「電柱と災害の関係」という記事では、電柱があることによってどのような被害が発生するかを調べました。

電柱と災害との関係

この記事の中にもあるように「地中設備は地震や台風に弱い」というのは単なる勘違いであって、事実ではありません。

この記事では実際の数字を元に、もう少し踏み込んで自然災害における実際の事故件数を「架空線(従来の電柱や電線)」と「地中線(無電柱化された電線)」に分けて比較し、事故件数をケーブルの長さで割った数字を「事故の起こりやすさ(※1)」として算出してみましょう。単位長さあたりの事故件数(=事故の起こりやすさ)が少ないほど安定したインフラであるといえるでしょう。

架空線と地中線の長さ

まずは何よりも架空線と地中線の長さを確認していきます。ここでは電線路の亘長を長さとして設定します。亘長とは電線路の指定された区間の水平距離を言い、通常の延長(ケーブルの長さ)とは違いますが便宜上こちらを使います。

さてでは平成28年度と29年度の架空線と地中線の長さを確認していきます。

電線路亘長[km] 2016年度 2017年度
架空 特別高圧 102 102
高圧 700391 702667
低圧 572425 574048
1272918 1276817
地中 特別高圧 6 6
高圧 39851 40179
低圧 4083 4137
43940 44322

表のとおり、全体に対する地中線の割合はわずか3%で、1年で架空線の長さが約4000㎞程度、地中線が約400㎞増えています。現在の無電柱化推進計画では平成30年~令和2年度までに2,400㎞の道路の無電柱化を着手する予定ですが、全体の電線路の亘長から見ればわずかな距離であることがわかるかと思われます。

配電設備の全事故件数

ここから2016年、2017年の電線路における事故件数を見ていきましょう。ただし事故の原因とは次のようなものになります。

原因別 内容
大分類 小分類
設備不備 製作不完全 電気工作物の設計、製作、材質等の欠陥によるもの。
施工不完全 建設、補修等の工事における施工上の欠陥によるもの。
保守不備 保守不完全 巡視、点検、手入等の保守の不完全によるもの。
自然劣化 製作、施工及び保守に特に欠陥がなかったにも関わらず、電気工作物の材質、機構等に劣化を生じたもの。
自然現象 風雨 雨、風又は防風によるものを言い、風のために飛来した樹木片等の接触によるものを含む。
氷雪 雪、結氷、ひょう、あられ、みぞれ、又は暴風雪によるもの。
直撃雷又は誘導雷によるもの。
地震 地震によるもの。
水害 洪水、高潮、津波等によるもの。
山崩れ、雪崩 山崩れ、雪崩、地滑り、地盤沈下等によるもの。
塩、ちり、ガス 塩、ちり、霧、悪性ガス、ばい煙等によるもの。
故意過失 作業者の過失 作業者(自社又は自社の工事請負者の命をうけて作業に従事している者をいう。以下同じ。)の過失によるもの。
公衆の故意・過失 投石、電線の盗取、自殺等公衆(作業者以外の者をいう。以下同じ。)の故意又は過失によるもの。
伐木 電気工作物に接近した樹木を伐採したため電気工作物の機能に障害を与えたもの。
他物接触 樹木接触 樹木の傾斜又は倒壊による接触又は接近によるもの。なお、電気工作物の設置者が当然伐採すべき範囲の樹木の接触によるものは、「保守不完全」とする。
鳥獣接触 ねこ、ねずみ、へび、又は鳥類の接触、営巣等によるもの。
その他の他物接触 たこ、ラジオゾンデ、アドバルーン、模型飛行機、熱気球等の接触によるもの。
他事故波及 自社 自社の他の電気工作物の事故が波及したもの。
他社 自社以外の電気工作物の事故が波及したもの。
燃料不良 燃料不良 設計燃料と著しく異なる成分の燃料を使用することによるもの。
火災 火災 電気工作物に接近した家屋の火災、山火事、山焼き等の類焼によるもの。
その他 その他 各表ごとにその表の「原因」の項のいずれの分類にも入らないもの。
不明 不明 調査しても原因が明らかでないもの。

※事故に関する定義については「電気関係報告規則」を確認ください。

事故の原因も様々

配電設備の事故といえども様々な原因があることが分かります。当然、全ての事故についてひも解いていくのは骨が折れますので、とりあえず全体の事故件数から見ていきましょう。事故件数だけを列挙してもあまり意味がありませんので、冒頭にも述べた通り「事故の起こりやすさ」も一緒に見ていきます。ここで言う「事故の起こりやすさ」とは次の式によって得られるものであり、数字が大きければ大きいほど事故が起こりやすいインフラであると考えられます。

「事故の起こりやすさ[件/㎞]」=「事故件数[件]」÷「電線路亘長[km]」

2016年度 電線路亘長[km] 事故件数 事故の起こりやすさ[件/Mm] 事故原因TOP3
架空 高圧 700391 10223 14.6 1.樹木接触
2.風雨
3.保守不完全
低圧・特別高圧 572527 262 0.458
1272918 10734 8.43
地中 高圧 39851 215 5.40 1.自然劣化
2.製作不完全
3.公衆の故意・過失
低圧・特別高圧 4089 24 5.87
43940 239 5.44
2017年度 電線路亘長[km] 事故件数 事故の起こりやすさ[件/Mm] 事故原因TOP3
架空 高圧 702667 12893 18.3 1.風雨
2.樹木接触
3.雷
低圧・特別高圧 574150 316 0.550
1276817 12993 10.2
地中 高圧 40179 216 5.38 1.自然劣化
2.製作不完全
3.公衆の故意・過失
低圧・特別高圧 4143 26 6.28
44322 242 5.46

※[件/Mm(メガメートル)]=[件/1000km]

この表を見るともっとも事故が起こりにくい配電設備は低圧及び特別高圧の架空線、最も事故が起こりやすい配電設備は高圧の架空線ということになります。一方地中線では電圧に関わらず事故が起きています。

また、事故原因として架空線は野ざらしであるが故に自然によるものが多く、地中線では埋まっているので目視できないことによる事故や、ケーブル等配電設備そのものの不備によるものが多いようです。

これらの事実に関して自然劣化による事故はある程度仕方がないですが、製作不完全による事故はまだまだ地中線の設計及びメンテナンスの経験値が浅いから引き起こされる事故です。これらの事故は無電柱化が普及するにつれて減っていく事故であると推察できます。

しかしながら架空線においては、これから地球温暖化の進行と共に風雨被害は拡大していく一方であると考えられます。したがって風雨による事故数は年度ごとに増加傾向にあることが予想されます。

つまりあくまでも予想ですが、事故原因のTOP3から架空線は徐々に事故件数が増加していき、地中線は事故件数が横ばいもしくは低下していくのではないでしょうか

今度は事故の中でも「自然災害」に絞って「事故の起こりやすさ」を見ていくことによって「どちらがどの程度災害に強いか」を調べてみましょう。

自然災害による配電設備の事故件数

架空線・地中線の自然災害が原因で起こる事故件数のみをピックアップして調べてみます。架空線は近年激甚化する災害(特に台風)によって被害を受けているところをマスメディア等で取り上げられているところを見ますが、実際のところはどうなのでしょうか。

平成29年7月九州北部豪雨。豪雨の影響で電柱が折損している。

2016年に起こった災害といえば、熊本県を中心に九州に甚大な被害を及ぼした熊本地震(震度7)があり、2017年には20名を超える犠牲者や行方不明者を出した北九州北部豪雨がありました。

このような被害を最小限に抑える為にも、2016年と2017年の自然災害による各種電線路の「事故の起こりやすさ」を比較し、どちらがより強固なインフラであるかを確認します。

自然災害
2016年 風雨 氷雪 地震 水害 山崩れ・雪崩 塩・ちり・ガス 合計
架空 低圧・
特別高圧
22 39 47 8 0 2 3 121
高圧 1925 470 936 190 43 111 64 3739
1947 509 983 198 43 113 67 3860
地中 低圧・
特別高圧
0 0 0 0 0 0 0 0
高圧 2 0 8 2 1 0 0 13
2 0 8 2 1 0 0 13
2017年 風雨 氷雪 地震 水害 山崩れ・雪崩 塩・ちり・ガス 合計
架空 低圧・
特別高圧
66 20 59 0 1 5 0 151
高圧 4008 483 1234 10 16 144 63 5958
4074 503 1293 10 17 149 63 6109
地中 低圧・
特別高圧
1 0 0 0 0 0 0 1
高圧 5 0 7 0 0 1 4 17
6 0 7 0 0 1 4 18

まず一つ言えることは地中線の方が架空線に比べて圧倒的に自然災害に強いということでしょう。単純な数字だけで言えば自然災害に対して地中線は架空線の約300倍強いということになります。
しかしながら、全電線路亘長に対して地中線はわずか3%しかありません。したがって先ほどと同様に、地中線と架空線の災害に対する強さを比較するときには「距離当たりの事故件数(事故の起こりやすさ)」を見なければならないでしょう。以下の表は「事故件数/電線路亘長(事故の起こりやすさ)」の値を架空線と地中線で求め、その倍率を算出したものです。つまり、表の数字の値が大きいほど架空線が事故を起こしやすいことを表しています。

2016年 風雨 氷雪 地震 水害 山崩れ・
雪崩
塩・
ちり・ガス
合計
架空/地中 低圧・
特別高圧
× × × × × × × ×
高圧 54.8 × 6.66 5.41 2.45 × × 16.4
33.6 × 4.24 3.42 1.48 × × 10.2
2017年 風雨 氷雪 地震 水害 山崩れ・
雪崩
塩・
ちり・ガス
合計
架空/地中 低圧・
特別高圧
0.476 × × × × × × 1.09
高圧 45.8 × 10.1 × × 8.23 0.901 20.0
23.6 × 6.41 × × 5.17 0.547 11.8

※「×」は分母が0のため計算を行っていない。

これはかなりショッキングな内容であると思われます。つまり2016年、2017年共にすべての自然災害に対して架空線は地中線の10倍以上事故を起こすことが明らかとなりました。この倍率は距離に依らないので架空線が地中線に比べてかなり脆弱であることが分かります。
特に高圧架空線の風雨に対する脆弱性は無視できないでしょう。2016年には距離当たりの事故件数が地中線の約50倍以上となっており2017年にも同程度の水準であることが分かります。また2016年の地震でも高圧架空線は地中線の約5倍以上の距離当たり事故件数となっています。×の部分も倍率を出すことはできませんが、地中線の被害件数がゼロであり、架空線の被害は数10~数100件程度存在しているため、明らかに架空線の方が脆弱であることは間違いないでしょう。

当たり前と思われている電柱・電線が人々の暮らしを潜在的に脅かしているという事実が明らかになったのです。特に今後激甚化していく風雨災害に対して私たちが選択すべきインフラは何でしょうか?

まとめ

今回は距離当たりの事故件数を元に災害に対するインフラの強さを調べてみました。それによれば、風雨災害に関して架空線は地中線の約50倍程度事故を起こしやすいことが分かりました。また故によって停電が起きると、上水道の断水(高層マンションで水が使えなくなることは意外と知られていない)や信号機の停止、スーパーやコンビニなど、食品を扱っているところの商品のロス、インターネットへの接続不能など社会に対して多大な影響を与えます。
こういったことを防ぐためにも今後激甚化する台風への対策として、無電柱化を推進していくことがいかに重要であるかが分かったかと思います。

参考文献

電気事業連合会「電力統計情報」(2019/12/06アクセス)、https://www.fepc.or.jp/library/data/tokei/

経済産業省「平成28年度 電気保安統計」(2019/12/06アクセス)、https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/result-2.html

経済産業省「平成29年度 電気保安統計」(2019/12/06アクセス)、https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/result-2.html

Kazuhisa Tsuboki et al. “Future increase of supertyphoon intensity associated with climate change”(2019/12/25アクセス)
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/2014GL061793

補足

※1:「事故の起こりやすさ」とは当然ながら比喩であり、実際には耐久年数や実際の電線のケーブルの長さ、事故がどういう確率分布になっているか等様々なことを考慮に入れなければならないが、簡単のため「事故件数/電線路亘長」を「事故の起こりやすさ」と定義している。この手の議論については他に研究されたものが見当たらなかったため、正しい研究を待つことにする。