当NPOは今までも無電柱化の情報について多くの情報を発信してきました。しかし誰もが最も気になっている点、つまり「無電柱化をすることによって本当に得をするのか」ということが曖昧になっていました。

無電柱化は得?損?

無電柱化にかかるコスト非常に高額であるにも関わらず、具体的にどのくらいこちら側に利益が返ってくるのかが具体的に議論されている資料はほとんどありません。現実のお金の流れにはさまざまなパラメーターが絡み合っていて簡単に説明することはできません。

この問題に対してどのように考えていけばよいでしょうか。2014年に東京大学公共政策大学院から発表された「無電柱化に関する費用便益分析」という論文をもとに考えていきましょう。なおこの論文は東京都を焦点を絞って作られていますので、他府県に当てはまらないことを先に明記しておきます

またここでいう「得」は「得られる利益とかかる費用を比較したときに利益の方が大きいこと」を言います。

はじめに

まず、無電柱化には多くのメリットが存在します。市街地での防災能力の向上通りの景観の美化地域経済の活性化地価の向上など街づくりの一環として期待できる効果は大きいです。しかしながら、日本において無電柱化はほとんど進んでいません。日本の全道路での無電柱化率は1%、最も進んでいる東京でも全道路の5%と非常に低い水準です。(ロンドンやパリは100%無電柱化されています。)

ではなぜ多くのメリットが存在している無電柱化が進まないのでしょうか。その最も大きな理由は1㎞あたり5億円という非常に高額なコストが関係しています。国・道路管理者(地方自治体)・電線管理者(主に電気・通信事業者)が1/3ずつ費用を負担する方式がとられているわが国では、地方自治体の負担が大きすぎるという声も少なくないようです。

しかし無電柱化が明確に得をすると言われれば別ではないでしょうか。論理的に得をすることが分かれば反対している地元住民の方の理解も得られやすくなるのではないでしょうか。内容は少し複雑かもしれませんが、わかりやすく説明していきたいと思います。

高速道路を利用することによる利益 VS 高速道路を建設する費用

今回用いるのは「費用便益分析」という手法です。聞きなれない言葉であるとは思いますが、簡単に説明するために例を用います。例えば国道バイパス建設に関して費用便益分析を行う時の事を考えます。国道のバイパスが完成すれば交通時間短縮という「便益(=利益)」を社会全体に与えることができます。この便益とバイパス建設のための「費用」を比較し、「便益と費用との関係を分析すること」を費用便益分析といいます。

今回はこの費用便益分析を「無電柱化」に使い正当な評価を行っていきます。

大まかな分析の概要

まず得をするのか損をするのかを判断するのに「数字」を用いなければ公平な判断はできません。よって初めに「一般化されたモデル」をつくり,モデルの値がプラスになれば得、マイナスになれば損というところで判断できるのが理想でしょう。一般化されたモデルの導出は少し煩雑になりますので参考文献以下に記載しました。興味のある方は論文そのものを読んでいただくのが手っ取り早いかと思われます。

一般化されたモデルの導出は煩雑な計算が多数あるので割愛

次に都心の住宅地都心の商業地郊外の住宅地の異なる特性を持つ3つのケースを選定し、一般化されたモデルに反映することによってそれぞれのケースにおいて得か損かを判断します。

最後に一般化モデルをもとに「無電柱化すると得をする地域」を絞っていきます。これが分かれば無電柱化を行う際の論拠になりますし、住民の方にも安心感を与えることができると思います。

ここでいくつかの決め事をしておきます。まずは無電柱化の手法については電線共同溝を用いることにします。現在では様々な手法が研究されて実用されているものもありますが、分析が複雑化するため除外しています。

次に対象路線を決めておきます。都心の住宅地、都心の商業地、郊外の住宅地という条件を満たすために以下のように定めます。

表1.モデルケース
(ⅰ) 都心の住宅地 渋谷区広尾  106万円/㎡ 13,530人/㎢
都内でも有数な高級住宅街。辺りには各国の大使館が立ち並ぶ。
(ⅱ) 都心の商業地 千代田区九段北 214万円/㎡ 4,058人/㎢
皇居、靖国神社の近くに位置する観光地、商業地
(ⅲ) 郊外の住宅地 多摩市一ノ宮 25.4万円/㎡ 11,164人/㎢
郊外の住宅街。駅からほど近い位置に立地する。

渋谷区広尾

千代田区九段北

多摩市一ノ宮

最後に評価期間を52年と設定します。詳しいことは参考文献以下に記載しますが、地中線の建設期間を2年と仮定し、電線共同溝の耐用年数が50年であることを考慮した結果の値です。また社会的割引率は4%で、これを考慮することにより将来での便益を正しく評価します。

※社会的割引率・・・「将来生じる便益や費用を現在の価値でどのように評価するか」を考慮した割引率。例えば今年得られる10万円と20年後に得られる10万円では価値が違うとされていて、将来価値を現在価値に年4%の割合で割り引くという手法がよく用いられます。この計算を行った結果、20年後に得られる便益は6.8万円と計算できます。つまりこの例の場合20年間で得られる利益は20万円ではなく16.8万円であるということが分かります。
もっと早い話社会的割引率とは、「明日の百より今日の五十」ということわざを表現する手法であるといえます。

純便益を求める

無電柱化の便益を測る一般化モデルの導出はここでは割愛しました。興味がある方は参考文献以下に簡略化したものを記したので参考にしてみてください。一般化モデルの純便益とそれをモデルケースに当てはめた場合の純便益を算出することができます。

一般化した便益と費用
便益 景観の改善効果 319×(地価[万円/㎡])
ライフラインの安定化 5,504×(人口密度[人/㎢])-350万円
バリアフリー化 22,348×(人口密度[人/㎢])
費用 工事、整備費用、維持費 6.89(億円)

この表を用いれば一般化モデルの純便益は以下の式で表すことができます。

「純便益」=319×(地価)+27,852×(人口密度)-6.925億円

では表1に戻ってみましょう。

表1.モデルケース
(ⅰ) 渋谷区広尾  106万円/㎡ 13,530人/㎢
都内でも有数な高級住宅街。辺りには各国の大使館が立ち並ぶ。
(ⅱ) 千代田区九段北 214万円/㎡ 4,058人/㎢
皇居、靖国神社の近くに位置する観光地、商業地
(ⅲ) 多摩市一ノ宮 25.4万円/㎡ 11,164人/㎢
郊外の住宅街。駅からほど近い位置に立地する。

先ほどの式を使えば以下の表のように計算できます。

表2. モデルケースにおける各評価項目の推計結果
(ⅰ)
渋谷区広尾
(ⅱ)
千代田区九段北
(ⅲ)
多摩市一ノ宮
便益 景観改善効果 3.42[億円] 6.86[億円] 0.84[億円]
ライフラインの安定化 0.71[億円] 0.19[億円] 0.58[億円]
バリアフリー化 3.02[億円] 0.91[億円] 2.48[億円]
費用 建設費・維持費 6.89[億円]  6.89[億円]  6.89[億円]
純便益[億円] 0.26[億円] 1.07[億円] -2.99[億円]

無電柱化は得か損か

ここまで計算すればいろいろなことが分かります。無電柱化の工事をして得か損かを見極めることができます。ここで以下の表のように地点を設定して得か損かを調べてみましょう。

特性 東京における該当地域
(ⅰ) 都心の商業地 丸の内、銀座、六本木、渋谷など
(ⅱ) 市区の中心の商業地 各市区の主要駅前
(ⅲ) 高級住宅街 白金台、広尾、麻布、中目黒など
(ⅳ) 都心近隣の人口集中住宅街 文京区、中野区、目黒区

(ⅰ)都心の商業地

東京駅

都心の商業地は多くが非常に地価の高い場所であることは間違いありません。ここで仮に人口密度が0の地域と仮定しても多くの土地が多くの利益を得ることができます。例えば以下の土地であれば次のような形で純便益が求まります。

場所 地価[万円/㎡] 人口密度[人/㎢] 純便益[億円]
東京駅より0m 千代田区丸の内2-4-1 3,680 0 110.4
銀座駅より0m 中央区銀座4-5-6 5,720 0 175.5
六本木駅より0m 港区六本木4-9-5 928 0 22.67
渋谷駅より150m 渋谷区宇田川町23-5 2,600 0 76.02
損益分岐点 便益が0となる地点 217 0 0

実際に人口密度が0の地域などありませんから便益が0となる地価はもう少し低くなると思われます。したがって都心の商業地は基本的に無電柱化すれば「得」することが分かりました。また東京都では地価が約217(万円/㎡)以上であれば無電柱化で「損」をすることがないとわかりました。

(ⅱ)市区の中心商業地

巣鴨地蔵通り商店街

次に市区の中心商業地を確認してみましょう。計算の結果以下の表のようにまとめることができます。

場所 地価[万円/㎡] 人口密度[人/㎢] 純便益[億円]
御茶ノ水駅より450m 文京区湯島1-11-10 150 18,269 2.94
巣鴨駅より120m 豊島区巣鴨1-18-9 165 21,882 4.43
門前仲町より1m 江東区門前仲町2-5-11 172 11,538 1.78
阿佐ヶ谷駅より0m 杉並区阿佐谷南3-37-14 168 16,154 2.93
京急蒲田駅より0m 大田区蒲田4-15-8 131 11,661 0.502
府中駅より0m 府中市府中町1-1-5 161 8,709 0.636
京王八王子駅より70m 八王子市明神町3-20-5 159 3,114 -0.986
聖蹟桜ヶ丘駅より100m 多摩市関戸二丁目40番27 75.9 7,004 -2.55
立川駅より160m 立川市曙町2-32-3 105 7,370 -1.52
損益分岐点 東京都の人口密度平均 164 6,032 0
損益分岐点 東京都区部の人口密度平均 90.7 14,473 0

なお人口密度は各市区部での平均値を用いました。以上の表から東京都区部の商業地はおおむね「得」になりますが、市部の商業地では「損」になることが多いようです。また東京都の人口密度平均で計算すれば地価が約164(万円/㎡)以上であれば「得」になり、東京都区部の人口密度平均で計算すれば約91(万円/㎡)以上であれば「得」になります。

(ⅲ)・(ⅳ)高級住宅街・都心近隣の人口集中住宅街

多摩センター駅駅前

最後に高級住宅街や都心近隣の人口集中住宅街に関して調べてみましょう。ここで仮定を置きます。東京都区部の高級住宅街の人口密度を10000(人/㎢)とし、都心近隣の人口集中住宅街の人口密度を20000(人/㎢)とします。すると以下の表のように計算できます。

場所 地価[万円/㎡] 人口密度[人/㎢] 純便益[億円]
赤坂見附駅より220m 港区赤坂3-11-19 253 10000 3.93
自由が丘駅より300m 目黒区自由が丘1-24-5 120 10000 -0.312
恵比寿駅より400m 渋谷区恵比寿南2-7-6 118 10000 -0.376
田園調布駅より280m 大田区田園調布3-23-15 108 10000 -0.695
白金高和駅より200m 港区白金1-25-20 189 10000 1.89
中野駅より490m 中野区中野4-6-8 94.6 20000 1.66
聖蹟桜ヶ丘駅より100m 多摩市関戸二丁目40番27 75.9 20000 1.07
立川駅より160m 立川市曙町2-32-3 105 20000 1.99
京王八王子駅より70m 八王子市明神町3-20-5 159 20000 3.72

この表から分かることは地価が90(万円/㎡)~130(万円/㎡)の場所では無電柱化の損得に人口密度がかなり差を分けるということでしょう。実際に自由が丘駅や恵比寿駅の外れに位置する物件では「損」になり、聖蹟桜ヶ丘駅や立川駅の近くで「得」になりました。(ⅱ)の結果では多摩市や立川市の便益は負、つまり「損」をしている状態にありました。ここから考えられることをいかに述べていきましょう

(ⅰ)~(ⅳ)から分かること

さてここまでで何が分かるでしょうか。まず一つ言えることは地価が218(万円/㎡)以上の場所では人口密度にかかわらず無電柱化を行えば得になるということです。次に言えることは地価が約100(万円/㎡)~150(万円/㎡)程度の場所であればその土地の人口密度によって大きく左右されます。以上を簡単に表にまとめると以下のようになります。

地価(万円/㎡) 人口密度(人/㎢) 得か損か
218(万円/㎡)以上 0
100(万円/㎡) 13411(人/㎢)以上
150(万円/㎡) 7684(人/㎢)以上

また無電柱化が得になる人口密度と地価の関係は以下のようになります。

図の点は東京都の各市区町村の平均人口密度と平均地価をプロットしたものである。したがって、ここで「損」としている地域でも、駅前の繁華街や住宅街の密度によっては「得」に転じる可能性が十分に存在する。

このグラフ上の曲線の上部青領域が無電柱化をすると得になる地域、下部赤領域が無電柱化をすると損をする地域になります。このグラフに実際の地点をプロットしてみると少なくない地点で無電柱化によって利益がある地域が分かると思います。また付録として実際の地点の順位を掲載しておきますので興味のある方はご覧ください。

この表は東京都のみ使える数字なのでほかの府県では使うことができません。しかしながら確かに参考になる値であることは間違いありません。

注意点

当然以上に述べたことはあくまで目安にしかならない数字です。当然現実的には諸々の不確実性を考慮に入れなければなりません。またこの分析には3つの限界があります。

まず一つ目に通行人、無電柱化により利用可能になる土地、地震以外の自然災害の項目の検討です。この論文では「地震を除く自然災害はその発生確率は非常に低く、被災した際の停電日数が数時間程度と短いことから、費用便益分析の結果に大きな影響を持つとは考えにくい。」とされていますが、台風のことを考慮に入れるとそうも言えないのが現状でしょう。東京にも台風は頻繁に来襲しますし、ひとたび電柱が倒壊すればその被害は計り知れないものがあると考えられます。

次に計算方法に関して二重計算を避けるための処理が行われていない項目があります。これは今後改善していくとして保留されてあります。詳しく知りたい方は論文をご覧になってください。

最後に最も重要な注意点である「一般性の限界」です。便益の推計自体に限られたデータを使用しているために東京都内の一部地域でしか推計値を得ることができないのです。よってほかの研究でほかの値が算出されても不思議ではありません。また周囲で無電柱化がされていないときと進んでいる時では景観の改善の度合いが異なることがあるかもしれませんがこれも考慮されていません。その他にも様々な要因によってこの推計の一般性を阻害しています。

よってこれを起点としてさらに注意深い分析を持って無電柱化の評価とすることが不可欠だと考えることができます。

まとめ

ここまで書いてきたことをまとめてみます。無電柱化の損得を測るためにモデルを作成してその数式に値を代入することで無電柱化を行って得をする地域の特徴が明らかになりました。まず一つは地価が218(万円/㎡)以上であればいかなる人口密度の地域でも無電柱化を行えば得になります。同様に人口密度が24,863(人/㎢)以上なら問答無用で無電柱化をすれば得となります。

次に地価が200(万円/㎡)程度以下であればその土地の人口密度が重要になってきます。無電柱化が得になる地価と人口密度には比例関係が存在しています。つまり地価が安くなればその分人口密度が増えなければなりません。つまり東京都でも①都心の商業地は無電柱化を行うことによる利益が高く②市区の商業地や都心近隣の人口密集地では利益がマイナスになることも少なくないようです。

これらは絶対的な法則ではありませんが指針になるという意味でこの論文は参考になると思います。

参考文献

石井友梨他(2014)「無電柱化に関する費用便益分析」,東京大学公共政策大学院

樗木俊裕(2013)「駅前及び駅前商店街の街路景観における印象評価と価値評価」,東京都市大学工学部都市工学科

藤原史明、大江真弘、松中亮治、青山吉隆(2000)「住民の意識構造を反映した道路整備評価、土木計画学研究・論文集 No.17」

山口高広、河上省吾 (2008)「CVMによる交通バリアフリ-化事業の経済的評価法に対する研究」

周道浩司、杉恵頼寧、藤原章正、黒田英伸、上田隆博 (1998)「道路環境施設整備の定量的評価のための基礎的分析、土木計画学研究・講演集 No.21 」

深沼光(1997)「費用便益分析の現状と課題」

 



付録

一般化されたモデルを作成する

まず一般化されたモデルについて「『(景観の改善効果による便益)+(ライフラインの安定化による便益)+(バリアフリー化による便益)-(無電柱化にかかる費用)』> 0」のとき無電柱化を行って得をしたと捉えることにします。

この式に当てはめるために景観の改善効果、ライフラインの安定化、バリアフリー化のそれぞれの便益を具体的に求めなくてはなりません。具体的な推計の話まで掲載すると非常に複雑になりますので今回は求め方のさわりだけを紹介します。元の論文には非常に詳しく解説されてありますので、そちらを参考にするほうが良いと思われます。

景観の改善効果について

先行研究(樗木,2013)によると「無電柱化による景観向上の効果」は「無電柱化前の景観」によって変わることが分かっています。これをもとに景観の改善効果を地域の特性ごとに算出できるようなモデルを作っていきます。

ここで推計のモデル地区として多摩市を用います。理由は2つあって、一つは無電柱化施工済みの道路が把握しやすいこと、もう一つは無電柱化施工による地価の上昇率がほかの地域と大差なかったことです。

そして多摩市における2000年・2014年時点の地価や人口密度などを用いて「1㎞の道路を無電柱化することによる景観の改善効果の便益」を推計していきます。結果だけを言いますと以下の式により求めることができます。

「無電柱化施工前地価×地価上昇率の増分×利子率×無電柱化道路1㎞から半径50m圏内の面積×可住地面積割合÷(1+割引率)3 = 319」

無電柱化施工前地価をX(円)とおいて具体的な値を代入すれば以下のように求めることができます。

「1㎞の道路を無電柱化することによる景観の改善効果の便益 = 319 × X(円)」

ライフライン安定化について

無電柱化により、震災時に安定的なライフラインを供給することが可能になります。地中線が停電の可能性を大きく引き下げます。この項目では大規模地震に震災した際のライフライン安定化の便益を推計します。

この項目の推計には3段階のステップが必要です。まず、想定する地震を設定します。次に、震災が起きた際の「無電柱化していた場合」と「無電柱化していなかった場合」の被害額の差を求めます。そしてその被害額の差を地震発生確率及び将来の割引を考慮して現在の価値に変換します。

以降注意すべき点を挙げていきます。

地震の規模 マグニチュード7程度
震源域 東京都周辺ランダム
被害額 単位当たり被害額=再取得価格×標準被害率
架空線再取得価格 2000万円
地中化取得価格 5.6億円
標準被害率 震度7で6.88%(架空線)、4.7%(地中線)
間接被害額 単位当たり間接被害額=停電コスト×電力使用軒数×停電率
架空線停電率 停電率=19.5×(架空線被害率)0.35、各係数は阪神淡路大震災より推定
地中線の停電率 停電率=路上設置器損壊率=木造建物全壊率×損壊係数
地震発生の確率 地震はPoisson分布(毎年一定確率で発生)に従うとする。
ライフライン安定化便益 地震発生確率pとし、震災時の被害軽減額をV、毎年の割引率の和をα、ライフライン安定化便益BとすればB=pV/α

注意すべき点を考慮すればライフラインの安定化の便益の一般化モデルは以下で定義されます。

0.55×人口密度-350(万円)

したがって最初に設定した土地の地震が発生しなかった時の便益は

ライフラインの安定化 推計結果
路線住所 便益額(万円)
(ⅰ) 渋谷区 広尾 7,097
(ⅱ) 千代田区 九段北 1,884
(ⅲ) 多摩市 一ノ宮 5,795

次に地震が発生したときの被害軽減便益を計算します。ここでも注意事項をいかに挙げていきます。

各震度の発生確率 震度7:25%、震度6:30%、震度5以下:45%
直接被害額 復旧にかかる費用は地中線の方が高額なことを考慮してマイナスを作用させる。
間接被害額 1㎞あたり間接被害額=停電回避に対する支払い意思額×1㎞あたり停電軒数
間接被害軽減額 間接被害軽減額=0.598748×人口密度

これらのことを考慮するとモデルケースにおける間接被害軽減額は以下のようにあらわすことができます。

間接被害額(万円)
(ⅰ) (ⅱ) (ⅲ)
路線 渋谷区 広尾 千代田区 九段北 多摩市 一ノ宮
架空線 2,553 8,511 7,022
地中線 123 410 338
被害軽減額 2,430 8,101 6,684

以上より間接被害額のことを先述したライフライン安定化便益のモデルに反映させれば以下の式で求めることができます。

「ライフライン安定化便益」=(間接被害額反映係数)×(一般化ライフライン安定化便益モデル)÷(将来の割引率)

バリアフリー化による利用便益

大抵の場合無電柱化に伴って、歩道の拡幅や整備が行われることが一般的です。ここでは無電柱化工事の付随効果によって路線利用者が得られる便益を推計していきます。

バリアフリー化の便益の推計は以下の式で行います。
「バリアフリー化の便益」=(一人当たりの利用者便益)×(利用者人口)

つまりバリアフリー化の便益を推計するためには2段階の計算が必要となります。ここで注意することは一人当たりの利用者便益の推計は先行研究の数字を利用することとします。また利用者人口の推計は人口密度に依存するとして計算することと景観改善効果とバリアフリー化の便益を二重に計算することを防ぐために便益の及ぶ範囲を調整したことに注意を払う必要があります。

利用者便益は先行研究の平均額としバリアフリー化による便益の影響範囲から景観の影響を差し引いた値として計算すれば以下の式にまとめることができます。

「バリアフリー化の便益」=22,348×人口密度

無電柱化の費用

1㎞あたりの無電柱化の費用に関しては国土交通省の資料より工事費3.5億円、整備費2.3億円、毎年の維持費を0.004億円必要とされています。しかしこの数値をそのまま使うわけにはいきません

まず総務省の「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に従って地中化された設備の耐用年数を50年と設定します。また国土交通省の費用便益分析マニュアルに従って割引率を4%とします。実際の無電柱化の費用を推定するには耐用年数と割引率を考慮した「価値」を調べます。よって以下の3つの点に注意して計算します。

①工事費に関して、工事期間を2年であることを考慮すれば以下のように計算できます。

「工事費の実際の費用」=(1+0.04)2×(工事費÷2)+(1+0.04)×(工事費÷2)

②整備費に関して地中線の耐用年数は25年であるため、25年後ずつ現在価値を求めます。すると以下のように計算できます。

「整備費の実際の費用」=(1+0.04)2×(整備費÷2)+(1+0.04)×(整備費÷2)+(整備費)÷(1+0.04)25

③維持費は工事竣工後より発生します。耐用年数が50年であることを考えればそれらの現在価値は以下のように計算できます。

「維持費の実際の費用」=(維持費)+(維持費)÷(1.04)+(維持費)÷(1.04)2+・・・+(維持費)÷(1.04)49

①~③から1㎞あたりの無電柱化費用の価値は6.89億円と計算できます

 

以上 石井友梨他(2014)「無電柱化に関する費用便益分析」,東京大学公共政策大学院より

プロットの順位

順位 地名 地価(万円/㎡) 人口密度(人/㎢) 純便益(億円)
1位 中央区 821 12059 22.6
2位 千代田区 633 4047 14.4
3位 渋谷区 423 13533 10.4
4位 新宿区 326 17889 8.47
5位 港区 361 10085 7.41
6位 豊島区 145 21881 3.79
7位 台東区 138 17453 2.33
8位 目黒区 120 18253 1.97
9位 文京区 118 18269 1.93
10位 中野区 81.2 20189 1.29
11位 品川区 116 16078 1.26
12位 荒川区 60.6 19931 0.56
13位 墨田区 58.9 18007 -0.0293
14位 武蔵野市 99.1 12929 -0.161
15位 北区 65.8 16296 -0.288
16位 杉並区 61.7 16154 -0.457
17位 世田谷区 69.0 15102 -0.517
18位 板橋区 47.5 16656 -0.770
19位 練馬区 43.5 14869 -1.40
20位 大田区 62.8 11661 -1.67
21位 江東区 58.4 11537 -1.85
22位 江戸川区 39.3 13644 -1.87
23位 三鷹市 51.5 11277 -2.14
24位 足立区 36.8 12846 -2.17
25位 葛飾区 36.3 12721 -2.22
26位 狛江市 32.6 12324 -2.45
27位 西東京市 31.1 12398 -2.48
28位 小金井市 39.7 10490 -2.74
29位 調布市 39.1 10385 -2.79
30位 国分寺市 37.9 10509 -2.79
31位 国立市 38.3 9265 -3.12
32位 立川市 45.3 7369 -3.43
33位 府中市 33.2 8708 -3.44
34位 小平市 24.5 9141 -3.60
35位 東久留米市 22.3 9020 -3.70
36位 東村山市 21.8 8943 -3.74
37位 清瀬市 20.1 7272 -4.26
38位 多摩市 21.3 7004 -4.30
39位 日野市 21.7 6540 -4.41
40位 昭島市 20.0 6479 -4.48
41位 町田市 24.5 5961 -4.48
42位 福生市 20.4 5839 -4.65
43位 東大和市 17.1 6135 -4.67
44位 羽村市 13.8 5755 -4.88
45位 稲城市 22.3 4720 -4.90
46位 武蔵村山市 12.4 4557 -5.26
47位 八王子市 15.4 3113 -5.57
48位 瑞穂町 8.91 1990 -6.09
49位 青梅市 10.7 1349 -6.21
50位 あきる野市 9.97 1102 -6.30
51位 日の出町 8.90 592 -6.48
52位 小笠原村 5.22 26 -6.75
53位 奥多摩町 3.00 26 -6.82
54位 大島町 2.13 92 -6.83
55位 八丈町 1.64 113 -6.84
56位 檜原村 2.03 24 -6.85
57位 神津島村 7.87 100 -6.87
58位 新島村 7.47 103 -6.87
59位 三宅村 9.63 48 -6.88