はじめに

無電柱化のメリットとして「防災性」の向上が謳われています。私どもも様々な検証を行いながら、架空線と地中線を比較すると、風雨災害については地中線に強みがあることが分かってきました。

しかし地震に関して両者を詳しく比較された資料を得ることはできませんでした。したがって今回の記事ではこれらをいくつかの論文を元にして、検証していきたいと思います。

まず、一般的な無電柱化の地震に対するメリットとデメリットとして以下が挙げられています。

メリット デメリット
電柱の倒壊による道路閉塞が発生しない 電力の復旧に時間がかかる
地中線の被災率が架空線より低い 液状化に弱い

これらの挙げられた点について、個人的にかなり疑問に感じる点があります。筆者が感じた疑問は次の通り。

1 地中線の復旧に時間がかかると言われているが、どの程度違うのか。
2 地震後、地中線にどのような被害があったのだろうか。
3 液状化に弱いとされているが、具体的に何がどの程度弱いのだろうか。
4 「地中線の方が低い被災率を示す」とあるが、そもそも敷設延長が全く違うので、件数だけ比較しても意味がないのではないか。

ここで4に関しては下のページで詳しく解説しています。結果だけ言えば架空線の地震による事故率が5倍程度高くなりました。

電柱がいかに事故を起こしやすいか

この記事では1~3の疑問について解決していきたいと思います。

1.地中線の復旧に時間がかかると言われているが、どの程度違うのか。

まずは1番目の疑問を考えていきましょう。無電柱化のデメリットとして、

「自然災害の際に、もし地中線が断線したとしても目視での確認ができない為、復旧にかなりの時間を要する。」

というものがよく言われています。確かに素人が聞いても納得してしまうような理由です。しかし実際に要する時間について具体的にまとめられているものを見たことがありません。

では実際に電力の復旧にどのくらい時間がかかったのでしょうか。二つの巨大地震について調べていきます。

まずはモーメントマグニチュード9.0(Mw)の東日本大震災について、停電の復旧にどの程度の時間がかかったのでしょうか。

平成25年3月に東京電力によって発表された「東北地方太平洋沖地震に伴う電気設備の停電復旧記録」の資料の図によれば関東管区の停電について以下の通りとなりました。

引用元:東京電力(株)(2013)「東北地方太平洋沖地震に伴う電気設備の停電復旧記録」

この記録を見ると東京電力管内ではおよそ77時間後には供給支障が解消され、170時間後には停電から完全に復旧しています。

しかしこの資料には架空設備と地中設備で復旧時間にどのような違いがあったか、具体的な違いは記載されていませんでした。

次に舞台をニュージーランドに移して調べていきます。2011年2月22日に発生したクライストチャーチ地震はモーメントマグニチュード6.1(Mw)、185人の死者を出し、多数のライフラインが寸断しました。

ニュージーランド南島の中心都市クライストチャーチ市のすぐ近くが震源

資料によれば、中低圧配電網の復旧にはその日には約50%、2日後には75%、10日以内に90%、2週間後には98%の電力を復旧しました[2]。つまり336時間後にはほぼ停電復旧したといってよいでしょう。

このケーブルは断面積が300㎟の三相アルミニウムケーブルで、離隔300㎜・深さ750㎜・厚さ50㎜の共同溝に敷設されていたにもかかわらず、クライストチャーチ市では66kV用の地中ケーブル網の総延長60㎞の半分にあたる30㎞ものケーブルが地震によって損傷したとされています。また11kV用の地中ケーブル網の総延長2,300㎞のうち14%の330㎞が損傷しました。これによって市の送配電に大きな影響を及ぼしました。

両者を単純に比較はできませんが、関東全体が復旧するよりも2倍近く復旧に時間がかかっているというのは地中線と架空線の割合に原因があるのかもしれません。

またニュージーランドでは地中中圧配電網に大きなダメージを負ったと報告されていましたが、関東では地震によって地中送電設備が送電不能に至るケースはなかったと報告されています[1,2]。このあたりが、復旧の時間の差を大きく分けた要因の一つと考えられます。

つまり、「地中設備の方が架空設備よりも災害復旧に時間がかかる」というのは事実のようです。しかし詳細な内容が明らかにされていない為作業手順等も比較して調査する必要があるでしょう。

2.地震後、地中線にどのような被害があったのだろうか。

次に大地震の後、どのような被害が起こったのかを見ていきましょう。まずは東日本大震災の地中線配電設備の被害状況は以下の通り。

設備名 設備数 被害様相の影響度 被害率
供給支障につながるもの 供給支障につながらないもの
人孔・手孔 928箇所 0箇所 191箇所 21.0%
管路 916径間 0径間 74径間 8.1%
ケーブル 4,117本 2本 60本 1.5%
地上機器 1,708台 0台 36台 2.1%

ケーブルの供給支障については、管路接続部のずれによる絶縁体の損傷が原因でした。

次に架空配電設備の被害状況は以下の通り。

設備 被害様相の影響度 被害率 <参考>
兵庫県南部地震における被害率
支持物
5,818,237基
津波による流出等
8基
0.0001%
倒壊
4基
傾斜・沈下
ひび割れ
14,276基
0.2% 0.5%
焼損
0基
電線
6,416,762径間
断線
36径間
混線
102径間
0.002% 0.3%
焼損
0径間
変圧器
2,147,289台
ブッシング破損
6台
傾斜
509台
0.02% 0.3%
焼損
0台

被害率を比較すると架空配電設備の方が地震に強いように思えます。

ただし、支持物(=電柱)の傾斜・沈下・ひび割れ等による道路閉塞の影響は議論されていません。したがって一概に架空配電線の方が地震に強いというわけではありません。

またニュージーランドについては、先ほども述べた通り66kVの地中配電線の50%にダメージを受けました。一方で33kV/11kV/400Vの架空配電線には軽微な損傷に留まりました。なお具体的な損害の数については明らかにされていません。

3.液状化に弱いとされているが、具体的に何がどの程度弱いのだろうか。

最後に大きな地震時の液状化と配電網の損害について調べていきます。東日本大震災の際の関東管区における架空・地中配電設備の被害状況は次の表のとおりとなっています。

被害様相の影響度 区分 設備 設備数 被害数 被害率
供給支障につながるもの 架空 電線(径間) 16,732 2 0.01%
地中 ケーブル(本) 4,117 2 0.05%
供給支障につながらないもの 架空 支持物(基) 17,273 1,707 9.9%
地中 MH,管路(基,径間) 1,844 265 14.4%

供給支障につながる被害は両者ともほぼ同程度、供給支障につながらないものは地中配電設備の方が被害が大きかったと言えます。

また、供給支障につながらない被害の具体的な例として、次のようになりました。

設備数 被害様相の知名度 被害率
倒壊 傾斜・沈下
支持物
17,273基
0基 1,707基 9.9%

この結果から見れば、東日本大震災において電柱は道路閉塞の原因となっていないようです。記録によれば「兵庫県南部地震では、液状化による地盤反力の低下により支持物の不等沈下が多く発生した。その対策として地盤条件に応じた根枷の採用など基盤強化の検討を行うことが推奨されている」としています。

液状化による被害の例は下の通りとなっています。

引用元:東京電力(株)(2013)「東北地方太平洋沖地震に伴う電気設備の停電復旧記録」

次に地中配電設備について、次のようになっています。

地中ケーブル 設備数 供給支障数 被害率
東北地方太平洋沖地震(東京電力) 4,117本 2本 0.05%
兵庫県南部地震 16,950本 196本 1.16%

阪神淡路大震災の時よりも被害が少なかった原因として記録では次のように述べています。

「当社(=東京電力)では、昭和55年ごろから軽量かつ可撓性のある自在割り鋼管や硬質塩化ビニル管を標準的に採用しており、液状化による不等沈下に対して有効であったと考えられる。」

なお架空設備と地中設備の被害率の差についての考察は行われていませんでした。被害の例は下の通りとなっています。

引用元:東京電力(株)(2013)「東北地方太平洋沖地震に伴う電気設備の停電復旧記録」

今度は、クライストチャーチ地震についてのそれぞれの被害状況を見ていきましょう。先にも触れましたが、この地震では地中配電設備に大きなダメージを受け、架空配電設備は比較的軽微な損傷で済みました。

資料では、架空配電設備の被害について「33kV,11kV,400Vの架空送電線は、絶縁体のひび割れや液状化の影響を受けた電柱などの損傷が比較的軽微で済んだ。」とされています[2]。

一方で11kV用地中ケーブル網について、総延長2,300㎞のうち、14%の330㎞が損傷を受けたと報告しています。また地震後6か月で合計1,000件以上の故障が確認・修理されました。被害を受けた11kVケーブルはそれぞれ芯の材質、長さ、直径など様々で、ケーブルの性質と被害の受けやすさに関係がないことを示唆しています。

資料によれば、「地震のデータも鑑みて、ケーブルの材質や直径、地形や液状化の程度、地盤の過渡的な変形など外的要因がケーブルの損傷率に影響を与える可能性がある。」としています[2]。

以下に表と図で液状化の規模と11kVケーブルが損傷した割合を示します。

地盤損傷カテゴリー
(Cubrinovski and Taylor, 2011)
11kVケーブルが損傷した割合
中~大規模な液状化(図中の茶色部) 86%
小~中規模な液状化 8%
地盤への損傷が少ない 6%

液状化が深刻な場所とケーブルの故障箇所が重なっている。
引用元:2.Sonia Giovinazzi et al.(2011)”Lifelines performance and management following the 22 february 2011 Christchurch earthquake, New Zealand : highlights of resilience “Bulletin of the New Zealand Society for Earthquake Engineering, 44(4), 402-417.

4.考察とまとめ

今回は地震による液状化と電力設備にどのような関係はあるのかを調べました。二つの資料を踏まえた今回のまとめは以下の通りです。

1.架空配電網よりも地中配電網の復旧の方が時間がかかっている。
2.架空設備よりも地中設備の方が液状化に対する被害率が数%高かった。
3.液状化の度合いによって、地中設備の被害が大きく異なる。

概ね従来の通説通りの結果となりました。しかしながら、架空設備と地中設備の比較についてはもう少し詳しく検討した方がよいようにも感じました。またほかの大きな地震についての被害状況も情報を収集することでより精度の高い分析になっていくのではないかと思います。

また、電柱には道路閉塞という一面が存在するということも考慮に入れなければなりません。両地震では傾斜や沈下等で済んでいましたが、熊本地震などでは電柱の折損が一部見られたようです。こういったことも評価に入れながらリスクを勘定していく必要があります。

参考文献

1.東京電力(株)(2013)「東北地方太平洋沖地震に伴う電気設備の停電復旧記録」

2.Sonia Giovinazzi et al.(2011)”Lifelines performance and management following the 22 february 2011 Christchurch earthquake, New Zealand : highlights of resilience “Bulletin of the New Zealand Society for Earthquake Engineering44(4), 402-417.