両手を広げれば左右の店の壁に触れるほど狭い通り、京都・先斗町。

これほどの狭い通りでの無電柱化事業は全国初となっています。

この初めての事業に関して、どのような意気込み、苦難、そして工夫があったのかということを、行政、小型ボックスのメーカー、先斗町まちづくり協ふぃかいの方々にそれぞれインタビューを行いました。

 

京都市道路環境整備課 課長補佐 板谷正人さん

1.京都市が無電柱化事業に取り組みことになったきっかけは何ですか。

(京都市では)無電柱化の取り組みは、昭和61年頃から始まっています。もともとは、電線関係会社による、円高利益還元のための取り組みがきっかけだったと聞いています。

2.無電柱化事業の目的はどのようなものですか。

まず、第一の目的は「防災」で、緊急輸送道路、避難路などの整備を行っています。次の目的は景観ですが、景観のために整備を行い始めたのは平成13年ごろからで、最近のことです。特に東山・清水のあたりは、主な道路を中心に面的な整備が進んでいますね。

↑先に整備された花見小路通(東山区)美しい路地と、電線のないきれいな青空が見えます

3.先斗町は道路が狭かったり、電力の供給量が大きかったりと、施工が難しい場所ですが、なぜ、先斗町での無電柱化事業を決定したのですか。

『京都市屋外広告物等に関する条例』により、違反広告が撤廃されたことから、先斗町では電柱が目立つようになり、地域の方々から無電柱化の要望が増えました。先斗町は「界わい景観整備地区」に指定されていたので、市としても景観をより良くしたいという方針がありました。このように、地元の熱心な姿勢と、市の方針が一致したので、先斗町での事業を行うことになりました。

(※界わい景観整備地区・・・地域色豊かな景観がまとまって形成されていて、その景観を守り、再生する必要があると、京都市の市街地景観整備条例に基づき認定されている地域のこと)

4.先斗町の無電柱化事業を進めるにあたって、行政の立場から、どのような困難がありましたか。

無電柱化するためには地上機器(トランス)を設置しなければなりません。公共用地だけでは場所が足りないので、地上機器を民有地に設置するための交渉を行いましたが、それに苦労しました。物理的に不可能だったり、地主さんが承諾しても、商売の関係上、店子さんが渋ったり・・・・。市役所、電力会社、地元の方とで調整を重ねたのですが、交渉に10か月ほどかかりました。初めての試みですし、話がなかなか進まないので、プレッシャーも感じました。しかし、地元の協議会の方が積極的に交渉に参加してくださったので、落ち着いて話し合うことができました。行政と地元との話し合いはヒートアップしてしまう場合が少なくないので、地元の協力姿勢はとてもありがたかったです。

5.先斗町の無電柱化事業の進捗状況はどうなっていますか。

電線共同溝を作る作業は、先斗町公園から北半分では終了しており、この夏から南半分を一年弱ほどで進めていく予定です。その後、電柱を引き抜く工事へと移っていきます。来年度に工事完了を目指していますが、ちょっと厳しい状態です。道路が狭いので人力ですか工事できませんし、小型ボックスを設置する場所を柔軟に変更することが難しく、問題があれば一つ一つ交渉しなければならないので、時間がかかってしまいます。

6.無電柱化はコストがかかってしまうのが課題だとよく言われますが、今後、どのように低コスト手法を確立していく予定ですか。

先斗町では、道の狭さから小型ボックスを導入しましたが、本来は低コストの観点から作られたものなどで、ほかの場所でも利用できないか検討しています。浅層埋設、管材の見直しなどコストカットの工夫は、今後も一律で用いていくつもりです。

<板谷さんを取材して>

先斗町は狭すぎて重機が入り込めないため、深夜に人力で工事を行っています。なので最近の夜中の暑さが心配だ、とおっしゃられていました。今後の事業は先斗町での経験を活かしながら、より低コスト・よりスムーズに進むことが期待できます。

 

株式会社イトーヨーギョー 井上了介さん

1.小型ボックスを開発されるようになったきっかけは何ですか。

(無電柱化のために電線を埋設するにあたって、すでに埋設されている水道管やガス管との兼ね合いが難しいという状況を受け)将来的に見て、「水路の下の空きスペースを利用した製品であれば、無電柱化に役立つのでは?」と考え、小型ボックス(D.D.BOX)を開発しました。先斗町の事業に際して、水路部分にを省いた小型ボックス(S.D.BOX)を改めて開発しました。

D.D.BOX

2.小型ボックスを開発する際に、何に苦労されましたか。

行政や道路を管理する立場の方は、できるだけ小さいものをと要望されましたが、一方で、電線管理会社などはメンテナンスの関係からできるだけ大きいものをと要望されました。その間で調整をして、バランスをとるのに苦労しました。

すべての要求にこたえることは難しいので、どう取捨選択するか、その選択は正しかったのか、と考えることはいつまでも苦労する課題ですね。それぞれの要求をただ聞くだけでなく、質問や意見を交わして、本当に重要なところをあぶりだす作業が肝心です。

3.小型ボックスを採用することで、実際、どれくらいコストが下がるのですか。

一般の環境では、直接の工事費だけで3割ほど低下します。そのほか、浅層埋設などの工夫を重ねることで、全体として3~4割コストカットをすることができます。

4.先斗町では、人力工事であることから、専用の小型ボックスを作られてそうですが、どのような工夫を行ったのですか。

まず、持ち運びがしやすいように、通常なら1~2m単位で作るところを50㎝単位で作ったり、コンクリートの厚さを強度が保てる限界まで薄くして、軽量化したりしました。

また、先斗町では道が狭く、ケーブルを引き出してみてもすぐに家の壁とぶつかってしたりして、作業が困難なので、その負担を減らせるように工夫しました。具体的には「引き出し接手部材」を設置し、ボックスの中のケーブルを簡易に引き出せるようにしたり、「貫通インサート」と言って、本来なら外側にしか開けない穴を内側からを開けて、どちら側からでも接続ができるように工夫しました、さらに、現場では、状況に応じて小型ボックスを切断し、再接続をする作業をしなければならないのですが、製品にレールをつけることで、再接続がスムーズに進むようにしました。

5.先斗町で実際に小型ボックスを使用してみて、発見した課題はありましたか。

電線のメンテナンスのために点検口を開発したのですが、点検口の蓋が側溝を塞いでしまうという課題を発見しました。なので、できるだけ蓋を小さくできるように開発を進めました。また、電線の入れ替えや新しく期間を引く際に、どのように作業を行うのかというのも課題の一つでした。小型ボックスの蓋一つ一つ開けて作業するのではなく、点検口を開けるだけで作業ができるように、セパレーターという板を導入して、その上に電線を這わせました。このように、先斗町で発見した課題は、ほとんど解決まで至っています。他は実際に加工してみて、電力会社や通信会社と一緒にやってみないとわからないことが多いな、と感じました。

6.今後、小型ボックスはどのような場所で需要があると想定されていますか

歩道のない、幅員6~8m程度の生活道路や観光地です。歩道があるところでは、歩道の下に余裕がありますから、小型ボックスに限らず、浅層埋設などいろいろなやり方があると思います。ただ、例えば、一部だけ小型ボックスを使用し、他は通常のやり方で行うなど、使い分けて施工することはあるかもしれませんね。

<井上さんを取材して>

先斗町での施工で開発したアイデアは、これからの無電柱化工事にも継続して応用してゆけるものだと感じました。小型ボックスを導入することで、直接工事費だけでも3割程度低下するそうなので、コストを課題とする無電柱化事業には欠かせないものとなっていきます。

 

先斗町まちづくり協議会 副会長 神戸啓さん

 

1.無電柱化事業が決定するまで、どのような努力をなされましたか。

そもそも先斗町では「まちづくり」という意識がほとんどなく、町がぐちゃぐちゃになってしまっている状態でした。先斗町まちづくり協議会が立ち上がったのも2009年からです。無電柱化事業など、大きなことをするには、長い計画と時間が必要になってきます。当協議会が、京都市の「地域景観づくり協議会制度」に認定してもらったのが2012年の6月でした。同6月中に「界わい景観整備地区」への指定変更を求める要望書を提出しました。それで、2013年には、無電柱化も含めた、一体整備を求める要望書を提出したんです。普通の町なら、数年から数十年かけて一つの大きな課題を解決するところを、先斗町では一年に一つの大きな課題を解決してきたんですね。

2.まちづくりがそれほどスムーズに進んだ理由は何ですか。

字を書いていた、からですね。街づくりとは、字を書くこと、だと思っています。集まって文句を言いあうだけじゃ何も変わらない。資料を作って、申請書を書いて、話し合いをしたとしても、同じようなことばかり話すことになる。字を書いて、残して、確実に進めていくんです。あと、京都にはスーパー事務局長と呼ばれるような、すごい方々がたくさんいます。そういう成功例から学んで、やり方を盗んで、いろいろやってみています。

3.無電柱化事業にかける思いはどのようなものですか。

「無電柱化なんて、できなくてもいい」と思っています。どうしてもやりたい、と頭を下げたこともありません。当協議会では、「やりたいことは、やらない」と決めているんです。誰かの「やりたいこと」って、個人の利益になることじゃないですか。誰かの利益が絡む話はなかなか進まないし、だんだんおかしくなっていく。だから、「やりたい」という人が勝手にやればいいんです。協議会は「誰もがやりたがらないこと」をする。大変だからホントはやりたくないんだけど、やるしかないことをします。無電柱化事業は、やりたくないんだけど、「(地域のために)絶対にやらなくちゃいけないこと」だから、僕らは取り組んでいます。意図的に「やりたい」と思わないようにしていますね。

↑先斗町の通りの清掃を無償でする神戸さん

4.無電柱化事業を進めようとしている、ほかの地域の方に伝えたいことはありますか。

無電柱化事業は絶対にしたほうがいいです。ただ、どういう方針でやっていくのか、ということはきちんと考えたほうがいいですね。例えば、防災目的なら、避難路や消火器の整備はできているかを確認したり、観光目的なら、観光客が訪れやすいような安いバスを用意するなどの工夫をしたりと、無電柱化以外の面のことも考えるべきです。じゃないと、せっかくの無電柱化が活きなくなりますから。

あとは、ぜひ、先斗町を参考にしてみてください。ぐちゃぐちゃだった先斗町でもまちづくりできたなら、先斗町のようにぐちゃぐちゃになってしまったほかの地域でも街づくりはできる、と思って、モデルになることを目指してやってきました。ここでまちづくりができたんですから、どこでもできます。困っている田舎の町や地域が、先斗町をサンプルにしてくれると嬉しいです。

<神戸さんを取材して>

「誰もやりたくないことをする」モチベーションは何ですか、と尋ねたところ、「ヒマだからね」とあっさり。今は無電柱化に関する講演を行う片手間、よく絡まった電線の写真を撮っているそうで、「(無電柱化した際に)電柱写真展とかできたら面白いでしょ」と話してくださいました。

 

まとめ

お三方とも、無電柱化に対し、熱い思いを持っているというより、取り組まねばならない当たり前の課題、として捉えてらっしゃったことが非常に印象的でした。条件の厳しい先斗町で無電柱化事業が達成されれば、無電柱化事業に取り組もうとしているほかの地域の大きな支えになると思います。

先斗町の無電柱化が完了しましたら、ぜひ足を運んで、情緒ある通りから電線のない青空を見上げてみてください。

 

記事について

この記事は最新号の会報誌「美空」112号から引用したものです。ほかにも無電柱化に関する情報が毎月たくさん掲載されていますので、興味を持った方がおられましたら、ぜひ下の会員申し込みフォームからご応募して下さい。なお美空は正会員でも賛助会員でもご覧になれますのでお気軽にお問い合わせください。

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