日本各地の重伝建地区の無電柱化状況

※この記事は2021年夏のインターン研修をした学生の企画のもとで進めました。以下、その報告をします。

9月6日(月)15:00~16:00
場所:WEB・Microsoft Teams
参加者:インターン生:上田帆乃佳
井上事務局長、北村理事、塚田泰二
喜多方市 建設部 都市計画課 建築景観係 蓮沼主査様
同市 建設部 都市整備課 事業管理係 真下係長様

以下、上田からの質問と頂いた回答をご紹介させて頂きます。回答は、真下様、その後、該当する箇所のみ蓮沼様から追加で回答いただきました。


 

重伝建地区・無電柱化に関する質問への回答【1】
「事業管理係(無電柱化担当:真下様)」

Q1 御市の無電柱化の計画に関して、ご説明いただくことは可能でしょうか。参考になるような資料があればご提供いただけないでしょうか。

・社会資本総合整備計画 参考図面【資料①】
・裏配線平面図【資料②】
・無電柱化路線図【資料③】
・坂井四ツ谷線平面図(御清水東工区)【資料④】
・物件移転補償の説明【資料⑤】
・電柱移転補償の説明図【資料⑥】
・喜多方市無電柱化推進計画(令和2年10 月)
→【資料④⑤⑥】と喜多方市無電柱化推進計画は省略

21006喜多方市取材、回答&資料【1】(事業管理係)-6

21006喜多方市取材、回答&資料【1】(事業管理係)-4-5 (1)
※裏配線図は下図の下、矢印をクリックして下さい。

 

Q2 無電柱化された場所は(延長キロなどもお聞かせいただけたら) 

・重伝建地区内を南北に縦断する都市計画道路下勝稲村線において、重伝建地区内の路線延長約785mのうち、南町区間約200mの無電柱化を実施しました。【資料①・②参照】

Q3 無電柱化工事を施工した期間は

・工事期間としては、平成30 年度から令和元年度の2年間になります。

Q4 方式(電線共同溝方式など)や事業主体、事業費、補助金、今後の計画などの詳細について

・方式は裏配線方式、事業主体は喜多方市、事業費は約35,000 千円、社総交(街なみ環境整備事業)による補助金は11,000 千円です。

・今後の無電柱化に関する計画としては、本市無電柱化推進計画で定めた当該路線200m区間の整備は完了しているため、重伝建地区内の無電柱化は当面の間は予定しておりません。

・沿道の修理・修景の推進に伴う地域住民の景観及び防災に関する意識醸成が進み、無電柱化の必要性が生じた場合などには、検討の余地はあると考えます。

Q5 無電柱化をしようとする理由や目的、経緯は

・小田付地区は、かねてより地域住民が主体的にまちづくりに臨んでいる地区であり、本市と地域住民の協働によって、小田付地区のまちづくりのビジョンを取りまとめた「小田付地区まちづくり整備方針(H24 年3 月)」において、初めて無電柱化を目指す方針が記されました。また、続いて作成されたアクションプランである「小田付地区まちづくり整備計画(H25 年3 月)」において、南町区間の裏配線による無電柱化を検討することとなりました。

・当時、小田付地区と同じ在郷町として発展してきた小荒井地区内の主要地方道喜多方会津坂下線や本市役所前通りである都市計画道路坂井四ツ谷線において、電線共同溝形式による無電柱化が進められおり、小田付地区のまちづくりを担う方々がその路線整備の勉強会などに参加されたことも、小田付地区の無電柱化を後押しした要因と考えられます。また、地域住民の蔵のまちなみが残る南町区間の景観の向上と安全安心な歩行空間の確保を望む意見も踏まえ、無電柱化が具体的な計画になったと考えられます。【資料③参照】

・なお、南町区間は東西に裏通りがあり、電線地中化よりも事業費・期間の圧縮が可能であることから、裏配線方式を採用しました。

Q6 提案から施行までの期間に市民の方との交渉で苦労した点はありますか。市民の方々は無電柱化をご存じでしたか。

・無電柱化実施エリア内において、無電柱化の計画を知っている地域住民はほぼいませんでした。

Q7 市民から反対意見は出ましたか。

・当該路線の電柱がなくなるということに反対する方はほとんどいませんでした。

・しかし、実際に裏通りから電気を供給するために新たに設置が必要な引込電柱を建てたい土地や沿線家屋の所有者の同意を得る際には、多くの反対意見がありました。

Q8 反対意見があれば、具体的な内容を教えていただけないでしょうか。

・所有する土地に電柱を建てられると使い勝手が悪くなるので断る。

・景観に関する意見は人それぞれであり、電柱がある風景も良いと思う。

・これから新たな建物を建てる計画があるため、邪魔になる。

・私の土地に電柱が建つことで、隣の家に電気がいくのは納得できない。両方の土地に跨るように建てるなら同意する。

・自分の土地に電柱を建てるのは同意しないが、電気は今まで通り供給を。

・電柱を建てさせた場合、毎月いくら振り込まれるのか。そんな金額では同意しない。

Q9 賛成の意見があれば、教えて下さい。

・景観も良くなり、道路空間も広く安全になるなら賛成する。

Q10 Q8,9の市民の方々との合意形成以外でご苦労なさった点はありますか。

・電気及び通信事業者との協議調整と合意形成。

・裏配線の事例がほとんどないため、県や市及び事業者において、裏配線に関するノウハウがない。

・事業者が地権者の同意を得ようにも、裏配線の必要性や具体的な計画内容を説明できないため、市担当者が全ての地権者への説明を行い、同意の内諾まで取りつける必要があった。

・地権者及び事業者との裏配線に係る全ての協議調整や交渉、契約などを事業主体(市など)が主体的に行わなければ、裏配線の実現はかなり困難。

Q11 無電柱化を進めるにあたって、当初の計画とのギャップはありましたか。

・裏配線方式は、裏通りからの電気の供給にするという、平面図上では簡単そうな方式であるが、実際にやるとなると様々な問題点や課題が山積する方式で、裏通りがある全ての場所で実施できる方式ではない。

・主要な通り(無電柱化する通り)と裏通りが離れている場合、引込柱が要所に必要。

・電気の場合、需要家の受点までが電気事業者の管理区域であるため、受点と電気メーターまでの屋外配線は個人がやることとなる。そのため、各個人と補償契約を結び、屋外配線に要する費用を事業主体が負担するほかない。

・各地権者の要望に沿って、電気メーターの移設や地下埋設など、さまざまな設計が必要となる。

・電圧降下の計算に基づき設計しても、裏通りからの供給に切り替えると電気機器が正常に作動しない場合もあるため、慎重を要する。

・信号柱は残ってしまう。

Q12 無電柱化してからの住民、町全体への影響はいかがでしょうか。

 地域住民から以下の声をいただいた。

・見通しが良くなり、街並みがきれいになった。

・歩道が広くなり、安心して歩ける。

・鳥がいなくなり、静かになった。

Q13 これからの無電柱化に期待することや要望があれば。

・全ての無電柱化方式における、関係事業者との協議調整及び合意形成、各種手続きのDXによるシステム化と簡略化。

・新たな低コスト手法の開発と採用の推進

・裏配線方式や軒下配線方式など、事例が少ない方式の情報をデータベース化し共有してほしい。

重伝建地区・無電柱化に関する質問への回答(該当部分)【2】
「建築景観係(伝建地区担当:蓮沼様)」

Q1 御市の無電柱化の計画に関して、ご説明いただくことは可能でしょうか。参考になるような資料があればご提供いただけないでしょうか。

①小田付伝統的建造物群保存地区に関する計画
●小田付伝統的建造物群保存地区保存計画(平成30年3月30日)
⇒小田付伝統的建造物群保存地区保存活用計画(令和2年3月23日)
●小田付地区まちづくり整備計画(平成25年3月)
⇒小田付地区まちづくり整備計画【重伝建版】(平成31年3月)
●小田付伝統的建造物群保存地区防災計画(策定中)

Q10 Q8,9の市民の方々との合意形成以外でご苦労なさった点はありますか。

小田付地区では、平成25年3月に「小田付地区まちづくり整備計画」が策定されました。これを受けて、平成25年7月30日付けで、小田付のまちづくりを進めるための活動母体として「小田付まちづくり協議会」(以下「協議会」という。)が設立されました。その動きと前後し、平成25年7月12日付けで、小田付地区住民代表より市に対して伝統的建造物群保存地区を目指した調査実施の要望が出されました。

市教育委員会ではこれを受け、平成26年から28年にかけて各種調査を実施し、条例制定を経て、平成30年に伝建地区の都市計画決定を行いました。

以上の経過のとおり、小田付地区では、伝建地区を目指した取り組みと無電柱化を含めたまちづくり整備計画を同時並行で進めてきました。

当時、伝建地区は文化課、町並み整備はまちづくり課が担当しておりましたが、連携や調整、情報共有に課題があったと思います。また、文化課では、調査を行いながらということもあり、伝建制度に対してのノウハウが少なく、協議会や住民説明会時に苦労しました。

特に伝建地区決定年度となる平成30年度以降、より良い庁内や地区の体制、伝建制度の運用方法、伝建地区にふさわしい町並み整備等について、文化庁主催や全国伝建協の研修への参加、先進地へ行政視察等を積極的に行い、職員の専門性の向上を図っています。

また、令和元年度より、文化財保護行政とまちづくり行政の更なる連携を図り、保存地区に関する事業を円滑かつ効果的に進めるため、新たに都市整備課を設け、文化課とともに伝建地区の担当(教育委員会と建設部局の2課で担当するのは全国でも珍しいと思います。)としました。

都市整備課の中には、関連する各事業の連携や調整、情報共有を行いやすくするため、建築景観係、都市計画係、事業管理係の各係を置いています。

Q12 無電柱化してからの住民、町全体への影響はいかがでしょうか。

無電柱化工事は、平成30年~令和元年度に実施されました。伝建地区の補助事業(建物の修理、修景事業)も平成30年度に2件、令和元年度に4件実施し、特に令和元年度の修理では無電柱化実施区間の通りに面した建物3件を行った相乗効果もあり、地区内外の方から著しく景観が向上したとの話を聞いています。(逆に信号や標識、青い道路案内板や看板等が目立つようになったとも)また、これから街路灯の整備や道路の美装化が予定されていますが、意見交換会等への参加の様子を見ると、地区の人たちのまちづくりへの意欲が高まっているように感じます。

一方で、無電柱化を実施した南町とそれ以外の地区との歴史的な町並みに対する価値観やまちづくりに対する意欲に温度差があり、それが顕著になることが懸念されます。小田付伝統的建造物群保存地区には、5つの行政区(北町、南町、新道、西四ツ谷、東四ツ谷)が含まれていますが、伝建地区決定前から、伝建に対して意欲の高い南町・東四ツ谷に対して北町や西四ツ谷などはかなりの温度差がありました。これは、土蔵などの伝統的建造物が密集する南町・東四ツ谷に対して、北町は、伝統的建造物はあるものの小規模な木造建築が多く、建物の除却による空き地化も目立つようになっていることが理由として考えられるほか、まちづくりのリーダーが不在である等、人的要因も原因の1つであると推測されます。
とはいえ、現在は、北町も含めて保存地区となっており、「小田付まちづくり整備計画」も【重伝建版】として、全エリアを含んだ計画となっていることから、その意識や価値観が保存地区で共有されるよう、情報発信や普及啓発、事業の実施を行っていきたいと考えています。

喜多方市 提供資料より

Q13 これからの無電柱化に期待することや要望があれば。

まずは、無電柱化のメリットにもあげられますが、災害に強い点です。市では、令和2年度より、東京藝術大学等に委託を行い、地区の防災計画を策定するための調査を開始しました。今年度末に防災計画策定調査報告書をまとめ、令和4年度に小田付地区の「防災計画」として、保存活用計画やまちづくり整備計画と整合性を図りながら、策定する予定です。

また、電柱が無くなったことで、写真で見ても景観は著しく向上し、地区の建物や町並みがよく見えるようになりました。地区にある伝統的建造物やそれらから成る町並みは、単なるモノではなく、その町の歴史や文化が結晶化した地域の財産です。その価値を地区内外の人に再認識していただき、さらに、それが住民のまちづくりへの意欲、伝建制度や文化財への理解、町並みの継承に繋がればと考えています。(修理事業による建物や町並みの復活だけではなく、かつての市町としての賑わいの復活、建物や町並みの継承だけではなく、太鼓台(山車)や祭囃子等の伝統行事や文化、伝統産業や生業の継承にまで繋がればと思っています。)

Q14 無電柱化をするにあたって参考にされた重伝建地区などはありますか。

文化庁や全国伝建協の研修、行政視察等を行った地区は以下のとおりです。先述のとおり、無電柱化だけに限らず、体制や制度運用、伝建地区にふさわしい町並み整備等について視察を実施しています。

・弘前市仲町(実施済み)
・村田町村田(未実施)
・横手市増田(実施中)
・下郷町大内宿(実施済み)
・栃木市嘉右衛門町(実施予定)
・川越市川越(実施済み)
・高岡市山町筋(実施済み)
・高岡市金屋町(実施済み)
・金沢市東山ひがし(実施済み)
・金沢市主計町(実施済み)
・美濃市美濃町(実施済み)
・恵那市岩村町本通り(実施済み)
・郡上市郡上八幡北町(実施中)
・福山市鞆町(実施中)
・日南市飫肥(実施済み)