XLPE | Cross-linked polyethylene |
参考文献
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元の論文
Paprotny, I., Wright, P. K., White, R. M., Evans, J., Devine, T. (University of California,
Berkeley). 2011. Fault Analysis in Underground Cables. California Energy Commission.
Publication number: CEC‐500‐2013‐094.