今回は長野県北安曇郡の山村、白馬村の無電柱化推進計画をもとに「無電柱化推進計画」とは一体何かということを探っていきましょう。そしてそこからいかにして無電柱化推進計画が作られているかを見ていきましょう。

白馬村について


白馬村駅前

白馬村のデータを最初に示しておきます。

所在地 長野県北安曇郡白馬村
面積 189.36㎢
総人口 8724人
人口密度 46.1人/㎢
予算規模 60億4700万円(平成30年度)
村税 13億6400万円

wikipediaによりますと

白馬村(はくばむら)は、長野県の北西部に位置する北安曇郡の村である。北アルプスの麓であり、冬はスキー、夏は登山の観光客が訪れ、避暑地として知られる。単体のスキー場としては国内最大規模の八方尾根スキー場があり、長野オリンピックの会場にもなった。

この通り、観光を主な収入にしていきたいと考えている地方の山村です。しかしながら東京などの大規模な都市に負けない早さで無電柱化推進計画に加え無電柱化推進条例を制定しました。

つまり地方でもやる気さえあれば無電柱化ができるのです。次にその目次を見ていきましょう。

「白馬村無電柱化推進計画」の目次

実は、ほとんどの自治体の無電柱化推進計画の目次でほぼ同じ内容が使用されています。白馬村も同様で、基本的には区市町村が発表した無電柱化推進計画と似たものとなっています。その証明として先日紹介した新宿区無電柱化推進計画と比較してみましょう。

新宿区についての記事はこちら

新宿区の無電柱化推進計画を徹底解説!新宿で起こる新たな変革とは!?

白馬村 新宿区
1.はじめに 1.新宿区無電柱化推進計画策定の背景と位置づけ
2.計画の目的 1.1計画策定の背景
2.1計画策定の背景 1.2計画の位置づけ
2.2計画の目的 2.無電柱化の概要
2.3計画の位置づけ 2.1無電柱化の整備手法
2.4計画の期間 2.2電線共同溝方式による整備での課題
3.各種計画と白馬村無電柱化推進計画との関連性 3.新宿区における無電柱化の状況とこれまでの取り組み
3.1白馬村第5次総合計画 3.1区内の無電柱化の状況
3.2白馬村まちづくりマスタープラン 3.2区内の無電柱化の変遷
3.3国の無電柱化推進計画 3.3電線共同溝方式による整備のこれまでの取り組み
4.無電柱化推進施策等 4.無電柱化の推進に関する基本的な方針
4.1無電柱化推進のこれまでの取り組み 5.無電柱化路線
4.2無電柱化施策 5.1無電柱化路線
4.3無電柱化施策に向けた推進事項 5.2無電柱化路線の一覧
5.無電柱化への方針 6.無電柱化推進計画の期間と目標
5.1区域 6.1無電柱化推進計画の期間
5.2対象道路 6.2優先整備路線の選定
5.3各種関連制度の適正運用 6.3優先整備路線の選定フロー
6.施策を総合的、計画的かつ迅速に推進するために必要な事項 6.4優先整備路線の一覧
6.1広報・啓発活動 6.5無電柱化推進に関する目標
6.2無電柱化情報の共有 7.無電柱化の推進に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策
6.3良質な景観の保全 8.無電柱化の推進に関する施策を総合的、計画的かつ迅速に推進するために必要な事項
6.4白馬村無電柱化推進連絡会議  
6.5実施計画の実効性向上
7.実施計画
7.1緊急輸送道路の指定
7.2道路占用料等の見直し
7.3無電柱化計画路線
7.4無電柱化実施計画区間
7.5景観保全(電柱等建設不納)区間(範囲)
7.6無電柱化に伴う財源計画
7.7宅地等開発計画区域における無電柱化の基準
7.8実施路線図

全く別の自治体の無電柱化推進計画の目次のはずなのに、同じ内容で色分けしてみれば一目瞭然です。無電柱化推進計画とはフォーマットをもとに作られているような印象さえ受けます。逆に言えばこの形にのっとりさえすれば、ほとんどの地方自治体で「無電柱化推進計画」を作成することができるのです。

実際、2016年に制定された「無電柱化の推進に関する法律」第2章第7条第2項では「2 無電柱化推進計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。一 無電柱化の推進に関する基本的な方針、二 無電柱化推進計画の期間、三 無電柱化の推進に関する目標、四 無電柱化の推進に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策、五 前各号に掲げるもののほか、無電柱化の推進に関する施策を総合的、計画的かつ迅速に推進するために必要な事項と定められています。

よって無電柱化推進計画とはこの項目を埋めていけばおのずと完成するものなのです。

また「無電柱化の推進に関する法律」の第2章第8条第4項では「都道府県又は市町村は、都道府県無電柱化推進計画又は市町村無電柱化推進計画を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表するよう努めるものとする。」と記されてあります。つまり無電柱化推進計画の策定は努力義務となっているのです。

2019年に入ってから続々と無電柱化推進計画が発表されていますが、未だ策定スケジュールすら公表していない自治体もあります。読者のお住まいの都道府県又は市町村が無電柱化のやる気の有無を確認するにはこの計画が発表されているか調べるのも効果的でしょう。

 

当NPOが各都道府県の無電柱化推進計画の有無を調査した結果がこちら

無電柱化資料室

白馬村の計画の目次項目について

「2.計画の目的」について

白馬村は独自の無電柱化推進条例と無電柱化法の規定にのっとって無電柱化を総合的・計画的に推進することを目的としています。具体的には①良好な景観の創出、②街づくりにおける防災力向上、です。

全国的に無電柱化推進条例を制定している自治体はまだまだ少ないですが、これを設けるのと設けないとでは無電柱化のスピード感が違います。特に以前に記事で取り上げたつくば市の無電柱化はみるみる進んでいるようです。

つくば市の条例の解説はこちら

つくば市が日本初!?つくば市無電柱化推進条例の内容を解説!

この計画の位置づけは都市計画マスタープランや、道路整備に係る諸計画等と関連した計画として位置づけられています。期間は2019年~2028年の10年間で少し長めの期間を設けています。この期間の塩梅は大きな自治体であれば短く、臨機応変に対応できるようにしておき、小さな自治体では予算の都合から見ても長い期間を設けておくことでどっしりと無電柱化に取り組めるのではないかと思います。

「3.各種計画と白馬村無電柱化推進計画との関連性」について

白馬村にもともと存在した村づくり計画との整合性を検証している項目です。白馬村はそもそもスキー場を構える山々など自然豊かな環境を保有しています。今回の無電柱化推進計画ではあくまで自然環境を破壊するわけではなく、より自然の雄大さを引き出すための施策として策定しています。


白馬岳

また、無電柱化の対象道路として「景観形成・観光振興」に重きを置いていて、

世界遺産・日本遺産等の周辺や重要伝統建造物群保存地区、景観法、地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律、景観条例等に位置付けられた地域、エコパーク・ジオパークその他著名な混交地における良好な景観形成や観光振興のために必要な道路の無電柱化を推進する。

と計画内で触れています。白馬村やその他の地方自治体では、観光振興のために無電柱化を執り行えば地域経済の発展につながると思いますし、実際に無電柱化によって訪問客数が著しく伸びた観光地も多数あります。

「4.無電柱化推進施策等」について

まずこれまでの取り組みについて簡単にまとめ、次に低コスト手法の検討と財源の確保を行っています。

筆者としましては山村部の自治体では直接埋設を今後検討・実施できるようにするべきだと思います。例えば里山などの景観を重視するならば広い地域の無電柱化が必要だと思います。また付近に建物が作られたりして地中を掘り返すことがないような場所ではわざわざ電線共同溝方式を用いる必要はないです。

また財源の確保についても都道府県や国が補助してくれる場合がありますので、情報をとり逃さないことが肝要だと思います。

次に「無電柱化施策に向けた推進事項」として

①住民理解と合意形成②無電柱化推進事業に係るすべての関係事業者の合意③移設保証を含めた多額の事業費負担④観光振興のための財源の活用⑤国・県への積極的な要望

の5点を挙げています。特に地方になればなるほど⑤が重要になってきます。

「5.無電柱化への方針」について

区域は白馬村内全域、対象道路は優先整備路線として「道路整備や街づくりの満点を考慮しつつ、優先整備路線を選定します。」とあります。

また観光立村として駅周辺道路を最優先に位置付けています。駅周辺の無電柱化は観光客の玄関口であり、非日常を感じさせる効果があると思いますので、優先して取り組むべき場所です。


つくば駅駅周辺

次に各種関連制度の適正運用として

①開発事業区域内の無電柱化②道路占用制度の積極活用③占用料の見直し

を挙げています。特に③に関しては電力事業者やその他関係者の抵抗があるかもしれませんが、これに踏み切れば大きな一歩になることは間違いありません。また占用料は自治体側が設定できますので、その優位性を意識してほしいです。

無電柱化と占用料との関係を書いた記事はこちら

無電柱化と占用料との関係

「6.施策を総合的、計画的かつ迅速に推進するために必要な事項」について

これについて白馬村では5点を挙げています。

①広報・啓発活動②無電柱化情報の共有③良質な景観保全④白馬村無電柱化推進連絡会議の設置⑤実施計画の実効性向上

①に関しては、どの無電柱化推進計画においても必ず盛り込まれています。施工するには住民の協力が何よりも重要でありますし、無電柱化に関して正しい知識を理解してもらえれば地域の住民の方々もある程度納得してくれると思います。

もちろん当NPOとしましても地域の方向けの無電柱化セミナーを行っています。無電柱化推進の一助になりますように精進してまいります。

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また②も非常に重要な要素です。先に直接埋設方式を採用するべきだと先述しましたが、そもそも低コストの情報を持っていなければ非常に高額な電線共同溝方式に頼らざらるを得ません。すると結局整備延長を稼げないという状況に陥りかねません。まずは低コストの整備事例などの情報収集をすることで効率よく無電柱化を進められます。

「7.実施計画」について

(2)道路占用料等の見直しは無電柱化において非常に重要であることは先にも触れました。占用料を値上げすることを明記すれば、電力会社は無電柱化を検討していく事になると思います。また無電柱化された区域に新設電柱を認めないという制度も大変重要であります。


「無電柱化の推進に関する法律」第12条では電柱の新設を制限しています。(努力義務)

せっかく大金をはたいて無電柱化をしたのに新しい電柱が立ってしまえば元の木阿弥です。これを明記することで、よりスムーズに無電柱化進められることは間違いないでしょう。他にも地中設備の占用料減免措置をとることによって電気事業者に受け入れられやすい無電柱化を行えると思います。

路線の選定に関しては土地勘のある自治体の道路担当者や関係事業者・地元の協議会などがしっかりと議論すれば問題なく決定できると思います。

まとめ

白馬村の無電柱化推進計画のエッセンスを抽出してきました。「無電柱化推進計画」とは結局のところ「無電柱化推進に関する法律」の条文に書かれてあることを地域に置き換えて作っているのです。ここまで読んでくださった読者の方であれば、無電柱化推進計画を作ること自体が難しくないということが分かったと思います。しかし財源の確保や地域住民との話し合い、電線共同溝以外の低コスト手法の活用などまだまだ問題がたくさん残っています。そういったノウハウが分からないということが無電柱化が進まない最も大きな理由であると思います。

大都市圏の周りでは無電柱化推進計画が策定されつつあります。しかしながら現状、地方の市町村ではまだまだ無電柱化推進計画が設定されている自治体は少ないです

当NPOでは奈良県斑鳩町をはじめとして、様々な自治体の支援を行ってきました。低コストに関しても我々が作ってきた製品が実際に国土交通省の低コスト化の手引きに採用されました。当NPOの主な活動はこちらから。

NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク 法人経歴書

どんな相談でも承っておりますので是非ご連絡いただければと思います。地方から無電柱化を盛り上げていければ幸いです。

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