浦和美園 E-フォレスト2021の街づくり
街景観プランナー 髙山 登

本事業は㈱中央住宅ほか2社による共同事業。スマートシティさいたまモデルの実証街区と環境省の「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業」にも採択された。全国的にも例をみない最先端のスマートハウス・タウンといえる。

■街づくりの特徴
優れた街並み景観を形成する最大の特徴として2点が上げられる。一つは敷地拠出型コモンといわれる歩行者専用空間(以下通路)の出現である。
二点目はその通路内に電線類を地中化して柵のないオープン外構と合わせ、開放的で美しい景観を創出したことである。
■拠出型コモンの創出
コモンとは街区の背割り線に沿って、地役権を設定して前後の宅地が2mずつ提供され幅4mの共用の通路を確保したもの。つまり個人所有地でありながら利用は共用する通路の確保である。
1.背割り線に確保された通路
当該計画地のように通路を4m位確保して、同様に植栽もされ公園化された例としては千葉ニュータウンで20年位前に既に実施された例がある。しかし、本プロジェクトとは決定的な違いがある。各住戸への玄関口へは公道からとなり、背割り線上に通路が確保されただけのものであった。
本プロジェクトの通路の最大の特徴は、玄関口へは総ての住戸が通路からとなっている。つまり、車と人のアクセスを分離したのである。このような設計手法は全国的にも初めてではないかと思う。各戸の玄関口が向き合い、人との出会いやコミュニケーションが必然的に生まれる空間となったのである。
2.地役権を設定した戸建て分譲住宅
なぜ本事業では歩車分離ができたのか。中央住宅は既に地役権を設定して土地は専有であるが利用は共用とし、小規模なものでは4戸位から、緑ゆたかな景観を形成したプロジェクトを数多く実践している。そしてその成果をさらにグレードアップして、本事業に取り組まれたものと思われる。
■電線類は通路に埋設され、無電柱化
民地内の通路に埋設された電線類は驚いたことに、配管・配線は電気事業者が管理するという。各戸はその取り出しからと区分された。しかもその通路は豊富な植栽やベンチなどで公園化されているではないか。管理上の理由で一切の工作物や植栽は禁止されるのが一般的であろう。通路の管理は、入居者全戸が加入する維持管理協定をもって自主管理とのこと。このケースは全国的にも初めてではないだろうか。

コミュニティを育む石畳の通路 保存樹木、ベンチ、菜園などで公園化された通路(フットパス)。
電線類は地中化された美しい景観を創出(筆者撮影)

■無電柱化の低コスト手法への足掛かり
車の通らない民地内通路の地中化ということで、工事費は、一般的な工事よりも三分の一位が低減されたという。この実績は低コストで地中化する手法の一つとして、今後無電柱化された街づくりの有力な手法として、大いに期待される。ただし電力事業者と開発事業者間で、特に管理上問題にならないように協定の締結など十分な協議が必要であろう。更に街づくりのソフトとハード、ともに優れた街づくりが前提となるのではないか。
■竣工後の評価
本プロジェクトは、戸建て分譲事業として全国トップクラスのスマートホーム・コミュニティと思われる。また、事業者と埼玉県やさいたま市と官民連携して実施された。竣工後、対外的にも大変話題になり高く評価されている。2021年度のまちなみコンクール(財:住宅生産振興財団)では、まちなみ賞を受賞。また、2022年8月には大野元裕埼玉県知事が、同年9月には環境省とともにアメリカ環境保護庁(EPA)長官のマイケルリーガン氏も視察されている。

街区説明図     全体で3街区あり、地役権設定で背割り線に幅4mの通路を確保。
各戸の玄関はこの通路から(中央住宅の資料より)

無電柱化住宅見学会開催
東京支部 理事 北村 良
10月19日、秋晴れの空のもと、無電柱化住宅見学会が開催されました。
見学地は埼玉スタジアムの近く、埼玉県さいたま市美園区の浦和美園E-フォレスト。ポラスグループ中央住宅、高砂建設、アキュラホーム、ループ、さいたま市によって共同開発された住宅地です。スマートシティさいたまモデルの実証街区としての「地域活性化総合特区事業」、また環境省「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業」に採択された事業で、2016年から2021年にかけて、1期から3期迄3事業地、全129棟が開発されました。
民地を活用した電線・通信線の地中化、高断熱・高気密仕様、再生可能エネルギーの導入、相互に地役権を設定した敷地拠出型コモンスペース等々、先進的な街づくりの取り組みを通じて脱炭素を実現するロールモデルとなることを目指して開発されました。こうした取り組みが高く評価され、第18回住まいのまちなみコンクールで、「住まいのまちなみ賞」を受賞されています。
現地では、株式会社中央住宅戸建分譲設計本部の野村壮一郎部長にお話を伺いました。
(その一部を以下に紹介します)
■特徴的なフットパス(歩道
各戸の境界から2m分を分筆し、地役権を設定して幅員4mのフットパスが設置されています。玄関は公道ではなくすべてフットパス側に設置されているので、住んでいる方はすべて、ここを通ることになります。お子さんが玄関を出てもいきなり車道には出ない、といった安全上のメリットもあります。また、フットパスには植栽やベンチが配置されているので、四季折々の季節を感じたり、住んでいる人同士の触れ合いが生まれる、といったメリットもあります。一方、災害時には多方向に逃げることができるというレジリエンスがあります。

■フットパスに地下配線でコストダウン
このフットパスに、電線とNTT線、ケーブルテレビ線が埋設されています。メリットとして、耐久性を公道ほど高く取らなくてよいので、コストダウンにつながりました。また、通常は各戸ごとに宅桝を作るのですが、ここは地役権を設定しているので、2戸ごとに1桝に減らすことができました。更に、地上機器も公道上のものよりコストが抑えられています。これらによって、おおむね公道下での施工時の2/3位のコストで設置することができました。無電柱化の設計・施工は東電タウンプランニング様が担当しました。
■高いお客様の評価
空が広く見えると、大変好評をいただいています。(無電柱化の)設計は大変で、苦労も多かったですが、その分良い街が出来、皆様にも好評をいただいて、やってよかったと思います。販売も好調で、高めの価格設定だったにもかかわらず、即日完売の状況でした。 (以上、野村部長のお話:抜粋)
■見学を終わって
魅力的な住宅地は、無電柱化が必ず前提条件となる、と感じさせてくれる好事例を見学させていただきました。ありがとうございました。
見学会のあと、会議室に移動して森山顧問と井上事務局長の講演を行いました。

前川理事(東京支部)に、視察会の動画編集をしていただきました。
現地見学の映像はとても良い内容で、30分に編集しましたので皆さんに広くご覧いただきたいです。
やはり民間と電線事業者より行政の強い意向が無電柱化をドライブする一番の力だという内容です。

映像 YouTube限定公開
https://youtu.be/EV0DRQTD0z4