無電柱化推進成立記念シンポジウム
~無電柱化法で何が変わり何をなすべきか~
◆日時:2017年8月7日(月)14:30~17:00
◆場所:パレット市民劇場 パレットくもじ 9階
◆コーディネーター:髙田 昇
パネリスト:松原 隆一郎、仲宗根 斉、古謝 景春、井上 利一
◆主催:NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク
後援:内閣府沖縄総合事務局 沖縄県市長会 沖縄県町村会 沖縄県建設業協会
沖縄県舗装業協会 琉球タイムス 沖縄建設新聞 一般財団法人日本みち研究所
一般社団法人無電柱化民間プロジェクト実行委員会 無電柱化を推進する市区町村の会
1.あいさつ
髙田昇 NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク 理事長
沖縄は思い入れのある土地で、40年間に100回以上訪れている。少子高齢化が進み、日本が閉塞状態となって中、沖縄という地に日本の希望を見出している。そのため、今回主催のシンポジウムをさせていただけることを非常に喜ばしく感じ、誇りとしている。
私たちは長年電線・電柱を見慣れているので、あって当たり前という感情があるが、アジアの多くの都市や先進国のほとんどの街では電線・電柱が空を覆うことはない。観光の面で日本をリードし、また台風などの自然災害で電柱被害を受けやすい沖縄を、ぜひ電柱の無い地域にしていただきたい。
昨年12月に「無電柱化推進法」が成立した。しかし、法律を作ったからといって、世の中から電柱がなくなるわけではない。これを機に、多くの方々に無電柱化推進について、今まで以上に関心に持っていただき、私たちと手を取り合って、一日でも速く今の日本の状態を内側から直していただきたい。
國場幸之助 衆議院議員
無電柱化事業は、沖縄向けの内容であると考えている。台風を始めとして自然災害が多い地域であるし、また、観光地をより美しい景観とするためにも無電柱化の推進は必要と考えている。無電柱化を推進する一つの大きな必要性は通学路の安全であり、バリアフリーを実現する歩道を確保することにある。電柱は歩道に建っており、車道には建っていない。残念なことだが、日本は先進諸国の中で、車道と通行者の交通事故の割合が極めて高いという統計もある。そのため、子供たちの安全やこれからの超高齢化の中で、無電柱化の推進は非常に必要性の高いものとなっている。ただし、法律ができても国民や県民の意思が変わらなければ無電柱化の推進をすることはできない。沖縄が全国で最も無電柱化推進に熱心な地域になる最初の一歩として、シンポジウムが成功しますよう、急遽参加させていただいた。
2.無電柱化推進法案の概要とこれから
菊地春海 沖縄総合事務局 次長
シンポジウム三番目の開催地であるということは、無電柱化が沖縄にとってたいへん必要であるということを意味している。電線は日本人にとっては当たり前のものである。しかし外国を訪れると、ふと電線がない光景だと気づかされ、電線が地上にある日本はとても不思議だと感じる。無電柱化が色々な都市で進む中、日本はまだまだ進んでいないのが現状である。平成24年時点で日本の電柱は桜と同じように立ち、その数3,552万本。さらに、毎年7万本ずつ増え続けている状況であった。
無電柱化の整備は、全国で最も東京が進んでいるが、それでも5%程度。沖縄は頑張っている方で、全国で9番目であるが、依然2%未満となっている。現在、無電柱化の整備方法の9割は電線共同溝方式で行われている。それらは、国、県、市の公共土木関係者と、電線管理者と、国からの補助金で概ね3分の1ずつ費用負担している。このような中、無電柱化の第一の課題は、コストが高いことである。続いて、電力会社との調整が非常に難しいこと、地上機器の置き場所の確保が挙げられる。
無電柱化の目的は大きく分けて三つ。石垣島では夏の台風被害で電気が来なくなり、クーラーや冷蔵庫が動かなくなるという事態が発生。そうした中、無電柱化は防災面の向上という目的を備えている。また、バリアフリーや小学生の通行の安全を守るという観点から、安全性・快適性という目的もある。さらに、沖縄の観光客は毎年10%ずつ増えており、2030年には現在の2倍になると想定されている。安全性の向上に留まらず、良好な景観形成という目的もある。
低コスト化に向けた無電柱化の取り組みとしては、浅く埋める、小型BOX活用、直接埋設といった手法が展開され始めている。今までよりも浅く埋められるようになったことで、コストを抑えることに繋がっている。
幅員が著しく狭い道路や緊急輸送道路など、無電柱化が特に必要とされる場所についての電柱の占用を禁止する動きもある。それに伴い、国は直轄国道の緊急輸送道路において電柱の新設を禁止する措置を開始している。
3.パネルディスカッション
テーマ:無電柱化法で何が変わり何をなすべきか
髙田:自己紹介お願いします。
松原:2000年よりちょっと前くらいから、電柱の数が気になっており、自分で勉強をして『失われた景観』という本を執筆した。その後、小池百合子先生から「政策課題にしたい」との電話をいただいた。法律は長い年月を経てようやく成立した。その直前、小池先生が衆議院議員になった頃に『無電柱革命』という本を執筆した。
古謝:南城市長をしている。電線の配線が末端の場所に住んでおり、台風の時に3日間停電ということも経験してきた。たくさんの観光客が来る中で、どうにかして電柱が景観を損なわないことを目指したい。沖縄の資産を残していくような取組みをしていこうと考えている。
仲宗根:無電柱化については道路管理者、地元のニーズもしっかり踏まえて、整備路線を応援してきた。今後とも関係者の皆様とも協力し合いながら、着実に進めていきたい。これまで以上に整備を伸ばしていくには、関係者と推進していく必要もある。道路管理者、衛生管理者、地域の皆様、この三者のご協力が必要である。
井上:NPOでは、低コストの技術開発、啓発活動、広報活動などに取り組んでいる。会員数は10年で124社となり、色々な企業の優れた技術を活用したいと考えている。行政の方に呼んでもらって、職員向けの無電柱化勉強会を行ったり、小学校や大学で無電柱化出前授業をしたりしている。無電柱化を少しでも進められたらいいと考えている。
髙田:「無電柱化」と法制化の意義についてお願いします。
松原:無電柱化について以前は自治体や電力会社から厳しい言葉をもらったが、最近は電力会社も前向きになった。一度法案ができると、次は自治体がどう決断をするのかという話になる。法案は文章にすぎないので、どういう風に中身を入れていくのかも重要である。
無電柱化の課題について、全国自治体でとったアンケートがある。これによると、コストが高い、電線管理者との調整が困難などの課題が挙がった。コストが高いというのは強い課題となっている。また、現在の無電柱化体制に伴う思い込みを「電線病」と呼んでいる。これまでは電線共同溝方式を中心に行ってきたが、これは幅員の広い道でしか使えない技術であり、その上、非常に高いコストがかかる。こうした体制を改善し、電線病の治癒を目指しているところである。
阪神淡路大震災では9割の電柱が倒れた。全ての電柱が自分で倒れるわけではなく、1本が倒れることにより、太い電線が影響して次々と電柱が倒れていく。電柱が倒れていると、火が出ても、消防車は通ることができない。震災後1週間ほど経つと復興プロセスに入るが、倒れている電柱の横に、新たな電柱を建てることになる。これは仮の通電となるはずだが、すぐに取っ払うこともできず、その後の復興プロセスの足手まといにもなる。
これまで暮らし上のアメニティについてはあまり考えられてこなかったが、法案全体の目的として防災、安全、景観について謳われた。こういった要素を妨げてきた電柱の存在は、社会にマイナスの影響を与える「外部不経済」として位置づけられるように変わった。これまでは電柱占用料の算定基準にも防災という考え方が入っていなかった。
事業者の位置づけも変更し、自発的に無電柱化を進めていただくという考えになった。自発的にするのであれば支援するという考えになり、事業者が無電柱化をリードするという状況になった。
技術開発の面では、新技術のうち、国が設ける認証を得たものが用いられる。道路幅、土地柄によって様々な技術の組み合わせが行われている。新たな技術を用いた例として巣鴨の調査がある。地面の下まで一気にスキャンをして、3Dで可視化することのできる技術を用いて、地下の状況がわかるというものである。
法律の制定は、自治体(道路管理者)に占用禁止・制限の権限を与えている。新規では電柱を建てない等、いかに禁止事項制限事項を設けるかを考えている。今後はすでに建っているものをどのように対処していくのかが問題となっていく。
最後に、これからどんどん推進法の具体的な内容が提示されていくことになる。問題となるのは、ここを掘られるのは困ると住民のかたに言われてしまうこと。なんとか無電柱化に向けて少しの期間ご協力いただきたい。
髙田:各分野でのとりくみの現状、課題についてお願いします
古謝:国道331号をどうにか無電柱化したいと考えた。これまでに何度か電柱が倒れた場所であり、昨年も倒れた。電線の末端では、その復旧に3日かかることもあった。早めの復旧が求められる中、無電柱化推進に関する法ができたことを大変うれしく感じている。
無電柱化すると、歩きながらも電柱がなく、時間が止まったような空間を創出できる。沖縄県民で災害を防ぎ、そして停電が起きないように、意識を共有することが課題ではないかと考えている。
仲宗根:無電柱化をすると、電気設備を地下に埋めるので、電線ケーブルは地中ケーブルになる。現在は、県内で約200kmについて無電柱化が決定しており、その半分については無電柱化の整備が完了している。
無電柱化の具体的な事例をいくつか紹介する。
那覇市国際通りでは、整備延長3.2kmについて、16年かけて無電柱化の整備が行われた。竹富島は小規模離島であり、歩道のない道路で無電柱化が行われた。こうした無電柱化の整備は沿道の皆様のご協力がなければ不可能であったと考えている。
コスト低減の一つの策として夜間に実施している工事を昼間に行うというものがあるが、地域の皆様に負担をかけることが想定される。ご理解とご協力をお願いしたい。道路管理者、地域の皆さん、電線管理者が相互に関わっていき、さらなる無電柱化の整備費用の低コスト化に向けた取り組みやコストの低減に努めていきたいと考えている。
井上:屋久島の住民の方から無電柱化して欲しいという要請を
受けた。実際に無電柱化が可能なのか等を踏まえて検討してきた。屋久島では、台風で停電が続くということや、電線に木が引っかかって切れるということを聞いた。そうしたことを踏まえ、防災・減災、観光振興、インフラ整備の観点からアプローチを行うことを提言した。無電柱化実現に向けてのアクションとしては、①無電柱化推進協議会の設置、②屋久島無電柱化条例・無電柱化推進計画、③国・鹿児島県との連携、を提案した。また、低コストの手法はまだまだ広まっていないが、屋久島は低コストの手法が使えるところであることにも着目した。
コスト削減の考え方として、浅層埋設、低規格化、省スペースがある。掘削用トレンチャーの導入や、車通りの少ない場所には、安価な樹脂製の小型BOXを使う、といったコスト削減方法も考えている。
こうした道路の無電柱化低コスト手法導入については、なかなか知られていないのが現状。その原因は様々であり、例えば、情報がまだまだ周知されていない、担当者
に経験がない、地中化はまだ必要ないといったことがある。こうした人たちに低コスト手法をもっと広めていこうと考えている。
無電柱化が進まない問題点として昼間工事がほとんどできないことにもある。その原因の一つが渋滞であり、渋滞するとすぐに警察に苦情の電話がかかってくるというもの。また、夜の工事は、夜でうるさいという電話が役所にかかってくるそうである。そういう意味で市民の理解が必要だと感じている。
髙田:沖縄での無電柱化に向けて何を変えるべきか一言ずつお願いします
井上:沖縄の人は電柱が倒れてもいつか復旧すると辛抱強く耐えている。日本は電柱が多い ため、ドクターヘリが街中に降りられず、救急体制の面でも非常に弱い。住民の皆様にぜひ無電柱化の協力を願う。
仲宗根:電柱を減らしていこうという意識の高まりを感じている。今回の無電柱化法の施行をきっかけとして国民の意識が変化して、地域の皆様が積極的に無電柱化に協力してくだされば、そのことが無電柱化の整備距離を伸ばしてくれると考える。今後は地域の皆様が積極的に関わることで決めていく必要があると感じた。
古謝:費用がかかるので、計画的に進めていくことが大切だと考える。県民の理解を得て、災害に強い沖縄にしていこうと考える。観光収入が増えていくことも踏まえてトータル的に考えていこうと思う。
松原:竹富島に行ったことがあり、先ほど見た写真でも心に癒されるものがあった。広い空が見えるように、ぜひ観光客のためにも無電柱化を進めて欲しい。各自治体が電柱の新設を禁止し、既設電柱を無くしていき、占用をどう禁止していくのかがポイントとなってくる。台風が来る度に電柱が倒れている。そういうことも踏まえて、無電柱化を進めていただいて全国をリードしてほしい。
髙田:無電柱化を進めることは、ある意味住民の生活を守るというところに原点があるといえるのではないか。無電柱化を進めるには、地域の人と実際に話し合い、協力できる状況を作ることにあると思う。
電柱を新しく建てないというのは案外大事なことである。年間1万本を抜いているが、多少の努力をしても増え続けている。市町村が建ててはいけないところを明示することも重要である。すでに条例を作るところも出てきている。それぞれの市町村で条例を作り、こういう理由で電柱を立てないのだと決めていくことが必要となってくる。民間で電柱を建てることもあるが、みんなでやめようということにすれば、徐々に建てることは無くなるのではないだろうか。
竹富島の話を聞いて思ったのは、まずは無電柱化ができるところから行うということ。それぞれの市町村で本当にやるべきところはどういうところなのかということ。そうしたことは地域の自治体が一番知っていることであり、上からではなく下からの方策として、ぜひ優先順位を明確にして無電柱化を進めていって欲しい。