新宿区では平成31念3月に計画を策定する予定の「新宿区無電柱化推進計画」の素案を発表し、平成30年12月15日(土)~平成31年1月11日(金)の間にパブリックコメントを募集しています。発表された素案とはどのようなものなのか。解説していきます。

参考URL(新宿区パブリックコメント募集ページ):
https://www.city.shinjuku.lg.jp/seikatsu/doro01_002012.html

第1章 新宿区無電柱化推進計画策定の背景と位置づけ

1 計画策定の背景

昨今の大規模地震大型台風などにおいて、電柱倒壊により道路が閉塞され緊急車両の通行復旧活動の支障となる事象が多数発生しており、防災機能の強化のため無電柱化整備が必要となっています。また、歩行者や車いす利用者の通行林立する電柱により妨げられるとともに、景観張り巡らされた電線により阻害されています

防災 安全・快適 景観
緊急車両の通行や復旧活動の迅速化のため 歩行者や車いす利用者が快適に利用できるようにするため 張り巡らされた電線による景観阻害防止のため

 このことから、無電柱化の必要性について社会的な機運の高まりを受け、国は、平成28年12月に「無電柱化の推進に関する法律」を施行し、国、地方公共団体及び関係事業者の責務や無電柱化推進計画の策定等について規定しました。さらに平成30年4月には、無電柱化推進計画を策定し、無電柱化の推進に関する基本的な方針や目標等を公表しました。

 一方、東京都においても、平成29年9月の「東京都無電柱化推進条例」の施行、平成30年3月の「東京都無電柱化計画」の策定・公表によって、無電柱化を積極的に推進しているところです。

以上のような背景を踏まえ、新宿区においても、災害に強い街づくりを進めていく施策として、無電柱化の推進に関する法律に基づき、無電柱化に関する基本的な考え方や具体的な実施計画を取りまとめた新宿区無電柱化推進計画」を策定し、公表します。

2 計画の位置づけ

本計画は、「無電柱化の推進に関する法律」第8条第2項(※1)に規定された「無電柱化推進計画」に相当するものです。

出典:https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000252206.pdf

 国の無電柱化推進計画や東京都無電柱化計画を基本に、区政運営の基本となる「新宿区基本構想」及び「新宿区総合計画」、また、区のまちづくりのロードマップである「新宿区まちづくり長期計画」等を踏まえ、無電柱化事業を推進するための、今後の具体的な取り組みを示します。

※1 「第八条 都道府県は、無電柱化推進計画を基本として、その都道府県の区域における無電柱化の推進に関する施策についての計画(以下この条において「都道府県無電柱化推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。
2 市町村(特別区を含む。以下この条において同じ。)は、無電柱化推進計画(都道府県無電柱化推進計画が定められているときは、無電柱化推進計画及び都道府県無電柱化推進計画)を基本として、その市町村の区域における無電柱化の推進に関する施策についての計画(以下この条において「市町村無電柱化推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。」

ここまでの内容は無電柱化推進計画がいかにして策定されるようになったかという経緯の話でした。東京都庁のおひざ元である新宿区が無電柱化政策に手をこまねいているだけではなく自らの姿勢をもって全国の範を垂れようとしていることが伝わってきます。無電柱化のための計画なので実際のまちづくりの構想に関しては「新宿区基本構想(リンク先新宿区ウェブサイト)」等をご確認ください。

第2章 無電柱化の概要

1 無電柱化の整備手法

無電柱化には、大きく分けて「電線類地中化」と「電線類地中化以外」の整備手法があり、各手法には様々な整備方式があります。

「電線共同溝の整備等に関する特別措置法」が平成7年に施行され、現在、国・東京都・区市町村といった道路管理者が無電柱化を行う際には、電線共同溝方式が主な整備手法となっています。

そのため、現在、区が無電柱化を行う際には、電線共同溝方式により実施しています。

実際に電線共同溝方式で施工された飯田橋都道434号線

第2章は無電柱化を行うにあたって電線共同溝方式を採用するという旨の文章が書かれています。またこの記事では割愛しましたが、電線共同溝とはどういった方式か、また方式を用いる際の課題に関してまで言及してありました。しかしながら電線共同溝の一般論に関してはすでに「無電柱化とは」のページで詳しく解説していますのでそちらをご覧になってください。

無電柱化とは

また「電線共同溝方式以外」で実際に施工された(小型BOX方式)先斗町へインタビューを行った記事はこちらになっています。

【インターン生企画】実際の事例をインタビュー、京都先斗町無電柱化の舞台裏

第3章 新宿区における無電柱化の状況とこれまでの取り組み

1 区内の無電柱化の状況

新宿区内の無電柱化状況としては、区内すべての道路(国道、都道、区道)を対象とした場合には、無電柱化率が約20%となっています。

また、区道のみを対象にした場合では、無電柱化率は約10%となります。

区道の無電柱化率(平成30年9月末現在)

区分 管理道路延長 無電柱化道路延長 無電柱化率
新宿区が管理する道路(区道) 295㎞ 30㎞ 10%

出典:https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000252206.pdf

東京都新宿区でも区道のみの無電柱化率が10%という事実はなかなかに衝撃的です。日本において無電柱化がいかに非効率的に進められているかがうかがい知れます。また当記事では割愛しましたが実際の計画には区内の無電柱化方式の変遷も記載されています。キャブ方式→電線共同溝方式の技術的流れも前述の「無電柱化とは」に記載されていますので興味がありましたら是非ご確認ください。

第4章 無電柱化の推進に関する基本的な方針

1 無電柱化の推進に関する基本的な方針

無電柱化の3つの必要性である【防災】・【安全・快適】・【景観】の観点から、新宿区における無電柱化の推進に関する基本的な方針を以下のとおり定めます。

方針1 都市防災機能の強化【防災】

地震や台風などの災害時に、電柱倒壊による道路の閉塞を防ぎ、ライフラインの安定供給や救急活動の円滑化を図ります。

阪神淡路大震災の時の様子

方針2 安全で快適な歩行空間の形成【安全・快適】

歩行の妨げとなる電柱をなくし、歩行者だけでなく車いすやベビーカーも移動しやすい歩行空間を確保していきます。

電柱が原因で危険な状態になっている親子

方針3 魅力的な都市景観の創出【景観】

景観を阻害している電柱や電線類をなくし、良好な都市景観の創出を図ります。

電柱がなければ富士山の魅力がより引き立つであろう

無電柱化の推進に関す基本的な方針は国のものと比べると2020年東京オリンピックの項目がないことに気づくでしょう。もっともオリンピックの目的は景観に属する部分が大きいのでわざわざ記載しなかったのかもしれません。【防災】・【安全・快適】・【景観】はいずれにせよ確保しなければならない重要なことです。

第5章 無電柱化路線

1 無電柱化路線

本計画において、以下の路線を無電柱化路線として位置づけます。

整備対象路線無電柱化整備の対象となる路線

開発事業等により無電柱化を進めている路線

無電柱化済み路線無電柱化が完了している路線

(1)整備対象路線

無電柱化を推進するにあたり、区道の中から無電柱化整備の対象となる路線として、整備対象路線を選定しました。なお、現在、区が無電柱化を進めている路線も整備対象路線に位置付けました。

選定にあたっては、無電柱化の推進に関する基本的な方針として定めた【防災】・【安全・快適】・【景観】の内容を踏まえ、評価項目に基づく総合評価を行いました。

また、評価における重要性としては、災害時に高い整備効果を発揮する【防災】の観点を高い位置づけとして設定しました。

出典:https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000252206.pdf

2 無電柱化路線の一覧

無電柱化路線として位置づけられた路線は以下の通りで、路線の一覧図は以下の図の通りとなります。

出典:https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000252206.pdf

無電柱化路線の定義にはすでに無電柱化が終わった路線も含めていますのでそれに注意しましょう。次章でも言及しますが、この計画で新たに整備する路線は18,474mつまり約20㎞の無電柱化を10年で行うということです。電線共同溝方式は1㎞あたり3.5億円かかるといわれていますから、一つの区のみでこれだけの整備延長を抱えることはすごいことです。

しかしながら当NPOでは新しい技術を開発し、日進月歩で無電柱化推進のために努力していますので、10年後には1kmあたり1億円程度にまで整備コストが下がっているかもしれません。

これまでに開発した技術はこちら

国土交通省、民間ワーキンググループ 低コスト手法の提案の募集

第6章 無電柱化推進計画の期間と目標

1 無電柱化推進計画の期間

本計画の期間は以下の通り

2019年度(平成31年度)から2028年度の10年間まで

2 優先整備路線の選定

本計画期間内に無電柱化整備を実施する路線を優先整備路線と位置付けました。

なお、優先整備路線は、整備効果(路線の重要性)・効率性(施工性)・財源確保(補助制度の活用)の期待できる路線とし、以下の路線を選定しました。

〇整備対象路線のうち

整備効果(路線の重要性)効率性(施工性)財源確保(補助制度活用)の観点で評価し、選定した路線

区が無電柱化を進めている路線

〇開発事業等により無電柱化を進めている路線

3 優先整備路線の選定フロー

優先整備路線は以下の選定フローに基づき、選定しました。

4 優先整備路線の一覧

優先整備路線の一覧表は以下の通りで一覧図は次図の通りとなります。(した表の無電柱化事業中以外の延長は、事業進捗により変更になる可能性があります。)

ア 優先整備路線(整備対象路線うち評価項目を踏まえ選定した路線)

No. 路線名(通称名等) 延長 状況
特別区道31-1390
(水野原通り)
250m 平成31年度から、無電柱化に向けた基礎調査開始予定
特別区道23-1360
(上落中通り)
370m 平成31年度から、無電柱化に向けた基礎調査開始予定

イ 優先整備路線(整備対象路線のうち区が無電柱化を進めている路線)

No. 路線名(通称名等) 延長 状況
特別区道23-1361
(聖母坂通り)
587m 無電柱化事業中(平成31年度完了予定)
特別区道21-580
(補助72号線第Ⅰ期区間)
370m 無電柱化事業中(平成31年度完了予定)
特別区道43-120
(信濃町駅周辺)
151m 無電柱化事業中(平成31年度完了予定)
特別区道11-260
(甲州街道脇南側区道)
124m 無電柱化事業中(平成31年度完了予定)
特別区道42-540
(四谷駅周辺)
80m 平成30年度に無電柱化に向けた基礎調査開始
特別区道31-1380
(女子医大通り)
730m 平成30年度に無電柱化に向けた基礎調査開始

ウ 優先整備路線(開津事業等により無電柱化を進めている路線)

No. 路線名 延長 状況
1 特別区道11-562 197m 新宿区西新宿六丁目計画
2 特別区道11-631 78m 新宿区西新宿六丁目計画
3 特別区道34-3o 191m 大日本印刷市谷工場整備計画
4 特別区道42-520 163m 四谷駅前地区第一種市街地再開発事業
5 特別区道42-530 134m 四谷駅前地区第一種市街地再開発事業
6 特別区道42-540 133m 四谷駅前地区第一種市街地再開発事業

出典:https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000252206.pdf

5 無電柱化の推進に関する目標

本計画期間内における無電柱化の推進に関する目標を以下の通り定めます。

無電柱化路線の無電柱化率 61% → 68%

(※優先整備路線+無電柱化済路線:34,205m/無電柱化路線:50,035m)

【参考】区道の無電柱化率 10% → 11%

第6章は無電柱化を優先して行う道路の選定が主の内容でした。優先して行われる道路は3,540mで、全体の7%程度ですが、特に重要な無電柱化ですので迅速に行ってほしいです。いざ地震が起こって電柱が残ったままでしたというのは最も間の抜けた話です。

また新たに20㎞の無電柱化を断行しようとしていても無電柱化率の増加分はたったの7%です。さらなる無電柱化の推進に向けて工期の短縮という点も当NPOでもちろん議論していますのでご興味のある方はぜひ会員要綱をご覧ください。

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第7章 無電柱化の推進に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策

無電柱化を推進するためには、支障となる電線共同溝方式による整備での課題に対応することが不可欠となります。そのため、課題への対応に向け、以下の通り無電柱化の推進に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策を実施します。

施策1 コスト縮減・工期短縮へのさらなる取り組み

国・東京都で検討が進められているコスト縮減工期短縮につながる整備手法について積極的に活用の検討を行います。

また、これまでも区が取り組んできた既存ストックを活用する整備手法についても引き続き取り入れ、コスト縮減・工期短縮に努めます。

コスト縮減や工期短縮に向けて検討が進められている整備手法
出典:https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000252206.pdf

施策2 多様な整備手法の活用による整備の推進

歩道幅員が狭いまたは歩道がない道路における地上機器設置場所の確保については、公共用地等の道路外の敷地を活用するなど、これまでの取り組み成果を活かし、実施していきます。

また、地上機器の設置数を抑えることが可能なソフト地中化方式を検討するなど多様な整備手法を活用しっさらなる整備の推進を図ります。

東京都江戸川区平井地区にて行われたソフト地中化

※ソフト地中化・・・景観優先型方式ともいい、狭小道路で施工可能かつ、設置場所に苦慮する地上機器を柱状にすることで、柱は残るが、見苦しい電線がなくなり、景観もすっきりする。また、近接する公共施設内日常機器を設置することで、少し離れた道路の地中化が可能となる。

施策3 補助制度を活用した財源確保

これまでの補助制度である、国の「社会資本整備総合交付金」や東京都の「区市町村無電柱化事業に対する都費補助」を活用するとともに、都の「無電柱化チャレンジ支援事業制度」などの補助制度を有効に活用し、財源確保に努め、無電柱化を推進していきます。

※1 社会資本整備交付金について:http://www.mlit.go.jp/page/kanbo05_hy_000213.html

※2 区市町村無電柱化事業に対する都費補助:http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/content/000031362.pdf

※3 無電柱化チャレンジ支援事業制度:http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/content/000029375.pdf

 

施策4 都市計画道路の整備と合わせた同時整備の推進

都市計画道路の整備による道路の新設や拡幅に合わせた無電柱化整備の推進を図ります。

施策5 市街地再開発事業や都市開発諸制度等の整備と合わせた同時整備の推進

市街地再開発事業土地区画整理事業都市開発省制度等の開発事業により道路の新設、拡幅整備が行われる際には、無電柱化整備が同時に実施されるよう調整し、推進していきます。

施策3に関しては特に東京都で無電柱化を行う際に多大な補助を得られるという特色を活かして無電柱化を推進していく姿勢が読み取れます。

例えば無電柱化チャレンジ支援事業制度に関して言うと、「現道で無電柱化事業の整備実績がない区市町村かつ原則歩道幅員が2.5m未満、または歩道がない区間があるなど地上危機を設置することが困難な路線」に関して事業費を補助するという内容です。

無電柱化へのチャレンジを支援することによって区市町村は事業費という意味で恩恵をあずかれますし、都にとっても無電柱化が困難な場所の無電柱化事例を得て今後に活かすといういわばwin-winの関係を得ることができます。

これらの点に関しては東京都の区市町村が無電柱化に関して一歩抜き出でているといっても過言ではないでしょう。

第8章 無電柱化の推進に関する施策を総合的、計画的かつ迅速に推進するために必要な事項

無電柱化を一層推進するため、以下の事項についても取り組んでいきます。

(1)組織体制の強化

無電柱化を今後さらに推進していくために、内部組織体制の強化を検討していきます。

(2)広報・啓発活動

無電柱化に関する区民の理解と協力が得られるよう、事業内容や整備効果に関するパンフレットの作成等により広く周知していきます。

 

東京都が発表した広報用動画

(3)関係機関との連携強化

国・東京都と連携した技術検討や電線管理者との整備手法に関する協議・調整を行い、無電柱化を円滑に推進できるよう努めます。

(4)他事業との調整

都市計画道路の整備や開発事業等が実施される際には、コスト縮減・工期短縮を図るため、同時に無電柱化が実施されるよう、施工時期等の調整を図ります。

(5)推進に向けたルール作り

無電柱化の推進に向けて、電線共同溝整備マニュアル管理規定、および事務処理の簡素化など、推進するうえで必要な改善等を行います。

(6)道路占用制限の活用

防災上重要な路線や無電柱化済みの路線については、新たな電柱の設置を防ぐため道路法第37条に基づく電柱の新設を制限する措置について検討します。

(7)計画の適宜見直し

本計画を着実に推進していきため、事業の進捗状況を適切に管理していくとともに、無電柱化の整備状況新たな手法の実用化国・東京都の無電柱化推進計画等の動向を踏まえて、本計画の見直しや改善を行うものとし、PDCAサイクルに基づいて進めていきます。

第8章はいわゆる一般的な「無電柱化推進計画」に記載されているものです。はっきり言って特に特色があるわけではないですがPDCAサイクルを遵守するなどは細やかなところまで気を配って計画を策定されていると考えられます。

まとめ

新宿区歩行者天国、無電柱化された道路

ここまで新宿区無電柱化推進計画を見てきましたがいかがでしたでしょうか。パブリックコメントの結果を踏まえよりよい計画になっていくと思われます。東京都は無電柱化の最先端ですのでここから新しい技術を使った無電柱化を行っていってほしいです。何か気になる点がありましたら、下記のフォームからぜひご連絡ください。

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