皆さん、実は無電柱化と防災は切っても切り離せない関係にあります。一般的に「電柱をなくしたら地震に弱くなるんじゃ?」とか「浸水したら電気が使えなくなるじゃないか!」と考えられています。しかし実は全く逆で、電柱がなくなれば台風時に停電することも、地震が起きた時に電気が使えなくなることもぐっと減らすことができます。「無電柱化とは?」のページでも少し触れましたが、ここではより詳しく電柱と災害との関係を説明していきます。
台風と電柱
台風による実際の被害
2018年9月4日に襲来した台風21号では飛来物や倒木で800本以上の電柱が倒れ、多くの電線も切断されました。その結果停電は延べ250万戸以上にも及んだことは衝撃を呼びました。また、電柱の倒壊は道路の寸断を招き復旧作業に大きな影響を及ぼし、1週間も停電が続いた場所もありました。
引用:https://www.sankei.com/west/news/180907/wst1809070085-n1.html
毎年襲来する強力な台風は年々被害が甚大化しており、日本と強い結びつきのある災害といえます。
他にも平成27年5月~9月の5か月間に、災害等により倒壊した電柱は約500本でシーズン中はおおむね1日3本の電柱が倒壊しています。
電柱は風速何mまで耐えられる?
台風による電柱の倒壊は決して珍しいことではなく、一度倒れると停電はもちろんのこと道路の寸断によるインフラ障害は発生するなど決して軽視できない結果をもたらすことはお分かりいただけたと思います。それでは電柱はどの程度の台風にまで耐えられるのでしょうか。
2003年9月台風14号において宮古島市全域で電柱が800本倒壊した。
「電気設備に関する技術基準を定める省令」の第2章第3節第32条には
「架空電線路又は架空電車線路の支持物の材料及び構造(支線を施設する場合は、当該支線に係るものを含む。)は、その支持物が支持する電線等による引張荷重、風速四十メートル毎秒の風圧荷重及び当該設置場所において通常想定される気象の変化、振動、衝撃その他の外部環境の影響を考慮し、倒壊のおそれがないよう、安全なものでなければならない。ただし、人家が多く連なっている場所に施設する架空電線路にあっては、その施設場所を考慮して施設する場合は、風速四十メートル毎秒の風圧荷重の二分の一の風圧荷重を考慮して施設することができる。」
つまり周りに民家が密集しているところでは風速29[m/s]、周りに民家のないところでは風速40[m/s]まで耐えられるということです。
気象庁による「日本歴代風速ランキング」では
順位 都道府県 地点 観測値 現在観測を実施 m/s 風向 起日 1 静岡県 富士山 * 72.5 西南西 1942年4月5日 2 高知県 室戸岬 * 69.8 西南西 1965年9月10日 ○ 3 沖縄県 宮古島 * 60.8 北東 1966年9月5日 ○ 4 長崎県 雲仙岳 * 60.0 東南東 1942年8月27日 ○ 5 滋賀県 伊吹山 * 56.7 南南東 1961年9月16日 6 徳島県 剣山 * 55.0 南 2001年1月7日 7 沖縄県 与那国島 * 54.6 南東 2015年9月28日 ○ 8 沖縄県 石垣島 * 53.0 南東 1977年7月31日 ○ 9 鹿児島県 屋久島 * 50.2 東北東 1964年9月24日 ○ 10 北海道 後志地方 寿都 * 49.8 南南東 1952年4月15日 ○ 11 沖縄県 那覇 * 49.5 東北東 1949年6月20日 ○ 12 沖縄県 下地 49 北西 2003年9月11日 ○ 13 沖縄県 志多阿原 48.9 南南東 2010年9月19日 ○ 14 静岡県 石廊崎 * 48.8 東 1959年8月14日 ○ 15 沖縄県 北原 48.1 南東 2016年10月4日 ○ 16 千葉県 銚子 * 48.0 南南東 1948年9月16日 ○ 17 大阪府 関空島 46.5 南南西 2018年9月4日 ○ 18 長崎県 野母崎 46 南東 2006年9月17日 ○ 19 愛知県 伊良湖 * 45.4 南 1959年9月26日 ○ 20 沖縄県 盛山 44.9 南西 2015年8月23日 ○ 引用:http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/rankall.php
と風速40mを軽く超える風速を幾度となく観測しています。これを台風発生(突風)の年月日と風速で散布図を作ると
このような図が作成できます。この図を見ていただけると分かると思いますが、2001年から風速45[m/s]~55[m/s]の台風が立て続けに襲来していること、またその間隔は年を追うごとに短くなっていることが分かります。
地球温暖化のことも考慮に入れれば、脅威を増す台風に対して電柱を野ざらしにしておくよりも、地中に埋設して風の影響を受けないようにした方がずっと文明的ではないでしょうか。
地震と電柱
地震による実際の被害
引用:http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/chi_13_06.html
近年で最も大きい被害が大きかった地震は阪神・淡路大震災と東日本大震災であることは日本国民の知るところであると思います。国土交通省によると阪神淡路大震災は合計約9000本、東日本大震災では約6万本の電柱で通信・電力の供給に支障があったと報告されています。いずれの場合でも架空線より地中線のほうが圧倒的に地震に強く、地震の多い日本において無電柱化が非常に重要なインフラ整備であることは明らかです。
また2016年4月14日で発生した熊本地震では下の画像の通り電柱倒壊が244本、傾斜が4091本に生じ最大で約477万戸に停電が発生しました。
しかしながら九州電力の発表によると架空線への影響はあったものの、地中線への影響は皆無でした。これも無電柱化が地震に強いことの証明の一つではないでしょうか。
引用:http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/hoan/denryoku_anzen/denki_setsubi_wg/pdf/009_02_00.pdf
電柱は震度いくらまで耐えられる?
さきの台風の節で「電気設備に関する技術基準を定める省令」の第2章第3節第32条によれば「通常想定される気象の変化、振動、衝撃その他の外部環境の影響を考慮し」と書いてあります。つまり「震度○○に対応しなさい」ということではありません。また経済産業省 産業保安グループ電力安全課の電気設備の技術基準の解釈の解説 によれば
省令第32条では、地震による振動、衝撃荷重を考慮すべきことを規定しているが、従来より、一般の送電用支持物は地震荷重よりも風圧荷重の方が大きいと評価されており、平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震においても、送電用支持物については地震動による直接的な被害は見られなかった。
しかし、本地震は過去我が国で発生した地震の中でも最大級であったことから、改めて送電用支持物の耐震性を確認すべく、一般的電圧階級における代表型を対象に、動的な地震応答解析を実施した。その結果、これらの送電用支持物は、兵庫県南部地震で観測された地震動に対しても耐え得ることが確認された。
つまり「阪神淡路大震災でも電柱に『さほど』の被害が見られなかったので考慮に値しない」ということを言っています。確かに震度7ですべての電柱が倒れたわけではないのでこういう観点があってもおかしくはないと思います。
阪神淡路大震災東灘区国道2号小路付近 奥の電柱が大きく傾斜している。
しかしながら震度7になれば確かに地震によって電柱が倒壊し停電や道路の寸断が起こっているのです。また1回倒れなかったとしてもそれを放置すれば2回目にどうなるかはわかりません。無電柱化をしなくてもいい理由にはなりません。
水害と電柱
水害に関しては近年で言えば2018年7月に発生した西日本豪雨がありました。気象庁によると総降水量は四国地方で1800ミリ、中部地方で1200ミリで土砂災害が発生、死者数が200人を超える甚大な災害でした。
さて、水害において停電は致し方のないことです。なぜなら浸水時に漏電の危険性があり、送電を意図的に停止する場合があります。「電線を地中に埋めれば浸水したときに停電するのでは?」というのはある意味で正しいです。
しかし普通の降雨であれば地中に電線が埋設してあっても決して機能が失われたりはしません。それもそのはず架空線が雨に打たれて故障しているところを見たことがあるでしょうか。いや、ないはずです。現在の無電柱化では地中に埋める分丈夫なケーブルを用いますので、普通の電線よりもむしろ頑丈です。
もっというと水害時に誘発される土砂崩れで地中にあるのと電線にあるのとでは「停電」という一点においては同じです。しかし「道路の寸断」等様々なところに軍配が上がるのは地中線です。
まとめ
災害写真データベース(http://www.saigaichousa-db-isad.jp/drsdb_photo/photoSearchResult.do)様より阪神淡路大震災時の写真
ここまでの説明で、電柱と日本でよく起こる災害との相性が非常に悪いということがわかりました。生まれた時から電柱があって、それが常識となっている中で、「地震の際、電線を地下に埋めてしまっている分ちぎれてしまうのでは?」や「洪水で浸水したら地中の電線が停電するのでは?」といった疑問はごく自然に生まれてくるものです。それを皆さんが誤解してしまうのも無理はありません。しかし数字に基づいたデータや正しい知識によってその誤解を解消するのが私どもNPOの役割です。ご質問等ございましたら、ぜひ下のフォームからご連絡してください。講演等のご依頼もお待ちしております。