1 月 24 日(木)に無電柱化を推進する市区町村長の会主催の勉強会が鎌倉市役所で開催されました。
▶当日のプログラム◀
14:00 勉強会 開始
14:00 会長あいさつ 佐久市長
14:05 副会長あいさつ 鎌倉市長
14:10 講演
①国土交通省 環境安全・防災課
②資源エネルギー庁 電力基盤整備課
③送配電網協議会
④大庭哲治 京都大学 准教授
16:30 技術紹介等
① NTT インフラネット
② ジオ・サーチ
17:00 勉強会 終了
今回は、上の講演の中の大庭哲治先生(当 NPO 顧問・京都大学准教授)講演の内容をご紹介させていただきます。
※大庭先生も含めた他の講演の内容は、記事の最後にユーチューブ動画(限定公開)でご紹介させていただきます。
無電柱化事業に関する数字を示します。
これは、何を示しているでしょうか?
1,500~3,000
では、こうしたらどうでしょう?
1,500年~3,000年
実は、
このままのペースでいった場合の
無電柱化の完了年数の試算
を示しています。
日本の道路総延長※:約 120 万 km
※道路法に定められた高速自動車国道,一般国道,都道府県道,市町村道
平均整備延長:約 400km/年(2017 年までの平均整備延長)
無電柱化完了年数:3,000 年
平均整備延長:約 800km/年(2018 年からの平均整備延長)
無電柱化完了年数:1,500 年
出典:松原隆一郎(2020)無電柱化推進のために, 都市問題,111(3), 2020 年 3 月号, pp.93-102.
無電柱化の費用負担と整備率(京都市)
京都市の 2018 年時点での整備費は,7~9 億円/km
進捗率2%,単純計算で未整備区間の電柱解消まで300 年
▶無電柱化整備の推進に向けた課題
電柱が減らない背景には4つの理由があります。
・1番目はコスト
電気事業連合会によると通常の電力方式の施設費用は1キロ当たり約 1500 万円。一方、地中化する電線共同溝方式だと 1 億 6000 万円程度かかるので、10 倍もかさむ。管路を現行よりも浅い位置に埋設し、ケーブルを収めるボックスを小型化するなど費用を下げる工夫が要る。
・2番目は自治体が消極的な点
国交省の調査によると、過去5年間に無電柱化事業に取り組んだ自治体は全体の2割にとどまった。その理由としては「予算がない」「他に優先すべき事業がある」という回答が目立った。条例をつくって無電柱化を進める東京都などを除くと本気度に欠ける。
・3番目は電柱を民間の所有地に設置する場合が多い点
年間の増加分7万本のうち、5万本は私道も含んだ民地に設けられている。道路(公道)ならば、利用を認める占用許可の権限を国や自治体が持っているが、私道では状況を把握することすら難しい。
・4番目は国の縦割りである。
国交省が旗を振っても、電力会社が所管するのは経済産業省、通信会社は総務省だ。新計画の策定では両省も協力を求めており、記者会見でも公言している。 (日本経済新聞オンラインを参考)
※自治体の関係者は、およそ3年で異動する場合が多く、継続性が削がれるケースもある。
▶無電柱化整備の推進に向けて
※第 7 期無電柱化推進計画の内容を参照
• 新設電柱の抑制
• コスト縮減(低コスト化)
→ 新技術・工法の開発・普及
• 事業のスピードアップ化
→ 発注の工夫、官民連携、合意形成
→ 地下埋設物の 3 次元データベース化
• 財政的措置
• 関係主体間の連携強化
→ 関係省庁、道路管理者、電線管理者、地方公共団体及び地元関係者との連携
• 広報・啓発活動
↑ 効果の定量化と科学的エビデンスが必要
~無電柱化の効果については、防災面をはじめとする様々な効果を定量的に算出するなど、実例の収集・分析等を進め、理解を広げるとともに、国民に向けて無電柱化のコストや工事への理解・協力を促進するよう努める。~ |
▶無電柱化整備の目的・効果
•防災、強靭化の向上
•安全・円滑な交通確保
•景観形成、観光振興
•電力・情報通信ネットワークの信頼性向上
•資産価値向上、地域活性化
▶無電柱化の推進に関する法律(平成 28 年法律第 112 号)
第一章総則
(目的)
第一条 この法律は、災害の防止、安全かつ円滑な交通の確保、良好な景観の形成等を図るため、無電柱化(電線を地下に埋設することその他の方法により、電柱(鉄道及び軌道の電柱を除く。以下同じ。)又は電線(電柱によって支持されるものに限る。第十三条を除き、以下同じ。)の道路上における設置を抑制し、及び道路上の電柱又は電線を撤去することをいう。以下同じ。)の推進に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにし、並びに無電柱化の推進に関する計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、無電柱化の推進に関する施策を総合的、計画的かつ迅速に推進し、もって公共の福祉の確保並びに国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
▶防災、強靭化からみた電線・電柱
〇令和6年 1 月 1 日 16 時 10 分に発生した能登半島地震
・電柱傾斜 約 1150 本
・電柱折損 約 300 本
・断線・混線 約 800 カ所
・最大停電戸数 約 4 万 500 戸
発生時点。北陸電力調査による。
▷なかなか進まない停電復旧
1/16 付の『日本経済新聞』電子版によると、発生から 2 週間たつが全停電戸数の 2 割でまだ電気が使えず、東日本大震災時より復旧が遅れている。山間部が多く、道路の寸断が作業を阻んでいる。1 日の地震発生後、北陸電力の管内では最大約 4万 500 戸が停電した。だが、復旧が遅く、15 日昼時点でも同約 8300 戸の電気が使えない。
〇平成30年9月4日に発生した台風 21 号
・延べ 約 220 万軒が停電
・延べ 1,300 本以上の電柱が折損等するなど、広範囲にわたって 甚大な被害が発生関西電力調査報告より
〇令和元年 9 月 7 日~9日に関東方面を通過した台風 15 号の影響により、東京電力管内で、計1,996 本の電柱が折損・倒壊・傾斜等の被害を受けた(被害の多くは、台風の進路の東側の山林部に集中)。停電は最大で 934,900 戸(9/9 7:50時点)に及んだ。
経済産業省調査報告などより
↑上図に関しては、具体的な根拠がないので、できたらその裏付けが欲しい。
↑上図に関して、阪神・淡路大震災時の神戸地区ケーブル被災状況(国交省資料)をみると、架空線の被災率 2.4%、被災延長 100km、地中線の被災率0.03%、被災延長 0.7km という距離の格差を考えると、100%信憑性があるとは言い難い。
▶当 NPO で発表した資料より『美空』第 146 号より
◆大庭哲治先生
(京都大学大学院 経営管理研究部 准教授)
・国土交通省が掲げている無電柱化の目的は、防災、交通・安全の確保、景観向上の三つをあげているが、無電柱化/電線類地中化を対象にした、科学的検証が乏しい。
そもそも行政の実績データ自体が未整備(不十分,不完全)。無電柱化が体系化されていない。無電柱化に関する論文も実質 10 件程度で、研究者がいないのが現状だ。
データ整備と科学的エビデンスの創出に挑戦!
1.無電柱化実績データの整備
京都市電線類地中化実績データ(1986 年度~2017年度)を紹介
京都市と連携して,昭和 61 年度(1986 年度)~平成30 (2018 )年 3 月末時点までの電線類地中化実績(直轄国道を除く)に関するデータを収集・整理。
⇒地理情報としての実績データの可視化
• 第 4 期~第 6 期五箇年計画では,完了から抜柱までに,最大で 11 年を要する路線がある。
• 各宅地への引込管の地中化工事や架空線及び電柱の撤去に加えて,地上機器の設置スペースを確保できない区間での,民有地への設置に,合意形成も含めて,長い期間を要している。
2.着手・完了・抜柱時点を考慮した無電柱化事業が周辺地価に及ぼす因果的影響
NPO・HP のブログから
家の周りの電柱が無くなると地価が上がる?
https://nponpc.net/2019/09/09/%e5%ae%b6%e3%81%ae%e5%91%a8%e3%82%8a%e3%81%ae%e9%9b%bb%e6%9f%b1%e3%81%8c%e7%84%a1%e3%81%8f%e3%81%aa%e3%82%8b%e3%81%a8%e5%9c%b0%e4%be%a1%e3%81%8c%e4%b8%8a%e3%81%8c%e3%82%8b%ef%bc%9f/
3.令和元年台風 15 号による電柱損壊と無電柱化に対する受容意識への影響
• 2019 年9月9日の未明から昼にかけて,関東地方を通過
• 千葉市をはじめ,19 地点で観測史上1位の最大瞬間風速を記録
• 強風等による人的被害や建物等の被害,鉄道の運休や航空・船舶の欠航,広域の停電などの交通障害やライフラインへの影響,土砂災害,浸水害などが発生
無電柱化事業に対する受容意識
• 迅速性と廉価性に優れる Web アンケート調査の実施(被災から半年経過した3月4日〜8日の5日間)
• 目的は,令和元年台風15号による電柱倒壊・損傷の被害状況と無電柱化に対する受容意識への影響の把握
20 歳以上 80 歳未満。回収サンプル数 2,500(11 地域による割付)
レジリエンス強化に向けて
・データ駆動アプローチによる進捗と効果の可視化・定量化
⇒進捗と効果の明確化は、無電柱化事業の優先順位付けをはじめ,効率的・効果的な意思決定に貢献する
・住民への情報提供の向上
⇒明確化されたデータは、住民向けの広報・啓発活動において、説得力のある強力なツールとなる
・継続的なコミュニケーションによる理解促進
⇒住民が事前に無電柱化の恩恵を理解していることが重要である
⇒継続的なコミュニケーションは、非平時でも住民の安心感が増し、地域全体の復興力や結束力が一層強化される
▶大庭先生の講演を視聴して◀
無電柱化により直接的には「防災性の向上効果」「道路空間の安全性・快適性の向上効果」、「景観の向上効果」と言った利点がある。しかしそれを科学的に証明するだけのエビデンスが少ない。その為、無電柱化の良さが多くの人に伝わらず、電柱が無くなるどころか電柱は年々増え続けている。結果、地震や津波などの自然災害が発生した後に「無電柱化しとけば」と後悔するする人が大勢いる。
そのような人たちを助ける意味でも、今私たちが取り組まなければいけないのは、無電柱化することで今までに発生したプラスデータを分析し、利点を明らかにすることで科学的エビデンスを確実に持つことだ。そして明確になった利点を住民に継続的に喚起することが必要である。口だけの言葉ではなく、しっかりした科学的根拠も持ち合わせることで初めて私たちは住民を納得させることができるだろう。 (同志社大1回生 菅 剛宏)
令和6年、1月1日に発生した能登半島地震を受け、私は改めて「災害に強い街づくり」を深く考えるようになった。なぜならば、多くの電柱が傾いたり、折れたりすることで迅速な災害救助活動の妨げの要因の一つになっている様子をテレビで何度も観たためである。
日本の無電柱化は、第一期計画(S61~H2)から、整備延長を進めているが、国際的に見ると、未だその割合は著しく低い。この現状を受け、私たちは今後、どのようなことに焦点を当てていく必要があるのか。大庭哲治先生は今回の講演を通し、一先駆者として私たちに無電柱化に対する今後の展望を、綿密なガイドラインと共に示してくれた。
私は、大庭先生が仰っていた、実績データを3次元化し、利活用していくことに強く共感した。先日の大学の講義で、デジタルアーカイブについて学習する機会があり、データの利活用の高い重要性を感じたためである。3次元のデータを利活用することは、2次元のデータと比べ、分かりやすく、様々な視点から可視化することができる。そのため、老若男女問わず多くの人々が無電柱化について、今よりも認知度が高まっていくのではないかと思う。(津田塾大1 年生 大竹菜々香)
講演会を聞いていて大庭先生の話のポイントは二つあったように感じました。
一つ目として、「無電柱化の効果や進捗などを定量化、可視化して一般の人に無電柱化の効果を具体的に数値で説明出来るようにすることが重要である」という話。その説明として、当NPO のHPなどで無電柱化のメリットを紹介している内容について解説いただきました。例えば、『阪神・淡路大震災時の架空線と地中線の被災率の表』で、地中線の被災率が著しく低いので無電柱化の効果が大きいと考えられるという解説について、架空線と比べて地中線の延長距離が極めて短く、その検証ができればより明確な効果が得られること。また『台風や地震、落雷などの防災面でどちらがよいかのヒアリング調査の表』において、架空線より無電柱化のほうがメリットが多い(〇が多い)と示しているが、これもまた、それを証明する根拠が欲しい。また『無電柱化をすることで交通事故リスクの軽減や歩行者の快適性などの効果が見込めるという説明』にしても、どれくらいの効果があるかを定量化してデータ化すると無電柱化の効果が明らかになるとの話でした。
二つ目は、定量化・可視化した調査の具体的な例をご紹介いただきました。その例として、令和元年に発生した台風15 号の調査をあげていただいた。平時だけで無く、災害後に住民意識アンケートを実施することによって、災害に遭われた人が実際に感じた意見を聞き取ることができ、防災意識の変化を読み取り、その効果を検証することができる。また別の例としては、京都市内の無電柱化された土地の地価の推移を着手時・施工時・抜柱後に分けて調査した報告で、実際に京都市のデータでは条件によっては、最終的に約21.9%の資産価値向上があったと話されていました。
私はこの話を聞いて具体的なデータ化、数値化をすることで話の説得性や分かり易さが増すと感じたので自身のアンケートの集計や企画にもこれを生かして無電柱化に興味・関心を持ってくれるものにしないといけないと感じました。 (大阪経済大3 回生 伊地知 勇太)
非常に興味深い内容であった。無電柱化が本当に有効的な手段なのかという根本的な問いを調査されていて面白かった。防災面において感覚的に無電柱化が良いとするのではなく、実際にデータを集めて本当にそれが良いものなのかどうかを検証していくのが大事だと改めて感じた。データが不十分なところはまだまだ検証が必要だとおっしゃっていて、根拠のないことは言わないというところも好感を持って聴くことができた。特に「令和元年の台風15 号による電柱損壊と無電柱化に対する受容意識への影響」の話が面白かった。千葉県全域で行われたウェブ調査をもとに市民のリアルな声を知ることができた。調査結果から再発防止には無電柱化が最も有効な手段であるという考えを持つ人が多く、実際に東京電力管内で1,996 本の電柱が折損・倒壊・傾斜等の被害が出ていたのに対し、地中線の被害は地上機器1 台であった。そういったこともあり、被災後は被災前に比べて無電柱化設備推進の必要性を感じる人が2割ほど増えており、本当に無電柱化は必要なことなのだろうと改めて感じた。また、無電柱化に関して、8割程度の人々が無電柱化を認知しており、全体の4割以上の人がよく知っていると回答されていた。意外に認知度が高いなと感じた。
(立命館大1回生 武田 翔真)
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勉強会の動画の主要部分を6 つのパートに分けて編集し、YouTube に限定公開(リンクを知っている者のみ視聴可能)しています。
1 国土交通省 https://youtu.be/4EEC7EepzHs
2 資源エネルギー庁 https://youtu.be/IsMyNMG3U10
3 東京電力 https://youtu.be/vBy-pOpvOT8
4 中部電力 https://youtu.be/vBy-pOpvOT8
5 電力会社への質疑応答 https://youtu.be/1Oobfln6gt8
6 京都大学 大庭先生 https://youtu.be/I5NKcKBK5BQ